見出し画像

むるめ辞典

■運命

[読]うんめい

運ぶ命

[例文]
いつのことか全く記憶にない神秘の年に撮影された家族写真が実家に飾られていた。

父親の真剣な眼差しと母親の少し冷めた感じのする美しさが私たち兄弟のあどけない幼さを引き締めていた。

幸福感よりは規律正しさが滲む写真だった。これと全く同じ構図で現在を撮ってもらおうと弟が言い出して、数日後に実際に正装して写真館に向かった。

出来上がった写真をみると、父と母には厳しい規律の鞭に打ち付けられたようなシワが顔中に刻まれていて昔のような精悍さは失われていた。

兄弟は当時の父親より年を重ねていて、いつかの彼と同じように真剣な眼差しでこちらを見ていた。

それぞれのルールを生活に貼り付けて、遠いところで離れて暮らす家族に今では似ているところもないと思っていたけれど、母親の陰のある雰囲気も父親の目の輝きも兄弟はしっかり引き受けていた。

二つ並んだ写真を見ているとこうなることは最初から決まっていたみたいに見えた。

もうしばらく生きていくと、そのうちにこの写真から一人ずついなくなっていくんだと気づいた。自分がいつか死ぬぶんには良いけど他の誰にも死んでほしくなかった。

でもそれも最初から決まっていることなんだろうなと思いながら娘の頭を撫でた。

サポートしていただいたお金で、書斎を手に入れます。それからネコを飼って、コタツを用意するつもりです。蜜柑も食べます。