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パパ、透明人間はじめました。

ボクは家族に見えないらしい。

それに気がついたのは、ここ数年。
娘が中学生になる頃からだ。


「ただいまぁ。」

しーん。

毎日、家に帰っても誰も気づかない。
目線も合わない。
泥棒ネズミのように、冷蔵庫をゴソゴソあさって、冷たい残り物を食べる。


「おやすみ。」

しーん。

きっと、明日の朝、なぜか減っている食料に家族は驚くのだ。



「ボク、透明人間になった?」

確かめようと、コンビニで商品を持って出口付近をウロウロしたら、
レジの人と目が合った。

「温めますか?」

透明になるのは、家庭内限定のシステムのようだ。


家族で外食。
出かける道すがら、中学生の娘2人はママの両腕にぶら下がって、楽しそう。
僕は、1人後からトボトボついていく。
お店に入ったら、ママの隣りに座ろうとしてケンカする。

「私、ママの隣!」
「私が!」
「こないだ座ったじゃん。」
「その前2回連続で座ったじゃん。ずるいよ。」
「ジャンケンポン!…ちぇっ、負けた。あーあ最悪。」

…パパ、ここにいるよ。

昨日、テレビを観ていたら、バラエティー番組で全く同じようなエピソードが流れた。
ハハハハハと他人事のように笑ってから、我が事だと気づいた。
まるで判を押したように、そっくり。

ある休日のこと。
朝起きたら、3人がディズニーランドに行っていた。
うわ、それもおんなじ。

同じ境遇のパパたちがたくさんいるらしい。
そうか、ひとりじゃないんだ。少しだけ安心した。
世のお父さんたちは、よかれと一所懸命に働きすぎると、
きっと罰として、魔法使いに「透明」にされてしまうのだ。



ボクたち社会的マイノリティ―みんなで、
復権に向け『透明人間が姿を取り戻す会』でも結成しようかな。
いかに家族から見えないか、を自慢して盛り上がろうかな。
「これでも職場ではけっこうみんなから見えているんだぞ。同年代のパパより小綺麗にしてるし、けっこうモテるんだぞ。」って、ウソの見栄を張って傷をなめ合おうかな。


だから、
慰めに、子どもたちが僕になついてくれた頃のビデオを観てみた。
キャッキャッと家族みんな笑顔にあふれ、楽しそう。
そう、そうだよ、元々はこうだったんだ。心が癒された。涙がちょちょぎれる。

だけど…、
ボクがどこにも映っていない。
写真にも写っていない!どれも、どれも!
デジタルデータ上でさえ、ボクは透明に?どうして!?記録からも抹消されるのか!?
おいおい、魔法使いさんよ、やりすぎでしょ。職務熱心にもほどがある。

と、そこで気がついた。

…そうか、全部ボクが撮ってたんだ。


いつまで続くのだろう。
家族への片思い。

魔法使いさま。
どうかお許しいただけませんか?

洗濯だって、食器洗いだって、片付けだって、今以上にもっともっとやります。いや、喜んでやらせていただきます。
足りなかったら、街を掃除するクリーン運動や、横断歩道誘導もします。
レジ横の箱に募金します。バンクシー見つけたら壁をきれいに掃除します。


どうやったら、魔法が解けるのだろう?
ボクが見えるようになるのだろう?


そんなことを考えていた、ある日。

「パパ、パパ。」

と珍しく娘が話しかけてきた。


うそっ!見えるの!?


やたっ!やたっ!見えるようになったんだ!
念じてたら通じたのかな。もしかして…魔法がとけた?

どこからともなく聴こえるハープの音色。雲間から光が差し、娘の頭上に、天使の輪が見えた。ハッキリと。
ボクは嬉しくて、テンション爆上がり。

落ち着け。落ち着け、自分。
咳ばらいをひとつ。

「なんだい?」

ニヤニヤ聞き返すと、

「これ買って。」

とネットショップのサイトを見せ、「ママに頼むとかわいそうだから。」


なるほど。



ママ思いなのはいいことだね。
いい娘に育って、パパは嬉しいよ。うん。




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