女性研究員のキャリアとライフイベント
女性のキャリアとライフイベントのタイミングについては、さまざまな媒体を通して、数多く語られている。
しかしながら、リケジョに特化したものは少なく(「理系女性の人生設計ガイド(青砥社)」が初見)、当事者の話を聞く機会はもっと少ないのではないだろうか。
進路選択や就職活動の渦中にある学生、在職中の研究員の中には、"迷い"や漠然とした"不安"を持っている人が、案外多いのだな、と感じることがある。
よくあるのは、後輩研究員からの相談だが、産後は、美容室に行けば担当美容師、病院に行けば看護師から、それぞれ相談を受けた。
皆、長い時間をかけて知識と技術を身につけてきた、経験豊富な専門職である。
このご時世、込み入った話は実験室(美容室や病室)で、周囲に人がいないタイミング、スキマ時間にこっそり行われている。
そのような機会に恵まれない人もいると思うので、"長い時間をかけて知識と技術を身につけてきた"女性研究員のキャリアと妊娠について、私自身や周囲の様子をお話しする。
キャリアとライフイベント
現在の日本において、企業の総合職で研究員というのは、大半が修士号か博士号を取得している。
※中には、学士号取得者や高専卒、高卒の人もいるが、ここでは、"大学院で理系学問を専攻し、学位を修めた人"をメインに話を進める
したがって、卒業時点の年齢は24〜27歳(+α)であり、世間的にはやや遅い社会人デビューを迎える。
入社後は、一斉に新入社員研修を受け、配属先でイチから仕事を覚える。
一社員としてひとり立ちするまでに、早い人は別として、およそ数年を要する。
それから数年後、ある程度仕事をこなせるようになり、後輩を指導したり、顧客と面談したり、たまに、製品紹介イベントや学会発表に登壇する機会を得ると、社内でも社外でもやれる自信を持ち始める。
私の場合、これが、30歳前後くらいだったと思う。
余談だが、このような実働経験があり、新人のような教育が必要ないという点は、即戦力として期待され、社内ローテーション(人事異動)や転職市場では有利な年代でもある。
ここで、私のキャリアと周囲のライフイベントを当てはめると、次のようになる。
●22〜25歳(大学院進学・就職)
学部卒の友人らの結婚ラッシュ
会社の数年先輩の男性研究員らの結婚ラッシュ
●26〜29歳(製品担当者)
学部卒の友人らの第一子出産ラッシュ
修士卒の友人らや同期らの結婚ラッシュ
●30〜33歳(役職付きチームリーダー)
学部卒の友人らの第二子出産ラッシュ
修士卒の友人らや同期らの第一子出産ラッシュ
以降、3〜4年を1周期として、友人らの子どもの人数が増えた。
このように、キャリアアップとライフイベントのタイミングは絶妙に重なる。
ここで、女性の産休育休について説明する。
きちんと制度を運用している会社の社員(元社員)が妊娠すると、多くの場合、産前6週間と産後8週間に産前産後休業(産休)を、その後、子どもが1歳を迎える前日まで育児休業(育休)を取得することが可能である(※1)。
※1:期間はこれに限らない。複数の制度があり、フレキシブルである。
私が知る限りでは、保育園の4月入園に合わせて、1回の妊娠出産につき、およそ1年〜1年半程休職するパターンが多いように思う。
復職後は、時短やフルタイムで勤務し、仕事に子育てにと、時間に追われる生活を送るのだが、次のキャリアアップのチャンスまで、つまり、何らかの成果を出すまで、研究開発では1年以上を要するだろう。
それを踏まえた上で、もう一度、上記のキャリアとライフイベントのタイミングを見てほしい。
ライフイベントに大きな波がない(と考えられる)同期の男性研究員と比較すると、女性研究員は妊娠出産毎に、キャリアアップが1周期ずつかそれ以上、遅れる可能性がある、というイメージを持つことができる。
そして、それは、給与に大きな差が付くことも意味している。
さらに、キャリアアップのチャンスを掴むための競争相手が後輩らに変わる。
この後輩らの多くが、仕事に使える時間が多い、独身や男性なのだ。
この状況をどう捉えるか。
化学薬品と妊娠
私の場合、30歳を目前に"キャリアと結婚、どっちを優先するか"脳内会議が開催された。
そして、この会議には、"妊娠のタイミング"が加わっていた。
というのも、普段取り扱う化学薬品に、毒物や劇物、生殖毒性の表記があるものも含まれていたのだ。
これは私の考えだが、いくら保護具や保護装置で身を守っているといっても、妊娠そのものや、妊娠中の体調、胎児への影響に対する懸念は、ゼロにはならない。
周囲を見ても、妊娠中の女性研究員の多くが、妊娠が分かってからすぐに、化学薬品を取り扱う実験業務から、反応生成物の評価や、デスクワークメインに切り替えていた。
それが可能な状態であれば良いが、チームの状況や部署の人員状況によっては困難であることは間違いない。
私が結婚したときの話だが、配置転換の申し出を警戒する同僚や上司の配慮で、担当顧客を減らされたり、ハードな仕事を与えてもらえず、細かい内勤業務ばかりになってしまった時期があった。
彼らが全て悪いわけではない、と、今なら思う。
彼らもどうやって仕事を割り振ればいいのかと悩んだ末の判断だったそうだが、お互いに、それについて話し合う機会を持つ必要があったのは間違いない。
また、妊娠に伴う配置転換の申し出に理解を示してくれる上司ならまだ良いが、ネガティブに捉える上司も少なくない。
人事評価で査定を下げられたり、望まない異動を命じられる可能性も全く無いわけではない。
まとめ
若い、独身、男性…
どんなに素晴らしい制度やシステムを整えても、選ぶのが人である以上、仕事に使える時間が多い人ほどキャリアアップに有利なのだろう。
そのように感じる出来事は、入社直後から沢山目にしてきた。
負けず嫌いを自覚している私は、自分がこの問題に直面したら、一気にやる気を失い、自分で自分の成長を止めてしまうかもしれないと思った。
だから、まずは10年働いてキャリアを築き、いろんなことにチャレンジして後悔しないようにと準備してきた。
おかげさまで、できることが増え、仕事に焦りは無くなったが、理不尽な処遇に遭い、悔しい思いをした。
コミュニケーション不足と言われればその通りだろう。
それでも埋められない差はどうしたらいいのだろうか。
悩む日々が続く。
以上
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