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story この手紙を書いた人

知人の誘いで訪れた教会
婦人が席で聖書を読んでいる

私ね、この手紙は八十を過ぎた人間の言葉だと思うの

独り言のように私に語りかけた

若い頃は分からなかった
けれどこうして読み返してみて思ったの

これは年をとった者の言葉だって
年をとらなければ書けない手紙だって

婦人はどこか嬉しそうだった
大切な何かを見つけたのかもしれない

この日のことを私は何度も思い出す

いつか私もあの婦人のように分かるものがあるのだろうか

ことばはこころ。枝先の葉や花は移り変わってゆくけれど、その幹は空へ向かい、その根は大地に深く伸びてゆく。水が巡り風が吹く。陰と光の中で様々ないのちが共に生き始める。移ろいと安らぎのことばの世界。その記録。