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『クリームイエローの海と春キャベツのある家』を読んで

自分で自分のことをうまく認めてあげられないと、なんでこうも苦しいのだろう。誰かに認めてほしい、自分の弱さも含めて受け止めてほしいと思うのに、それを曝け出すことはできなくて、また自分を責めてしまう。完璧に見える誰かのようにできないとダメに思えて、きっとその相手も完璧じゃないのに、比べてしまう。それは家事だけではなく、人生のいろいろな場所で「コンプレックス」として私たちが向き合い続けてきたものなのではないだろうか。

完璧な人なんていないし、頑張りすぎなくていい。それを教えてくれる人と、私たちは支え合って生きているのだろう。それは家族かもしれないし、友達かもしれない。織野家のお父さんにとっての家事代行かもしれないし、津麦にとっての仕事の相談員かもしれないのだ。

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同棲を始めて1ヶ月は、私は何かにつけてぴりぴりとしていた。在宅でできるはずの仕事もどこかボタンが掛け違い、1Kから突然広くなった家を持て余し、そして同居人との家事の価値観の違いに、敏感になっていたのだった。元々怒りっぽくはないのに、怒りのままに文章を書くことすらあった。

「家の数だけ形がある。」とは、本書『クリームイエローの海と春キャベツのある家』の中でも書かれている。私たちは、私のぶんと彼のぶん、違う環境で育って、それぞれ一人暮らしのスタイルも身につけて、持ち寄ったいろんなルールでドッヂボールをしていたのだ。

「家事」は難しい。仕事を持ちながら片手間でやるには終わりがないし、やったとてまた明日には同じ仕事が生まれている。やらないと積み重なって生活の質をじわじわと落とし、でもやったとて素晴らしいよと誰かが褒めてくれるわけでもない。ひとり分なら適当に生活していてもどうにもなるのに、誰かと暮らそうと思うと、綻びとなって現れることが顕著なのだ。

『クリームイエローの海と春キャベツのある家』を読んで、生活を営む織野家のそれぞれの人たちに思いを馳せずにいられなかった。洗濯物の海の中で必死に生活する人たち。心のどこかで母の不在に気づきながらも、他の家族に心配をかけるまいと平気なふりをしている。彼らの本音が出てくると、人間らしい温度のあるものに触れた気がして、読者としてもその柔らかいものをなんとか救ってあげたいと祈るようになる。

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自分のことを棚にあげていうと、洗濯物の海は、我が実家にもあった。海というより、大河という感じで、玄関を入った1階から連なるように、玄関にも、2階の寝室にも、リビングにも、食卓の椅子にも、洗濯物の川が流れていた。今でも時々実家に帰ると、その衣類の数に圧倒され、でも2日いれば25年分の月日が戻ってきて慣れる。

もしかしたら私たちはゆっくりすり減っていたのかもしれないし、他の人たちには理解されない生活かもしれない。共働きの家庭で私は、ただ家に寄りつかない自己中心的な学生で、織野家とは事情も深刻度も違うけれど、つまり、こぼれ落ちた家事の中で暮らしの規模を小さくして生きていた。

できていないわけでも、やっていないわけでもない。
ただ、手のひらの窪みにためていた水が、指の隙間からこぼれ落ちるように、いくつかの家事がこぼれていっていってしまうだけだ。洗濯物を片付けることはきっと、そのこぼれた水なのだろう。

『クリームイエローの海と春キャベツのある家』P.123

どの家にも、何かしらこぼれた水がある。そしてそれは、誰かが必死で生きていない、家族を思いやっていないことを意味しているのではなかったりする。そして、こぼれた水は、必ずしも家事ではないのだ。家事は完璧だった津麦の実家には、コミュニケーションの綻びがあった。完璧ではない部分、歪みの強度は家庭によってまちまちだが、外から見える完璧さと幸福度が必ずしも比例しないこともこの本は教えてくれる。

共同体としての生活を、どう営んでいくか。それぞれが相手のためにちょっとずつしている遠慮があるなら、ただストレスとして積もらせるのではなく、お互いの生活をより良くしていく方にかみ合わせるための会話が必要かもしれない。他人を拒絶するのではなく、時に開示しながら見つけるべきなのは、がんじがらめの努力ではなく、生きやすい最適解だろう。全ての織野家のような家庭に、津麦は現れない。そんな時には、この本を読んでみてはどうだろうか。

最後に、織野家の春キャベツのように、鮮やかに空間を照らし、その瞬間だけ深く息をできる何かが、どんな家庭にもあったらいいと願いながら。



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2023年note創作大賞の受賞作、せやま南天さんの『クリームイエローの海と春キャベツのある家』の感想文です。せやまさん、改めて受賞おめでとうございました。


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