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むるめ辞典

■空席

[読]くうせき

空いた席

[例文]
電車は今日も空いていた。席には座らず白い吊り革の手すりが列車の奥まで続いているのを立って見ていた。

こんな風に規則正しく吊るされていると、晴れた日に洗濯された白いシャツが並んでいるみたいで気持ち良いなと感心した。

いつもの混雑した車内では誰かの横顔しか見えないのでそれを眺め続けるわけにもいかず窓の外を見ている。

私はいつも朝陽の差し込む南側を向いて立っていて、影になった建物たちが左から右に流れていくのを見ていた。

建物の影が濃い時にはその分日射しも強くてスマホばかりをみている私を咎めるように黄と白の線になった光が私の顔をときおり刺した。

今日もその光に刺されて眩しいなあと思って見上げると、吊り革の手すりのように規則正しく並んだ桜の木が窓の外で花をつけていた。

淡い色に染まる並木をやさしくにじませた春の陽射しが右に流れ去るのを待ってスマホの画面をみた。

明日からの天気を調べたら晴れていたのでこの連休は明るい色のシートを敷いて花見でもしようと思った。マスクで塞いだ暗い気分が少しでも晴れるといいんだけどなと願いながら。


サポートしていただいたお金で、書斎を手に入れます。それからネコを飼って、コタツを用意するつもりです。蜜柑も食べます。