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人材アセスメント~ヒューマン・アセスメント(HA)実施の多様化の現状

ヒューマン・アセスメント(HA)技法の活用が多くの企業に拡大していくとともに、多様化への期待と現在当面する問題点がより一層明確になってきました。

ヒューマン・アセスメント(HA)はこれまでマネジメント・アセスメントが実施例として最も多かったですが、人的資源の活用を考えるとき、それにとどまってはいられなくなってきました。ここでは多様化の傾向の一つとして、やや異なった事例を紹介し、今後の拡がりについて予測してみたいです。

1.適材適所と適所適材

人的資源の活用について、これまで洋の東西ではそれぞれ異なったアプローチをとってきたように思われます。西欧流は職務記述書を用意して、その職務遂行要件にかなう人材を採用するという「適所適材方式」です。

これに対して日本企業では、自社の風土に適合する適材を採用し、入社後いくつかの部署を経験させ、そのプロセスのなかで適性を発見していくという「適材適所方式」が行なわれていました。

しかし、グローバル・ビジネスが拡大してくると、この二つの人材活用方式は相互に影響を及ぼしはじめました。日本企業でも、適所適材方式を取り入れて積極的に中途採用を行ないますが、一方、西欧の企業でも採用にあたってその職務内容を明示するものの入社後に期待する遂行レベルまでに個々人の知識・技能を習熟させるために、これまでよりもはるかに多くの時間と経費を教育訓練にかける傾向があらわれてきました。

技術革新や情報交流の活発な今日、次々と新しい職務が創出され、多岐にわたる知識や能力が要求されるので、適性発見による配置と適材にするための育成計画の双方が必要となってきたわけです。

2.これまでと異なるヒューマン・アセスメント(HA)実施事例

以上のような人材活用方式の変化は、ヒューマン・アセスメント(HA)という切れ味のよい技法の活用分野をさらに拡大しました。

活用が拡まるにつれて、初級、中級、上級の管理者選抜と育成について有効なツールであるという定評を獲得しただけでなく、管理者以外をも対象とする多方面への活用ニーズが生じてきました

以下、このような活用ニーズに伴って多様な展開・活用をみせているヒューマン・アセスメント(HA)の新しい動きについて述べてみたいです。

🔶専門のHA

専門職のヒューマン・アセスメント(HA)に関してはすでに実施ケースが多く、経験も蓄積しはじめました。

営業職のヒューマン・アセスメント(HA)も同様です。 双方のケースについていえることは、管理職のためのHA(マネジメント・アセスメント)は初級、中級、上級と階層が異なったとしても能力要件に共通部分が多いです。

一方、専門職は、職務分野によってさまざまの専門職種があり、技術系の専門職としては研究・開発専門職(Research & Development)やエンジニア職があります。

そのほか人文系の専門職についても細かく分類されます。営業職なども一種の人文系専門職として考えられようです。これらの職務は各企業ごとに職務内容や求められる能力要件が異なります。マネジメント・アセスメントと同様に専門職アセスメントも能力要件に共通部分はないとはいえませんが、管理職能の普遍性に比べて専門職能は共通部分がやや少ないです。

それらの職務に求められるディメンションは企業の担当者と討議して選定する必要があります。その職務に必要な知識やスキルの評価や育成など、ヒューマン・アセスメント(HA)以外の方法を加えて行なう必要もあります。

要するに、ヒューマン・アセスメント(HA)という技法は活用目的や対象によって個々の実施についてディメンションと演習課題の設計を個別に行なわなくてはならないわけです。

現在MSCが顧客から求められるヒューマン・アセスメント(HA)実施要望の対象は専門職と営業職のヒューマン・アセスメント(HA)が最も多いです。

参考までに新入社員や若手社員を対象とする管理職以外の職種別ディメンション・リストをあげると次のようになります。

●営業職
①インパクト
②セールス意欲
③セールス能力
④業務習得能力
⑤バイタリティ
⑥口頭による事実収集力
⑦口頭表現力
⑧計画・組織力
⑨執着性
⑩柔軟性
⑪復元力

●システムアナリスト
①技術知識
②業務習得能力
③業務遂行基準
④職務遂行意欲
⑤口頭表現力
⑥分析力
⑦計画・組織力
⑧判断力
⑨執着性

🔶女性管理職の能力開発と選抜

女性管理職の選抜は、管理職能についてのヒューマン・アセスメント(HA)を行なうわけであるからです、これまで実施してきたものとそれほど大きく変わっているわけではないです。

ただし、女性はこれまで管理職を目標として育成されてこなかったので、多くの場合、非役職者でありながら男性と比較して年齢が高いです。企業によっては男性と同じヒューマン・アセスメント(HA)のプログラムに加えていますが、ときには女性だけで管理職候補として選抜や能力開発を行なうこともあります。

