見出し画像

正月の訪問者

1月2日、世間的には冬休みである。僕は家でビールを飲みながら読書をしたりゲームをしたりと怠惰な生活を送っている。正月特有のお笑い番組を見ながら漫才師のかっこよさに惹かれたり、歌番組を見て歌手に憧れたりしているが、現実そうはいかない。
僕は普段は中小企業の営業として働いていて、企業としても年末年始の休みがあるくらいだから今の言葉で言うホワイト企業だろう。
ホワイトとブラックの区別も曖昧な時代であるから必ずしもホワイトではないのかもしれない。ただ僕がそう思うからホワイトである。
そんな僕は今とても怠惰に過ごしている。これは幸せなことかもしれない。この休みの時間を友人と会うことで使う人もいれば恋人と過ごす人もいるし、僕のように1人で過ごす人もいる。そして僕は休みではあるが年始でも働く人は居ると思うし、今日が仕事始めの人だって沢山いるはずで、その人達はその人達なりに頑張っていると僕は思う。
こんなこと長々書いてもしょうがないので本題に入らせてもらう。

僕はこの日、宇宙人と遭遇した。いやはや、それは宇宙人ではないだろうと思う人もいるかもしれないが、紛れもなく宇宙人であった。
僕が書斎で文庫本を読んでいると、突然僕の目の前に所謂グレイマンのまんまの生命体が現れたのだ。そのグレイマンは自分を地球と似た環境からきた宇宙人だと言った。そしてグレイマンはずっと僕のことだけを見ている。
「あの、先程宇宙人とおっしゃっていましたけど、なんか証拠とかってありますか?いや、もちろん見た目が明らかに宇宙人なので、もしあればでいいんですが」
「コノミタメデハダメカ?」
「いや、全然大丈夫です。証拠をみせて頂きありがとうございます」
僕はこの得体もしれないグレイの生命体に臆していたため言葉が自然と丁寧になっていた。
「ちなみにどこの星からこられたのですか?」
「チキュウ」
僕は驚いた、まさか自分と同じ星の名前を宇宙人と名乗るものに言われるとは。そして改めて聞き返してしまった。
「え?」
「チキュウ」
「え、地球はここですよ?」
「モウヒトツノチキュウ」
「そんなのがあるんですか?」
「ソコノトビラカラツウジテル」
そう言ってグレイマンが指したのは僕の書斎の引き出しであった。その瞬間僕はドラえもんのタイムマシンが連想された。
「それって、ドラえもんみたいなものですか?って言ってもわからないですよね。」
「ソウ、ボクドラエモン」
「え、」
僕はこれがこのグレイマンの冗談なのか真実なのか理解できず一瞬言葉を失っていた。
「ボクドラエモン」
「ドラえもんってあのドラえもんですか?」
「ボクノナマエハドラエモン、アナタガイッテルドラエモンハワカラナイ」
「ああ。えーっと、どこでも行けるようなドアだせます?」
「ドコデモドア?」
「え、出せるんですか?」
ドラえもんと自称するグレイマンは僕の書斎の引き出しに手と思わしきものをつっこみそこからドアを出した。
「コレ?」
僕は驚きのあまり言葉に詰まっていたが、数秒経ち頷いた。
「ナンデモデキル」
僕はテレビに映っている売れていない漫才師のネタを盛り上げて欲しいと頼んだ。するとこのグレイマンはゲラゲライヤホンというものをまた僕の書斎の引き出しからだし僕の耳に付けさせた。すると会場がゲラゲラ笑っていて、芸人のネタが物凄く面白く見えた。
ただ、本当にドラえもんだとするのならばなぜ青くないのか、このグレイマンの言う地球とはと言う疑問が浮かび、僕はその疑問をぶつけてみた。
「アオクナイノハワカラナイ。ワタシのチキュウハコノ地球カラ300コウネンハナレタトコロニアル」
「300光年先ってこの間ニュースでやってたケプラーなんとかってやつですか?」
僕は地球に似た惑星が発見されたというニュースをなんとなく記憶していたので、直ぐに書斎のデスクで調べてドラえもんと自称するグレイマンに見せた。
「ナマエハシラナイガココダ」
ドラえもんと自称するグレイマンは指のようなものを僕のデスクに指した。
そしてドラえもんと自称するグレイマンは僕に伝えたいことがあるからここに来たと僕の部屋に来た理由を説明した。
「伝えたいことってどんなことですか?」
ドラえもんでは眼鏡の少年がダメ人間になるから来たという理由であったが、僕は大人であるし、現実的に考えれば僕に何かあるから来たとか、地球を侵略しに来たとかそういったことも考えられるが、地球に侵略しに来たならわざわざ僕のところに来ないはずである。ならば何か僕の身に降りかかるのだろうか。そんな事を考えているとドラえもんと自称するグレイマンは話し始めた。
「"フク"ヲクレ」
「え?」
また僕は驚いた。いや、何を言っているのかわからなかった。フク、福、服、腹、吹く。様々なフクという熟語が頭の中で踊り続けた。現実的に考えれば福か服の二択なのだ。
そしてドラえもんと自称するグレイマンは僕のお腹付近を指のようなもので示した。
「腹ですか?」
僕は服をあげて腹を見せた。
「チガウ、イマウエニアゲタ」
「ああ、服ですか」
僕は腹を取られなくて安心した。そして僕はドラえもんに家にある服を何着か譲った。
「アリガトウ」
そしてドラえもんは僕の書斎の引き出しから幸せそうに帰って行った。
その後僕は書斎の引き出しを開けて入ろうとしたが、勿論入れなく、引き出しは引き出しのままだった。
何故ドラえもんは僕のところ来たのか、何故服が欲しかったのか、何故日本語、いや地球語が話せたのかということは謎のままではあるが、あのドラえもんが幸せそうに帰って行ったのを見ただけで何故か僕も満足だった。
改めて、不思議な体験をした正月だったと思い次の日も僕は怠惰に本を読みビールを飲んで過ごした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?