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2023年2月の記事一覧

story 時間

story 時間

なぁもう3分たっただろう?

いやまだ1分だ

なに!?
まだ1分しかたってないのか?

そうさ
まだ1分
今1分10秒たった

なんだよ
オレはもう5分以上たった気分だぜ

お前はせっかちなんだよ

お前は呑気すぎるんだよ

まったく時間てのは
過ぎるのが遅過ぎるぜ

ところであと何分だよ

あと30秒だ

えっ!
もう30秒か!

まったく時間てのは
なんて早いんだ…

このふたり
ラーメンを

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story I am an Apartment

story I am an Apartment

ここには幾人かの住人が住んでいる
少年だったり所在の知れぬ男だったり
長期間不在の旅人もいる
夕暮れになるとふらりと酒場へ
出かける女や
世間などまるで関係ないといった
ような老人
その他にも姿はなく気配だけのものが
いたりと
大そうおかしなApartmentである
それらの住人がいつから住み着いたものか
管理人の方は全く頓着せず
むしろ楽しんでいるようである

気になりますか?
このApartm

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story 先生

story 先生

大切なことって
叱られないように
することじゃなくて

叱ってもらえる
人がいることなんだよ

大人なると
みんな偉くなることばかり考えて
大切なことを忘れてしまう

だからね
謙虚さが大事なんだ

謙虚さってね
自分を引っ込めることじゃ
ないんだよ
自分で自分を
省みることなんだ

自分で自分を
叱るんだ

叱るっていうのは
声を荒げて怖がらせたり
言うことをきかせたりすること
じゃない

律す

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story 花

story 花

あるところに
花が飾られた花瓶があった
どうも気になり私は尋ねた

なぜこの花を選んだのですか?

なんとなく惹かれたからです
飾ってみたいなって

ユリが堂々とその花びらを開いている
他にもいくつかの花が
一緒に活けられていた

これは何だろう…

色も高さもどこか不自然だった

またあるところに
花が飾られた花瓶があった

それは私を呼び止めた
ほんの一瞬にも拘らず
私は振り返りその花を見た

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story この手紙を書いた人

story この手紙を書いた人

知人の誘いで訪れた教会
婦人が席で聖書を読んでいる

私ね、この手紙は八十を過ぎた人間の言葉だと思うの

独り言のように私に語りかけた

若い頃は分からなかった
けれどこうして読み返してみて思ったの

これは年をとった者の言葉だって
年をとらなければ書けない手紙だって

婦人はどこか嬉しそうだった
大切な何かを見つけたのかもしれない

この日のことを私は何度も思い出す

いつか私もあの婦人のように

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story 腔

story 腔

まあどうぞお聴きください

あぁ、聴こえます

これは水脈ですか?

そうです

あぁ、あぁ、良く流れている

少し打ってみますか?

宜しいんですか?

えぇ、もちろんです
さぁ

あぁ、これもよく響く

あぁ、なんて心地よい

あっ、今雫が落ちました
ほらまた…

地底湖があるのですか?
まるで鍾乳洞のようだ

どうです
他にも聴こえませんか

何でしょう…
何かが通り抜けて行くような

風で

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story 招福万来

story 招福万来

何をされているんですか?

あ、いやね、笑う練習ですよ

はあ・・・

おかしいですか?

え、いや・・・その・・・

仕事でして
職業柄笑ってないといけないもんで
暇さえあれば
こうして笑っているんですよ

御職業ですか・・・

ええ
どうです、ご一緒に

え・・・

騙されたと思って、ほら
あははははははははは

ほら、あなたも
あははははははははは

あ、あは、あはは・・あははは・・・

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story モールスと彗星

story モールスと彗星

モールスが途絶える
おい、軌道を外れるな
箒星が先陣を切って流れて行く
後続は荒くれ者の流星群

双子座のあたりを
いくつもの流線型が
先を競うように落ちていく

もう空がだいぶ回った
船首を上げろ
舵を取れ
モールスが激しく飛び交う

それらは大気に吸い込まれ
刹那の光を散らして消えゆく

儚いもんだ…
モールスはいつしか
弔いの音を響かせていた

story ホットケーキ

story ホットケーキ

ばぁばがホットケーキを
焼いています

あーちゃんは台所の
テーブルに座って
足をぶらぶらさせながら
ホットケーキが焼けるのを
待っていました

それで、どうだった?
くらべっこ

ばぁばが背中を
向けたまま
ききました

うん…
さやちゃんの方が
足が早かった

そう

そう…

あーちゃんは少し
ほっぺをぷーっと
ふくらました

さやちゃんは足が早いの
たっくんは絵がじょうずだし
それからまい

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story なんてことないこと

story なんてことないこと

目の前のことに一生懸命になって
あれこれ忙しくしているボクを見て
君はただ鼻歌を歌ってる

それで熱っぽくボクが語ると
なんてことないことだよ
と、君は言う

ボクはそのなんてことないことに
今日も一生懸命になって
あっちへ走り
こっちへ走り
あげく振り出しへ戻るなんてことも

そんなこんなで
汗をかいてはホッとして
また同じように繰り返す

君はねこじゃらしをクルクルしながら
ひとりごとみたいに

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