これはプリ・マネジメント・プログラムとしては重要で、その場合男女双方のアセッサーによる実施が好ましいです。男女のアセッサーを起用することは男性管理者で女性を数多く使わなければならない立場の人の場合にも有効です。

長い間、男性、女性に対して異なった期待をもって対してきた企業風土のなかで、ヒューマン・アセスメント(HA)の公正さと精度を保つためには、男女ペアのアセッサーによる実施が効果的です。

🔶異文化ビジネスに適合するヒューマン・アセスメント(HA)

そのほかに一般のヒューマン・アセスメント(HA)とはやや異なったものとして異文化ビジネスのためのヒューマン・アセスメント(HA)があります。これは参加対象者が日本人である場合もありますが、外国人を対象としてヒューマン・アセスメント(HA)を行なうケースが、最近とくに増えてきた。たとえば、

●日本における外資系企業に働く外国人の採用、選抜、登用のためのヒューえマン・アセスメント(HA)

●日本企業に働く外国人のためのヒューマン・アセスメント(HA)

●海外の日系企業に働く現地マネジャーのためのヒューマン・アセスメント(HA)

●海外の日系企業に派遣される日本人社員のためのヒューマン・アセスメント(HA)

などがあります。

いずれにしても異文化のなかでビジネスを行なうわけであるからヒューマン・アセスメント(HA)の対象者は現地のビジネス風士に適合する能力と、所有企業の方針や風士に適合する能力の双方をもつことが必要です。

この場合、目的別にディメンションや演習課題の選択を行ない、日本語と英語で実施し、アセッサーは日本人と外国人のペアで行なう必要があります。

異なったビジネス文化のなかに育った人びとが集まってヒューマン・アセスメント(HA)を実施するとき、とくに大切なのはフィードバックです

文章によるフィードバックと口頭によるものの双方が必要でありますが、参加者の納得のいくまで、示された行動例にもとづいて、どのような観点からどのディメンションに分類し、どういう理由でその評点レベルであるかを説明する必要があります。

異文化ビジネスのなかではコミュニケーションの不足が能力発揮の障害になっています。そこで上司を交えて今後の職務の与え方を討議し、それにより能力開発を目指して実施することが重要です。

🔶宇宙(スペース)で働く人の選抜ヒューマン・アセスメント(HA)

このプログラムの依頼には、アセッサーも未経験であり、演習課題もこれまでのマネジメント・アセスメントとはまったく異なるので、大量の資料調査を行いました。幸いヒューマン・アセスメント(HA)のルーツがスパイの適性発見であり、未知の状況を調査し、予測を行なうことも過去には行なわれてきたので、それらの資料は大いに役立ちました。

🔶個の能力把握と組織風土の診断

最近は経営ビジョンを明確に示す企業が多く、経営トップの方針にもとづいた企業独自の風土づくりが求められています

ヒューマン・アセスメント(HA)はあくまでも個の能力をみるものでありますが、それは組織の目標や職務の要件のなかでの個の活動です。

そこで、終了後、個々の示す能力が集団としてどのようなトレンドを示しているかを分析して、組織の診断に役立てることも行われています。

このようなさまざまのヒューマン・アセスメント(HA)経験を通じていえることは、優れたヒューマン・アセスメント(HA)技法を活かすのは目的に対して事前の状況分析、目的の把握および事後のフォローであるといえます。

また貴重なヒューマン・アセスメント(HA)データの維持と検討策には将来を予測したデータ管理設計が必要となります。人的資源の能力発見と把握のツールであるヒューマン・アセスメント(HA)は顧客の重要な財産であることを考えて、企画から終了後のフォローまで一貫した概念で企業の経営に役立てたいです。

3.当面するヒューマン・アセスメント(HA)課題とその対応

現状の課題や問題点についての事例の多くが各社の工夫や解決策を物語っていますが、MSCとしてもさまざまな対策・改善を行なっています。

ヒューマン・アセスメント(HA)技法に対して提起された課題を大まかに整理してみると、

(1)時代の要請に関するもの
(2)ヒューマン・アセスメント(HA)技法の運営に関するもの
(3)ヒューマン・アセスメント(HA)技法の構造そのものに関するもの

の三つに分類される。

以下にそれぞれの具体的な例、顧客の声、問題提起、およびその対応について述べます。

4.時代の要請に関するもの

第三次産業すなわち、販売、流通、金融、サービスなどの産業分野に働く人の数が、第二次産業、すなわち、製造業を上回っている今日の状況のなかで、企業の職務内容や期待する能力要件と行動基準も大きく多様化しました。

