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『みんなのフォトギャラリー』より見出し画像をご活用頂いた記事をUPしていきます。
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#短編小説

なでなで

 まりちゃんが泣いている。声を殺して泣いている。  夜中。ひとりで声を震わせて泣いている。誰もいないと思って泣いている。  胸が痛いよ。僕がいるよ。声が届かない。  なぜまりちゃんが泣いているのかはわからない。けれど苦しくて痛くてやるせないのはわかる。まりちゃんの心はぱっくり割れて血が出ている。  どうして、まりちゃんに優しくしてあげないの?まりちゃんを撫でる腕を、抱きしめる腕を持っているのに。  僕には理解できない。僕がヒトならいっぱいぎゅっとするのに。  まり

『夢のかけら』

あっしたちが、こんなことしたくてやってると思いますか。 あなたならどうですか。 こんなこと、やりたくないでしょう。 そりゃ、そうだ。 それに、あなたたちが、あっしたちみたいになっちまったら困ったもんだ。 誰が、世界を動かしていくんです。 世界には、運転手が必要なんですよ。 もちろん、そうでしょう。 あっしたちは、働きもせずに人様の食べ残したものばかりを漁ってるって? そうでしょうね。 そう思われたんなら、あなたもまだまだまともな人だ。 安心なさい。 明日また目覚めたら、いつ

【ショートショート】3兄弟と3姉妹

 4月最後の日曜日のうららかな昼下がり、花子、桃子、桜子の3姉妹は、それぞれ友達との約束に間に合わせるため、バタバタとせわしなく準備をしていた。3人が靴を履いているときに、玄関の上がり框の手前で仁王立ちした花子ママが言った。 「ちょっと、あなたたち、ママとパパは今日ディナーだから、夕ご飯は適当に食べてね」 「分かってるよ、行ってきまーす!」  長女の花子が履き慣れないパンプスを気にしながら出て行った。 「行ってきまーす!」  次女の桃子がボランティアのタスキを肩に引

星屑が燃え上がる夜

詩人の心に火が灯る 書き連ねた詩に魂が宿る 回り続けて巡り続ける流れ 宇宙の流れは始めからそこにあった 本当の自分を知った時 本当の自分の物語が幕を開ける 星屑が燃え上がる夜 自分にも世界にも寄り添えた気がした ナビゲーターは鼓動のリズム 自然界のエネルギーが揺れる 永遠に続く魂のリレー 見方を変えれば破壊と再生は同じ 誰にも真似できないやり方で 一人一人がこの世界を作ってる 出会いと別れに光を見つける 起こる出来事を全て受け止める 望み続けて生き続けろ たった今から感

2人用AI

「おはよう」 朝起きると妻と同じ声が聞こえる。 僕が海外に単身赴任をするときに、妻がくれたAIロボット。 離れて暮らす夫婦をサポートするために、妻の会社の研究者が開発したそうだ。 「雨が降りそうだから、傘を持っていって。あと…なるべく早く帰ってきてね」 「うん」 僕は気分よく会社に向かう。 出張で日本に戻ることになった。 とんぼ返りだが、妻と食事をする時間は確保できる。 「よかった。…久しぶりだから、楽しんで」 言葉と裏腹に、妻のAIロボットが少し寂しそうなのは気のせいだろ

【詩】ちがい

あの人は少しおかしい あの人は何もできない あの人は皆と同じじゃない あなたから見れば そうですね あなたはなんでも押し付ける あなたは脅迫的である あなたは自分が正しいと思っている わたしたちから見れば どっちがどっちですか あの人は人知れず自分の病に 苦しみながら生きています 言いたくても言えないなか生きています あなたはそれを知っていますか そんなこと知らない 知らなければ何を 言ってもかまわないのですか これを拡散すれば 戦争になる

掌編小説307 - 頭隠して口隠さずの巻

数年前にウイルスが流行ってからというもの、この国もすっかりマスク文化というものが定着しましたね。 マスクは偉大な発明ですよ。我々にとってすこぶる都合がいい。口元を見られなくて済みますからね。……なぜってお嬢さん、人は嘘をつくとき、心理的に口元を隠したがるものなのですよ。 ゆえに我々がこのマスク文化の中で本当に注意しなければならないのは、マスクの下がどうなっているのかを観察し、想像することです。たとえばその口は裂けていないか。牙が生えていないか。彼らに手洗いうがいは効きませ

