【ジェンダー・ギャップ】女性研究員は広告塔


女性活躍推進法に振り回される現場

研究開発職に限らず、女性社員を増やそうという動きは以前からあった。女性管理職の比率を上げようとする動きもまた同様だ。

その動きが加速しているように感じるのは、女性活躍推進法だろう。各企業・組織は独自の目標を掲げ、それを達成しようと努力している。なお、これらの活動は会社・組織、厚生労働省のWEBサイトでも知ることができる。

ただ、実際のところ、現場は混沌としている。その一部を紹介する。


「女性研究員が活躍!」には裏がある

主観に過ぎないが、研究開発職における女性活躍推進の取り組みは、社会に向けたPR活動と化しているように思う。以下、その内容を一部取り上げる。

企業が取り組む活動は、ざっくり挙げると以下に集約される。

・ロールモデルづくり
・表舞台への露出を増やす
・女性活躍度を毎年公表する

最も力を入れているのが、ロールモデルづくりだ。母数となる女性社員の増員は新卒・中途採用をフル活用、その中から男性優位な環境でも耐えられそうな人をピックアップ、ある程度勤務年数を経た人から順に声を掛け、管理職・リーダー職希望者を募る。

同様に、男性社員にも声をかけるが、候補の女性社員と同点の場合は……。ここはブラックボックスなので言及しない。もちろん、妥当な抜擢はある。しかし、周囲が疑問視するようなものもある。

その裏に、現場の管理職が自部署の女性管理職数の目標値を背負わされているという、トップダウンの意志が働いている。それを達成すれば、当該管理職(主に男性)は評価されるというメリットがある。

そうやってかき集めた数値が「女性が活躍している企業」としてランキングに載ったり、メディアに出たりする。

そして、見事生成された管理職や管理職手前の女性研究員、そして社歴の浅い女性研究員は、採用活動や男女共同参画の会合へ駆り出される。希少な女性研究員は、方々から声がかかる。

「女性が多く、働きやすい職場です」
「管理職になるチャンスが得られます」
「女性一丸となって一緒に頑張りましょう」

そう言わせたいのだろうか。

とはいえ、ここまでは女性研究員本人を見れば、その企業・組織の実態は一目瞭然かもしれない。問題は、女性活躍度を示す数値だ。特に、理系なら数字に騙されてはいけないよ。そこにもちゃんと裏がある。

例えば、女性研究員が筆頭著者となる論文や特許の出願数。これを見て、"女性が研究開発職としてのキャリアを積むことができる"とか、"女性研究員が活躍している"とか思うのはとても浅はかである。

一概にはいえないが、企業において、論文や特許は自社製品や技術を守るツールという要素が高い。もちろん、顧客や競合、株主、採用試験の受験を検討している学生や社会人に対する、自社製品や技術力のアピールツールでもある。

そういう位置付けであるがために、論文や特許出願は研究開発職の他の仕事と同レベル、時に、それ以下に扱われる。そして、執筆者も共同執筆者も微々たる報酬しか得られない。つまり、昇進昇給賞与に反映されにくいという点において、時間対効果はとても低い。

(そもそも、業務内で得られた知見や技術によってもたらされた利益は100%、その企業へ帰属されるという考え方に問題があるように思う。日本のノーベル賞受賞でおなじみのアレだ。理系職種と文系職種の賃金格差問題にも発展しかねないこの問題は、また別で執筆するとして…続きをどうぞ。)

当然、執筆に積極的になれる人は少ない。一方で、細かいルールに則ってきちんと取り組まなければ製品や技術が危うい。そこで、真面目で仕事をきっちりこなす女性研究員が抜擢される。

部下の教育に積極的でない管理職は、女性研究員に対して、管理職の"妻的"、チームや若手社員の"お母さん的"役割を求める傾向にある。本人も周囲も気づかないほど、それは自然に根付いている。

普段から、"私にも男性同様に仕事を任せてほしい"と、不満を抱える女性研究員が、「この仕事をお願い」と指示されたなら…。本人の承認欲求は満たされるだろう。しかし、その成果は評価されず、仕事自体も"妻的""お母さん的"役割の延長に留まる。


まとめ

女性研究員が広告塔にされている事実と、その背景を述べてきた。体験談を基にしているため、論述に偏りはあるかもしれない。しかし、同業者らと話すと、どこも似たような状況にあることが伺えた。

企業側(経営層や管理職)の上手いところは、女性研究員のやりがいを搾取して成果を生成しているにも関わらず、本人も周囲もWin-Winの関係を結んでいるかように勘違いさせている点だと考える。

キャリアの中断があると見越して、管理職が敢えて女性研究員に仕事をさせないというのは多々ある。男性多数、性差がモロに影響することがある職場では、女性のキャリアへの理解度が低いように思う。

そして、男女関係なく、一人前の研究員を育てる文化が醸成されている職場はごく僅かだろう。多くは、女性研究員の使いどころを間違えている。彼女らを広告塔にして、本人も、対外的にも、女性研究員が活躍していると勘違いさせるのはいかがなものか。

先に述べた、【男性優位な環境でも耐えられそうな人】は、なにも女性に限った話ではない。男性にも女性にも、個体差・グラデーションがある。女だけの問題では済まなくなっていることに気づかねば、企業も個人も社会から淘汰されるだろう。

最後に、男性優位の文化を変えずに、女性社員を増やそうというのは愚かな行為だと感じる。本人にも、周囲にとっても不幸な運命にある。そんな姿を嫌というほど見てきた。

以上

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