そのためディメンションの選択や決定については以前にもまして職務内容分析が必要になってきています。管理職のマネジメント・ディメンションには共通部分が多いですが、専門職、営業職、企画職、技能職などは、それぞれの職務について他の職務と共通する部分と個別の部分、およびその企業のその職場独自の期待要件があります

ヒューマン・アセスメント(HA)の創始者ダグラス・W・ブレイ博士は、かつて技術関係のプレイング・マネジャーを対象とするHAを実施した際、新たにディメンションを選択しましたが、これまで活用していたディメンションと共通しない部分はそれほど多いものではなかったといっています。追加したものとして、技術解析力や、計数分析力などがあり、その他には業務知識に関するものが多かったです。

いずれにしても目標職務とディメンションの選択、行動基準の明確化は、事前の十分な検討、ディメンションの創出に関して必要であり、かつディメンションの定義の検討や期待される行動パターンの明確化が必要です。

演習課題にも同様のことがいえる。演習課題が、職務とまったく同一の状況では経験にもとづく能力のみが把握されるおそれがあります。そこで潜在能力や適性発見のためには演習課題には対象者にとって未知の分野と経験分野の適度な混合がなされていることが望ましいです。同時に、演習課題の内容には時代の変化を取り入れておくことが重要です。

ヒューマン・アセスメント(HA)を継続的に実施してデータ蓄積を行なっているときは、同一ディメンション、同一演習課題のほうがアセッサーにとって評価がしやすく、データへの信頼性も高いという意見もあります。それも一理あるが、これだけ激しく変化する時代には、演習課題はその変化を吸収していかなければ、実施者にとってプログラムに対する興味をそがれる結果となります。

5.ヒューマン・アセスメント(HA)技法の運営に関するもの

この分野に関しては数多くの問題提起があり、それらはヒューマン・アセスメント(HA)の実施コスト、フィードバックのスピード、社内のアセッサーの負担軽減策、フォロー計画の仕方などです。

🔶HA実施対象階層とコストについて

不況下でヒューマン・アセスメント(HA)実施のコストは大きな問題です。昨今は企業のヒューマン・アセスメント(HA)の対象が、21世紀を担う若手中堅社員(5~10年)の能力開発に力点をおく場合と、経営の舵取りをする上級管理職や役員候補者の選抜を優先的に考えるという二つの傾向が強いです。もちろん初級や中級の管理職の能力開発や選抜は依然として多いが、対象とする階層は最近上下に拡がりました。

若手社員に対するヒューマン・アセスメント(HA)実施は人員数が大量という場合が多いので、ヒューマン・アセスメント(HA)の処理方法に工夫とコスト低減策をとらなければならなりません。この場合は、ヒューマン・アセスメント(HA)の目的が個人特性の把屋や能力開発にウエイトがおかれ、短期間での実施要求が多いです。

一方、上級管理職ヒューマン・アセスメント(HA)では対象者は職務経験が長く、それだけに経験に裏づけされた強みが示されます。能力開発目的よりも強みを把握して選抜を行なうという目的でヒューマン・アセスメント(HA)を活用することのほうが多いです。

ヒューマン・アセスメント(HA)実施の際の特徴について若手中堅社員と上級管理職とを対比してみると、

<若手中堅社員>
●多人数
●能力開発目的
●短期低コスト
●将来発揮されると予測される可能性を把握し、適性を考える

<上級管理者>
●少人数
●選抜目的
●時間をかけても適確に行なう
●経営管理能力を厳密に把握する

となります。

演習課題も若手社員では可能性の発見が主となるので、さまざまに異なった背景状況をもつ演習課題を使うほうが目的にかないやすいです。上級管理職の場合は登用や配置の可否を検討することが目的であるから、次の職務状況を模擬できるよう、やや現実に近いものを使うことに意味があります。

この場合、実施コストの削減よりはヒューマン・アセスメント(HA)結果の精度が高いことが重要です。したがって、大量短期処理で個人特性をみる場合と、ヒューマン・アセスメント(HA)の精度を高めるために十分な手をかけて行なう場合とでは、投入するコストも異なります。

🔶フィードバックとフォローについて

ヒューマン・アセスメント(HA)は期待する能力や行動パターンがどれだけ発揮されているかを見極めるのには極めて有効です。しかし、その後の能力開発や育成を、ヒューマン・アセスメント(HA)の実施中に行なうことは容易ではないです。ヒューマン・アセスメント(HA)結果のフィードバックは、自己認知と自己動機づけによる啓発計画として役立ちますが、その後のフォローなしでは能力開発は不十分です。

ヒューマン・アセスメント(HA)終了後のフィードバックも、ヒューマン・アセスメント(HA)担当者からの口頭によるもの、文章によるもの、上司からのアドバイスなど、さまざまなやり方があります。もちろん口頭と文章の併用が好ましく、上司も加わってそのフィードバックの内容を理解し、その後の職務の与え方を通して能力開発をOJTとOFF‐JTの組合せで計画していくことが望ましいです。

