見出し画像

26年前、ヨーロッパ、ボスニアでいったい何が❓映画「アイダよ、何処へ?」

みなさん、民族紛争と聞けば何が思い浮かびますか?
アフリカ、中東、インドや中国のあたり、戦前、、etc.

最近私は、ここ20数年前にヨーロッパで起きた民族紛争についての映画を観ました。

20数年前にヨーロッパで民族紛争?!


そうです。21世紀を迎えようとした頃、ヨーロッパでとんでもない悲劇が起きたのです。


現在日本で公開中の映画「アイダよ、何処へ?」は、26年前、ヨーロッパで起きたボスニア紛争の話です。


ボスニア紛争とは、1992年3月にボスニア・ヘルツェゴビナが、ユーゴスラビア連邦から独立を宣言したことをきっかけに起こった紛争(内戦)です。
ボシュニャク人(ムスリム)、セルビア人、クロアチア人の3民族で戦闘が繰り広げられました。
その結果、1995年12月に終戦するまでに、人口435万人中、死者20万。難民、避難民が200万人以上発生しました。第2次世界大戦後のヨーロッパで起きた最悪の内戦です。

そのボスニア戦争末期の1995年7月、ボスニア東部の街スレブレニツァで起こった集団虐殺事件をテーマにしたのが、この映画です。

約25年前のボスニア紛争で一体何が起こったか?


イスラム教徒のボシュニャク人が多く住むスレブレニツァの街は、セルビア人武装勢力に包囲されていましたが、国連によって「安全地帯」に指定されていました。
ところが、国連軍を無視して、ムラディッチ将軍率いるセルビア人武装勢力が街に侵攻して制圧。市長も殺されてしまいます。
一般市民2万人以上は国連保護軍のオランダ部隊が管理する国連施設に押し寄せます。
映画はこの様子を、国連保護軍の通訳として働くボシュニャク人アイダの視点から描いていきます。

圧倒的な軍備を持つセルビア人武装勢力を前に、国連保護軍は無力で、ボシュニャク人の安全を守ることができません。

そしてセルビア人が勝手に避難民を選別し始め、市民を連れ去っていこうとします。
そんな中、通訳のアイダはなんとか自分の夫と息子二人を助けようとします。
自分は国連職員なので家族も一緒に連れていってくれとオランダ軍の将校に泣きつくのですが、「無理」と冷たく彼らに突き放され……

あまりの悲劇に、言葉が何も出なくなるような映画でした。


国連軍があまりにも無力だったのは、映画「ルワンダの涙」で見た場面と同じでした。ルワンダのときも国連は避難民を守ることができず結局見捨てて逃げ出してしまいます。
映画「ルワンダの涙」


また、国連(国際社会)がアイダの家族を置き去りにしようとすることは、この夏のアフガニスタンで起こったことと同じです。アフガニスタンは、通訳などの現地の協力者は置き去りでした。


現地協力者が残されたら、占領者から何をされるか分かりません。
隠すといってもコミュニティ内には既に誰が協力してたかは知れ渡っています。
映画では、たとえ家族であっても難民として保護されない残酷さが伝わってきます。


最終的に、この映画の事件でイスラム教徒のボシュニャク人約8000人がセルビア人武装勢力に殺されました。

内戦前は、同じ街で民族、宗教の違いを意識せず共存していました。学校の同級生であったり、隣人であったり、教え子であったりしたのが敵、味方で殺し合うのです。

このようなことがなぜ起こるのか?どうしたら防げるのか?

この映画の監督であるヤスミラ・ジュバニッチは、1974年にボスニアで生まれ、多感な十代にサラエボでこの紛争を経験しました。当時、サラエボはセルビア人勢力に包囲されており、スレブレニツァの悲劇は他人事ではありませんでした。

彼女は映画のパンフレットのインタビューで語っています。

人は道徳的規範が破られたとき、また人間たらしめるものすべてが壊されたとき、互いにどう振る舞うのか?
これは、単にボスニアやバルカン諸国についての話ではありません。
人間についての物語であり、どうしても伝えなければならないという思いに私たちは駆られていたのです。


この映画の紛争地であるバルカン諸国では、第二次世界大戦時にも、ファシスト政権による民族浄化と称する虐殺が行われました。
二度とそのようなことのないようにと、「民族の平等と友愛」を掲げ、ユーゴスラビアという国を立ち上げたのに、また同じような虐殺事件をおこしてしまいました。
むなしい限りですが、現在は、内戦も収まり再び民族の融和、共存に向けて人々は努力しています。

また彼女はこうも述べています。

虐殺を否定しねじ曲げる言説に対し、真実を一つの物語にして提示しようと思った

朝日新聞(2021/9/24)
https://www.asahi.com/sp/articles/DA3S15054494.html


この努力が実を結ぶのか、映画は、未来への希望を捨ててはいないと思います。

彼女は、こう私たちに伝えています。(映画パンフレットから引用)

加害者が真実を否定するために費やす膨大なエネルギーは、次の世代に大きな負担をかけることになるのです。

皆さんには、ぜひ、スレプレニツァの物語を自分自身の人生と重ね合わせてみてほしいと思います。
困難な時期に誰がそばにいてくれるでしょうか?
もっと連帯していれば、どれだけのことが変わっていたでしょうか?


アイダよ、何処へ?
発行所:アルバトロス・フィルム
発行日:2021/9/17


執筆者、ゆこりん

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?