カズオ・イシグロの世界③個と外の世界の境界の消滅。
前回取り上げた『日の名残り』では主人公スティーブンスは限られた狭い世界に関わることを誇りにし、歳をとってからそれはそれで良かったのだと自分に言い聞かせた。
『わたしたちが孤児だったころ』では、主人公クリストファー・バンクスは10歳で孤児になる。戦前の上海の租界に住んでいたが、貿易会社勤めの父親とイギリスのアヘン貿易に反対運動をしていた母親が相次いで行方不明になる。クリストファーはイギリスに戻り、学校を卒業すると探偵になる。父親はイギリス政府とアヘン貿易を行っていた会社によっ