むるめ辞典
■昔話
[読]むかしばなし
昔の話
[例文]
聡明で背が高くて真っ黒な瞳が白目をほとんど塗りつぶしたオリエンタルの象徴みたいな顔立ちの同級生がいた。
私の友人たちは次々と彼女に挑んでは破れて夢のあとに涙した。一人の男子の涙が乾かないうちに違う男子が涙することもあった。
ほとんどの男子生徒諸君は、高嶺に押し上げられた彼女と話す機会があったり、話さなければならないような状況になると、花の摘み方を知らない水夫のようにぎこちなくなった。自分から話題を選定して会話を発展させるなんて出来る気もしなかった。
当時の私は背が低く、自分より背の高い相手に恋することは、成人した大人相手に恋するのと同じような感覚があったので、なにも緊張することなく彼女と話したし、グループで家に遊びにいったりした。
十年後に再会した彼女は品の良さを兼ね備えた長い髪の輝く美しい女性になっていた。笑った時にできる目のシワが親近感を感じさせて話しやすさもあった。
昔、私あなたのこと好きだったのよと彼女は言った。
熟れた林檎のようにお金持ちの手に落ちた彼女の平然とした目を見て、今の私にできることは何もなさそうだった。仕方がないからいつもより強いお酒をのみながら昔話をした。
サポートしていただいたお金で、書斎を手に入れます。それからネコを飼って、コタツを用意するつもりです。蜜柑も食べます。