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"COPY BOY" ぼくのクローンは小学生⑩【ふたご語?】

ワケあって、大学生の僕はクローンと暮らしている。ヤツは小学2年生。8歳の子どもだ。
顔は、幼い頃の僕と全く同じ。ジャンケンすると決着がつかない。
なんで、こんなことになったのか。よかったら、そのワケを聞いてほしい。
(※第1話へ)

<夏、第10話>

「あんたら、汗だらだらやんか。風呂場行きぃ」
うだるような暑い午後。ばあちゃんがソーメンを用意する間、僕とチビは水風呂に入った。
水中メガネに海パン。バスタブに体を沈めると一度は息が止まるほどの冷たさに、

「ひょー」
「ひょー」

と2人して声をあげたが、あとから次第に馴れが追いついてきた。最高の気持ち良さ。今度は味わうように抑え気味に、

「ひょー」
「ひょー」

と息をもらした。

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潜るとそこは、窓から差し込んだ光がゆらめく美しさ。秘境の洞窟の地下水路だ。
水の中でチビと顔を合わせる。昆布のように揺れる前髪。水中メガネのゴムで横に引っ張られた目。シュノーケルを咥えたゴリラのような口元。互いの変わり果てた姿を見て、思わず噴き出して笑ってしまう。
水上のシュノーケルの先から、

「ホホホヘヘヘ」
「ホホホヘヘヘ」

と笑い声が風呂場の壁で反響し、頭上から他人の声のように水中に降ってくる。

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水から上がると、腰にまとわりつく海水パンツを引きはがし、バスタオルで体をぐるりと巻く。
すっかり冷えた体で畳に転がると、頬にあたるイグサがほんのり温かくて気持ち良かった。

庭で揺れる洗濯物。午後の柔らかな光の筋。蚊取り線香のくゆる煙の匂い。ぼぉっと眺めて美しさにのめり込んでいる。
チビとたわいもない話をしていた。

「今、なんて言いました?」

白い足が覗き込んだ。猫ちゃんが知らない間に来ていたのだ。
「え?」
「今、2人変なことばで話していましたよ」と不思議そうにチビの髪をタオルで拭く。
「変なことば?」
「自覚ないですか?」メガネに当たりそうな長いまつ毛で瞬きをする。
「全然。」
「”べーなー”とかなんとか。逆再生みたいな変なことばでした」
そんなふうに言われても、
「そうかなあ。普通に話してたと思うんですけど。」
チビに「なんか変なこと言った?」と聞いても「ううん、なんにも」と気持ちよさそうに頭を拭かれている。
「じゃあ」と、猫ちゃんが、壁のカメラを見上げた。

慣れた手つきでタブレットを操り、カメラの映像をピックアップして、再生すると、ザラついた映像には、僕とチビが2人で寝転びコソコソ話している姿が。

”にぃーぼーぬまぼーれーたーろー”
”べーてなー”

「これ…、フタゴゴ、ですね。」

猫ちゃんは医師の診断のようにさらりと告げた。
ソーメンのガラスの器をばあちゃんがテーブルに運ぶ。僕はつゆに茗荷を散りばめながら尋ねた。
「なにゴゴ?」
「ふたごごです。双子語。双子同士が話す、特別な言葉です。」
「特別な言葉って?」
僕ら普通に話しているつもりだけど。

チビは興味なさそうに、ソーメンの上の氷を箸でつついている。腑に落ちていない僕を見て、猫ちゃんは、聞きます?とばかりにソーメンをすすって咳払いした。
「双子って、生まれてから言葉を覚える前なんですけど、2人だけの言語を作って話すことがあるんです。双子をもつ親御さんには”あるあるネタ”なんですけどね」と細い小指でなにやら検索する。
くるくると回るサーチ表示を待つと画像がポンと現れた。外国人の女の子2人。可愛らしいが、ずいぶんと古い写真のようだ。

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「有名なのはポトとカベンゴです。1970年代のアメリカ、ジョージア州で、8歳の双子が自分たちだけの言葉を話していたのが発見されたんです。」
「自分たちだけの言葉…」
「ええ、いくつか複数の単語を崩してつなげ、新しい一つの単語に変化させる。スタッカートみたいなリズムを持っていて…。まさに、さっきのユタカさんたちと同じですね。」
そう言われても、自覚なんてない。「僕たちが?ちゃんと普通に話してましたよ」
「無意識なんですね。」
「コワイなぁ。気づかないうちに、言葉が変化していったってこと?」怯えながらソーメンをすする僕が滑稽に見えたのか、フフと笑って、
「でしょうね。それほど自然に。これも貴重な学術的資料になりますね。」内閣府付特別研究員としての探求心がのぞく。「で、コソコソなんて言ってたんですか?」

”にぃーぼーぬまぼーれーたーろー”
”べーなー”

「チビが『兄イ、ぼくのうまか棒、食べただろ』って疑うから、僕が、『食べてない』って答えただけですよ。」
「食べてない?」
「はい。べーなー。」
「べーなー…べーてなーぃ…たべーてなーぃ…食べてない。ああ、なるほど」猫ちゃんが空で繰り返す。

「絶対食べた!」チビが蒸し返した。
「箸で指すなよ」
「1つ足りないもん」
「そうかなぁ」
「数えたもん」
「算数弱いくせに」
「返せ!」
「はいはい、うるさいな」
「返せ!」
「はいはいはいはい」
「いつ?なんじなんぷんなんびょう!?」

そんな僕たちを眺めながら、
「貴重な学術的発見が、うまか棒って...」
猫ちゃんはあきれたように笑った。


(つづく)

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