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【連載終了】聖ポトロの彷徨

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『前任者の書』に記されし楽園「サバラバ」にやってきた一人の科学者が、なぜか無人の荒野と化したサバラバの謎に迫ります。容赦なく照り付ける灼熱の太陽、じわじわと迫る飢えの危機を超えた… もっと読む
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2019年1月の記事一覧

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第16回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第16回)

39日目か?

もういやだ。まだ階段が続いている。

最後の圧縮水分は昨日平らげてしまった。渇きと空腹に勝てなかった。

一体いつまで続くんだ。コムログもゲインに切り替えてしまって、表示が見えないから時間も計れない。ケミカルライトもケチりケチり使っているが、これが最後の一本だ。

明かりが無くなったらどうすればいいんだ・・・今から上に戻ったって、もう遅い。それに、上がったところで、待ってい

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第17回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第17回)

何日目かはもう分からないし、どうでもいい。そんなことより、記録だ。最後の記録を。

底は、あった。今私は底にいる。

死の淵に立つ私には、この驚くべき光景に感動している余裕などあまり無い。だが、この場所がちっぽけな私の最期を飾るには、身に余る絶景であることは、おそらく間違いあるまい。

その時が来る前に、ここにたどり着くまでの経緯を記録しておこう。

先の激しい地震の最中、私は激しく壁に叩きつ

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第18回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第18回)

49日目

昨日コムログを見つけた。電池は満タンになっており、ゲインからフルに切り替えても問題なさそうだった。
早速タイマーを確認すると、どうやら48日目のようだったから、あの時が何日目だったかは正確には分からないが、おそらく意識が戻ってから1週間ほど経過しているのだろう。

最初に目覚めた時、私を心配そうに覗き込んでいたノーラの表情を、私は今でも鮮明に覚えている。昔と同じ、普段顔でもなんだか

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第19回)

60日目

久々の記録だ。だが、これと言って記録することも思いつかないのだが。今回記録をする気になったのは、ベッドの下にあった私の薄汚れたしみだらけのバックパック(これでもかなり頑張って洗ったのだが)の中から、ごろんとこの古き悪しき相棒が転がり出てきたとき、退屈しのぎにと何となく手を伸ばしたのがきっかけだった。ただそれだけのことだ。

前回記録してからの生活は、それほど驚きに値する出来事もなく

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第20回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第20回)

68日目

考えたくはないことなのだが、私が今体験しているこの世界とは、一体何なのだろうか。

この素朴な疑問について、私はノーラに直接尋ねてみたことがある。だが、彼女もこの件については全く知らない様子で、私が目覚める以前のことも、全く分からないようだった。ただ彼女には、自分が一度死んでしまったという認識はあるようで、だから彼女いわく、ここは死後の世界なのではないか、とのことだった。

なんとも

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第21回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第21回)

《外部からの干渉検出:最優先》

・・・【自動記録開始】

「そうかあんたが。」
「前任者って呼ばれてるんだろ俺? ハハ、何を任されたのやらね。」
「ああ、ポトロってやつだ。・・・大役だったろ?」
「いやいや、そうでもないさ。ただ横になってただけだ。」
「で、何であんたがここにいるんだ?」
「まあ、せっつくなよ。順番に話そう。」
「待ってくれ。コムログに会話を記録させてもらう。」

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第22回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第22回)

75日目

あと1週間しかない。あと1カーマ以内に、私がその身の振り方を決めてしまわなければ、この楽園はノーラともども、跡形もなく消滅してしまう。

もう完全にチェックメイトといえる。これだけの条件を揃えられたら、私の取り得る選択肢など、実質一つしかないではないか。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

やがて起こる小惑星の衝突により、この海の惑星に新しく大陸が生まれたタイミングで、冷凍保存

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第23回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第23回)

83日目(回収予定日)

記録には『回収予定日』と残るだろうが、私が回収されることはない。

当初の予定では、この星に到着後すぐに、私は地球からの特使としてロヌーヌとの謁見を済ませ、地球圏との交流開始について会談した後、地球との相互ゲートを開くようサバラバ側に要請し、地球時間で3ヶ月間(サバラバでの1ロイロ4カーマ5ガインと半分)の実地調査を経て、私は無事帰還し、今度はその3ヶ月間で用意された

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(最終回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(最終回)

1702626262505日目

日没から2時間余りが経過した。黄色の月「ポソポ」は新月なのだが、残りの2つの月が両方とも満月、という珍しい暦の為に、今夜はかなり明るくなるはずであった。
やがて、地平線の向こう側から、ゆっくりと赤色の月「クリナリ」が昇り、はるか衛星から放たれるその緋色の光が、すでに天頂にある銀色の月「コントロ」の白銀色の光と混ざり合い融合し、街を薫り高い葡萄酒のような色合いに染

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