フォロー計画を立てる場合、ディメンション改善が短期間の訓練で可能なものもあります。一方、長期にわたってしかも職務を通しての開発でなければならないものもあります。いずれにしても、開発計画はディメンションベースで行なうことで効果が早くあらわれます

🔶社内アセッサーについて

社内アセッサーの活用は大いにすすめたいです。企業としては、社内アセッサーを固有の業務からはずしてヒューマン・アセスメント(HA)を担当させることは時間的に大きな負担がかかります。

しかし、困難ではあってもヒューマン・アセスメント(HA)は本来的に社内アセッサーと社外のアドミニストレーターの共同作業が最も望ましいです。これまでの実施経験によると、社内アセッサーに対して最も重い負担は、フィードバックのための報告書作成です。

そこでフィードバックは社内ならば口頭と評点、それに加えてあまり長文でない報告書にすればかなりの負担軽減となります。そのほかには社内アセッサーの受け持つ被観察者(アセッシー)の数を少なくすることです。一人のアセッサーに対し、三名くらいまでであればそれほど大きな負担にはならないです。

一方、社内アセッサーを使うメリットとしては、参加者にとって上級職であるアセッサーが培ってきた経営管理観がヒューマン・アセスメント(HA)を通じて参加者に伝わること、社内に共通の管理概念ができること、上級管理職の間に、わが社において期待される人材観にコンセンサスができること、などです。

🔶ディメンション選定についてのコンサルティング

ディメンション・リストとしては、汎用ディメンションのほかに90年代の変化に見合うディメンションの試案リストがあります。たとえば、リーダーシップでも上級レベルとなれば、ビジョナリー・リーダーシップや戦略リーダーシップなど、また顧客指向のディメンションについてはサブディメンションとして顧客サービス指向などが用意されています。

ヒューマン・アセスメント(HA)のディメンションは能力要件を中心にリストアップされていますが、職務遂行には能力が十分でも、その仕事に取り組もうとする意欲や動機づけの部分が不十分という場合もあります。この動機づけや意欲に関するディメンション・リストも用意されています。

社会の成熟度が高まるとともに、職業人のもつ価値観として、職務遂行能力だけでなく、当事者としての意欲や動機づけについて、具体的なディメンションを通じて観察する必要があり、この点についてのディメンションの見直しを今後もすすめていきたいです。

🔶演習課題の作成

ヒューマン・アセスメント(HA)の演習課題も職務内容が時代の影響を受けて変われば、新しく作成する必要があります。

演習課題は参加者の目標職務の模擬ではありますが、あまりにも同じ状況であれば参加者の経験を通じて育成された能力をはかりすぎることになります。反対に、状況が職務と離れすぎると現実感を失います

その間のバランスについて配慮するとともに、参加者の能力がより一層行動にあらわれやすいような状況をつくり出すために、ヒューマン・アセスメント(HA)実施に関する事前の討議を十分つくしていきたいです。

6.ヒューマン・アセスメント(HA)技法の構造そのものに関するもの

ヒューマン・アセスメント(HA)技法の多様な活用とも関連しますが、コンピュータを使ったヒューマン・アセスメント(HA)のプログラム化もすすめています。

ヒューマン・アセスメント(HA)参加者の大量処理や実施時間のスピードアップ、コストの低減などで、コンピュータを活用する方法は、ますます必要となってきました。

この場合、誤解をまねきやすいのはコンピュータにデータを入れて判断をさせると理解されてしまうことです。人間の行動をディメンションの項目を通じて評価するのは、あくまでも複数のアセッサーという人間の判断であり、コンピュータではないです。進め方としては、キーとなる行動パターンを短文で表現し、ディメンション評価を加えてコンピュータにインプットして情報を蓄積します。

ディメンション別に行動パターンをすべて呼び出して評定し、さらに異なった演習課題のディメンション別評点と行動パターンをマトリクスにして評点を付し、アセッサーが総合的に評定して文章を作成していくやり方をとります。

MSCでは、研究と開発をすすめているので、企業の方々にご紹介したいと思っています。このほかにもインバスケットのチェックリスト活用方式でICS(職務適性調査)というプログラムがあり、これはかなりよく使われています。

以上、ヒューマン・アセスメント(HA)に関する情報についてご提供しましたが、今回の各社事例は多くの貴重な問題提起と示唆を含んでいました。

MSC一同、企業の問題提起に応えるため、今後も努力を続けていく所存であり、皆さまのご支援をぜひお願い申しあげたいです。

7.おすすめソリューション

会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円 (令和 2年12月31日)
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

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