正月の訪問者

1月2日、世間的には冬休みである。僕は家でビールを飲みながら読書をしたりゲームをしたりと怠惰な生活を送っている。正月特有のお笑い番組を見ながら漫才師のかっこよさに惹かれたり、歌番組を見て歌手に憧れたりしているが、現実そうはいかない。 僕は普段は中小企業の営業として働いていて、企業としても年末年始の休みがあるくらいだから今の言葉で言うホワイト企業だろう。 ホワイトとブラックの区別も曖昧な時代であるから必ずしもホワイトではないのかもしれない。ただ僕がそう思うからホワイトである。

【短編小説】お雑煮

【利用規約(無料版)】2021/12/16 作成・利用時には作者名を明言してください。 ・または作者名と共に、noteやTwitterへのリンクを記載してください。 ・ご自身で読むのではなく、他の方に読んでいただく場合には、この記事のリンクをお知らせしてください。 ・自作、または自作と誤解を受けるような発言や記載はしないでください。 ・商用利用、投げ銭機能のあるプラットフォームでの利用はできません。 ・商用利用、投げ銭機能のあるプラットフォームで利用する場合には、記事の購入

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猫に導かれて【ノンフィクション短編小説】

本当だったんだ… 心の中でそう呟く。 踏切の赤いランプは交互に点滅し、何故だか気の遠くなるような音を、リズムを刻むように発している。その音を、時折ランプの光で赤く照らされる部屋の壁を見つめながら、窓際に敷かれたシングルサイズの布団の上で横になりながら静かに聴いている。 お風呂上がりの微かに火照った体は、夏の夜の気だるいような蒸し暑さのせいで、すでにうっすらと汗をかいていた。 12時を20分過ぎたあたりで、あれほどうるさく鳴いていた踏切が、パタリと静かになる。終電がなく

¥100

『傘神様』 ショートショートnote杯

 傘神様は天界から地上を眺めて困っていた。  朝の駅のホーム、傘でゴルフのスイング練習をしているサラリーマンに困っていた。周りの方に対して危険であるし、傘自体が迷惑がられてしまう。  傘神様の元に、ゴルフ神様が訪ねてきた。 「傘さんね、ああいうことされちゃあ参っちゃうよ。世間からのゴルフ人気がガタ落ちだよ」 「私もああいった使われ方は不本意なんですけどね。ちゃんと雨から身を守るために使っていただきたいのですよ」  神様達は、雨神様の元を訪ねた。どうすればいいものか相談し

 金魚鉢の中に、ただ一匹だけゆらゆらと黒い金魚が泳いでいる。  時折ブブブブと水中ポンプの音がする。この狭い世界で生きていく上で欠かせない存在。その音を聞くと、ほんの少し心がザワザワする。  彼女は何も言わずに水槽の中を漂っていた。性別は実のところわからない。でもなんとなく初めてこの金魚を目にしたときに、「あ、女の子だな」と直感で思ったのだ。それから私は「水際ちゃん」と名前をつけた。なぜかと言われるとそれもうまく説明できない。ただ安易に渚という名前にしたくなかった。ただそ

仮面を被った話の行方 #月刊撚り糸

「こないだね、知り合いの子が言ってたんだけど」   期間限定のフラペチーノを持って席に着き、彼が席に落ち着いたのを確認してからわたしは口火を切る。フラペチーノには専用の太いストローが付く。彼はそれを、今回初めて知ったようだ。 「ふうん。知り合いって?」  無造作にぐいっとストローを生クリームの山に差し込み、一吸いしてから彼は問うた。わたしは眉間に皺が寄るのを感じ、いかんいかんと瞬きをしてから答える。 「こないだ飲み会あったでしょ。そこで久しぶりに会った大学の子」  

小さな嘘

二人で歩く帰り道は、一人のときより随分早く感じた 他愛のない会話をしていると横断歩道が近づいてきた 「このままだと赤になりそうだから急ごう」 そう言って手を引いてくれた だけど… 「急いだら危ないよ」 とっさに出た一言 立ち止まった二人のそばを春風が通り過ぎた