春ラン満

観光バスからぞろぞろ出てきた乗客みたいに羽虫の集団が中空に漂っていた。そしてランニング中の私の左目にダイレクトインした。剥き出しになった未舗装の石の塊を避けつつ、指先で目をゴシゴシこすりながら、暮れなずむ川縁をゆっくりと走った。

釣りをしている子供、バーベキューの片付けをしているグループ、犬の散歩をしているおばさん、ペースを守るランナー、太りすぎたカルガモ、つがいを追いかける名前も知らない鳥、いつもと変わらない景色。

右手に流れる川の水は澄んでいて、ブロンズに光る魚の背びれがゆっくりと水面を震わせて揺らし、波紋の筋を作っていた。

折り返し地点には昔話のおじいさんが出てきそうな竹藪と大木があった。その先にまだ伸びていく川の上を覆い、アーチになって風雨から守ってくれているようだった。

もう少しその先の景色を走ってみたかったけど、夕食の時間に間に合わなくなるので後ろ髪を引かれながら諦めて折り返した。

帰宅して洗面所の鏡をみると、髭が濃くなっている気がした。なんだろうと思ってよくよく見ると、汗に張り付いた羽虫が顔と首に無数にこびりついている。

ゾッとした。

春に川沿いを走るみなさん。コロナで街に人は減っているかもしれませんが暖かくなった川沿いに羽虫が多数外出しています。お気をつけください。やたらと虫が張り付いた自分の顔は決して気持ちの良いものではありません。

すれ違う人もびっくりするだろうしね。

いいことばかりはありませんが、みなさんも良い春のランを満喫してください。



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