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コンピテンシー面接~科学的手法で絶対に成功する採用面接~終わりに

1.総括

採用は企業にとってとても重要なプロジェクトであり、HRのコンサルタントとしてさまざまな負度で企業における「人」のテーマに携わっている私にとって、新たな人材を組織に導入する「採用」は、興味の尽きないテーマであることは間違いありません。


特に、数年前、「ビジネス社会あるいは企業組織の中で、個人のキャリア形成はどうあるべきか」を自分なりに追究し、「キャリア」についてあらためて勉強をしたことをきっかけに、個人が職業を選択する(すなわち、就職する)ということの重みと、企業にとって採用とは何かというテーマとが、さらに深く結びつきました。

そういう視点で、企業が取り組んでいる「採用」のあり方、また一方では、就職活動をしている「学生」の意識、その両方を見据えたときに、その実態があまりにも表層的であることに対して、さまざまな問題意識をもちました。

また、日本だけでなく海外で仕事をしていても、優秀な人材の採用にはマネージャーの関心は高く、企業価値を高めるために「価値ある人材」を採用することが、切実なテーマとなっていることを肌身で実感します。

MSCで、人材アセスメントのテクノロジーをさまざまなHRの場面で活用してきた者として、採用面接を中心に「コンピテンシー評価」というきわめて優れた人材評価手法とその有用性、あるいは幅広い活用法をテーマに、本コラムを書きあげることができました。そして今、ひと仕事をやり終えた安堵感を味わうとともに、採用というものの奥深さに思いをいたしています。

学生たちは、リクルーティング支援会社が教える「自己分析」なるものを面接ノウハウの一つと見なし、自らの持ち味や志向性を顧みることも、また自らの将来を見据えることもなく、ただただブランド企業や有名企業の採用試験合格に腐心するだけ。一方、企業側も自社の事業特性やカルチャーを考えることなく、いわゆる優秀な学生の確保と採用予定人数の充足に全力を傾けるというのが、私の目の前に展開されている光景でした。

本コラムはその性格上、企業サイドの視点に立って書かれていますが、私の想いの中にあるのは、学生のみなさんには就職というものをもっと真剣に考えてほしい――自分の能力や長所を生かすためにはどういう会社や職種に就いたらいいのか、あるいは将来どういう仕事をやりたいのか、そのために必要なキャリアは何か等々をじっくり考えたうえで会社を選んでもらいたい、ということです。

それとともに、企業もまた自社にとって必要な人材と能力要件とは何かをきちんと策定し、それを確認・評価するためにこそ採用プロセス、ことに採用面接という場を位置づけていただきたいと思っています。

一期一会という言葉がありますが、採用面接もまたそれに近い出会いの場ではないでしょうか。何かの縁(えにし)があってせっかく出会ったのですから、面接のあいだは応募者の可能性を探ることに面接官は注力していただきたいのです。

たしかに面接は、応募者をふるいにかけることを目的としています。けれども、採る採らないは最後に決めることであって、その向こうには「採用したらこの人をどう活かすか」を見定めるという目的があるはずです。人を活かすということにネガティブチェックはなじみません。

面接官の方には、「応募者は何ができないか」ではなく、「何ができる人なのか」という視点で面接してもらいたいのです。

面接とは、応募者からできる可能性のある「何か」を見つけだし、それが自社の求めている「何か」に合致するかどうかを判断する場だと私は考えています。基本はプラスを探すこと。それがコンピテンシー評価の本質ではないでしょうか。

面接をこのように捉え直すだけでも、その進め方や質問の仕方はずいぶん変わるでしょう。そして、採用試験のあり方、面接のあり方が変われば、きっと学生たちの就職に対する意識も変わるはずです。

じつはこのことも、私が本書にこめたささやかな希望にほかなりません。

そしてもう一つ、アセスメントを仕事としてきた立場からいうと、少々奇異に聞こえるかもしれませんが、人を評価することの怖さというものを、私は本書を書きながらあらためて感じさせられました。

MSCでの仕事の一環として実際の面接現場に立ち会えば立ち会うほど、また面接官に対して評価方法へのサポートや助言を行えば行うほど、人を診断し、評価することの困難さを実感せずにはおれません。

採用面接にかぎらず、人事考課や昇進昇格の選考もすべてそうですが、その結果が極論すれば人一人の人生を左右しかねないことに思いが至るにつけ、ことに評価者自身の価値観や尺度だけで簡単に人物がわかった気持ちになっていただきたくないな、というのが私の偽らざる気持ちです。

もちろん、人が人を評価することに絶対的な正解はありません。しかし、評価が必要なときは、その危うさや怖さを、心の中に汲み入れて謙虚になるということが、まずは評価を行う者の心構えだと思います。そして、その謙虚さがあるからこそ、「コンピテンシー面接」の考え方や手法、スキルをきちんと学びとり、評価を誤らないように、できるだけ多くの行動情報を収集し、それを評価の場で実践することが、ますます大切になってくるのではないでしょうか。

このこともまた、私が本コラムをしたためた動機の一つでした。

先に私は、いわゆる「面接本」でマニュアル対応している学生たちに批判じみたことをいいましたが、企業サイドが面接重視といいながら、じつはマニュアルで対応できるような面接をしているから、学生もまたマニュアルに走るのではないでしょうか。ここにも「コンピテンシー面接」を基軸に据えるべき大きな意義があります。

というのも、「コンピテンシー面接」は応募学生に対して、「あなたはどのような学生生活を送ってきたのか」を行動質問によって問う面接だからです。

行動はごまかせない。ですから、学生は自身の学生生活を潤色することも、採用面接の傾向と対策をマニュアルに即して立てることもできません。コンピテンシー面接では、ありのままの学生生活の内容が――そこで繰り返された行動事実が――そのまま評価の材料に供せられるのです。

企業が採用面接においてこのようなアプローチの仕方をするようになると、学生の意識も徐々に変わっていくでしょう。学生時代に、勉学も遊びもクラブ活動もすべてを含め、いろんなことを体験し、さまざまなチャレンジを繰り返し、意味のある充実した学生生活を送ってくれることを私は願っているのです。

そうした学生が増えてくれば、企業が求める「優秀な学生」の母集団は着実に大きくなるでしょう。いや、それだけではありません。政治・経済そして文化の各領域で、日本の活力を支える若い人たちの層が間違いなく厚くなるはずです。

企業のコンピテンシー面接が、そしてそれを実施するという企業からのメッセージが、学生の生活のあり方を変え、学生自身のキャリアの意識が高まり、それが企業自体の競争力、ひいては日本の活力までも強化する――このひと筋の道程が、現実のものになればと願っています。

【著者プロフィール】 伊東 朋子
株式会社マネジメントサービスセンター執行役員 DDI事業部事業部長。国内企業および国際企業の人材コンサルティングに従事。

お茶の水女子大学理学部卒業後、デュポンジャパン株式会社を経て、1988年より株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)。

人材採用のためのシステム設計、コンピテンシーモデルの設計、アセスメントテクノロジーを用いたハイポテンシャル人材の特定およびリーダー人材の能力開発プログラムの設計を行い、リーダーシップパイプラインの強化に取り組む。
(※掲載されていたものは当時の情報です)

2.おすすめソリューション

3.会社概要

会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント


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