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短歌)旅に出るとき

今日は短歌の記事です。
よく聞いてもらうんだけれど、写真も自分で撮っています。今回使った写真は全てiPhone Xで。なかなか頑張ってくれる相棒です。

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東京で絶滅危惧の感性を
いたわり、ひとり旅は始まる

ひとり旅のはじまり。
私の中のなにかが、ゆっくりほころんで開いていく気がします。

飛行機の心音みたいに滑走路
かける祈りのポーズに似てる

どっどっどという音と揺れに、
誰かといっしょなら眠ることすらできるのに
1人だと残した人を思ってぎゅっと手を握ってしまう

要塞に天使が梯子を降ろすように
機内のきみに差す読書灯

機内の夜に、そこだけ綺麗な横顔が浮かんでいました

「ここで雨初めてだね」と飛行機で
聴いた声から始まった旅

雨の街についたとき、
誰かの声が聞こえました

一人旅寂しいねっていう人の
ほうが寂しいと言えなかった

自由な心が、解放されるのを望んだとき
どこにでも行ける喜びを噛みしめているんです

水平線朝を迎えにとぶ鳥を
追い越してきたロンドンの街

朝を追いかけているように感じた
あの機内

人はみな誰かに見つけてほしいけど
それを言えずにすましているの

知らない街を歩いている時も
見知った東京の雑踏にいる時も
そんな気がします

信号機だったら君が触れたから
赤く灯ってしばらく見てる

君がいてくれたら、
それでもこの旅に温もりがあったかもしれないね

果てたあと裸を抱いたヒロインが
聖母に見えた沈む客船

旅は、いつでもハッピーエンドではないらしい
それを学んだ映画があります

銃乱射ネットニュースが流れてく
隣のスーツの気配を探る

映画だけではなく、
現実でもあるらしい

意味もなく通りを一本進んだり
朝日の淡い街が好きです

観光地ではなく、
ただ一本裏道に入った
まだ起きていない街の空気

交差点右に曲がったくろねこの
人がつけてたみどりのマスク

旅先の日常を感じることが
ひとり旅では好きなのです

ひとり旅チケット買ったのはわたし
君に会いたくなるのもわたし

そうしているうちに、
君には会いたくなって、電話をかけてしまう

裏道で民家の角を二度曲がり
連れてこられたコーヒー屋さん

旅の出会いは
いつだって幸福なものとは限らないですしね

土曜日の朝のベンチで寝るひとを
はっきり避ける昨日の彼ら

ああ、都会の雑踏でもよくある風景

なぜいつも「大変熱い」と知っていて
機内のスープを頼んでしまう

帰る時には、
どこかでほっとしている自分もいました

ハノイ発成田へかえる飛行機で
次の旅路を乞う世界地図

帰りながら、次の旅先を求めてしまう
旅が終わらないのは、それが理由

積読のままの『ティファニーで朝食を』
行くはずだったあの街思う

行けなかった旅もある。
見られなかった街は、
いつかいく街のリストに残り続ける

地下鉄の駅の名前も知らぬまま
ただ住所だけ東京にある

自分の街に戻ってきて
東京は他人行儀だけれど、
それすら懐かしい

きみの手に包まれてるのは一ヶ月
前のネイルが禿げてるわたし

きみに会えたらと想像した日が来た時
自分のネイルが剥げかけだと気づくのは
何度目だろう

水いりのグラスがひとつテーブルに
残され彼が帰った夕べ

そしてまた週末は過ぎる。
日常へのいりぐちは、
次の旅への長い余興かもしれない


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