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火傷してしまうよ、スターバックス(小説・エッセイ)

過去の記事に、清水っていう昔の知り合い登場したっけ?

いや、出ていないよな。

僕はバンクーバーのことについてしか書く気がなかったし、多分清水っていうやつは、このnoteという場にそぐわないから、どの記事にも彼を出してないんだ。

そぐわないっていうのは、僕の頭のなかだけの理解と表現だった。
もっとわかりやすくいうと、つまり彼は文字が上手いこと読めないってわけ。

しっかりコミュニケーションはとれる。でも彼は真性包茎で、常に頭のなかにあるのは、キャバクラの女の子にどれだけドリンクを出さずに粘れるかっていうことだけなんだ。それかガールズバーでもいい。
とりあえず、安いお金で、噛み終わったガムみたいな話をし続けることができればどこだってよかった、そういう奴なんだ清水って。

清水はとても面白いやつだよ、Tシャツにはいつも乾いたご飯粒がついていたし、清水の幼馴染の女の子は猿と言われていたし、なんだか滅多にこいつにはお眼にかかれないぞって感じの。

彼はいつも駅前やマックとかスタバとかで程度の低いナンパをしていたっけ。
ナンパが成功したとして彼はどこまでいくつもりだったのだろう。
飛行機も船もなくて、海外旅行に行こうって誘われたら、女の子ってなんて答えるのかな。
いや、やっぱりいいや、彼の真性包茎の話なんて、ぐじぐじに腐ったイチジクみたいに話し続けるのはやめよう。
それなら渋すぎる紅茶を飲んだほうがまだ、有意義だよね。

紅茶っていえば
僕がまだ専門学生っていう、結局、将来何の役割も持たなかった学校に通っていた時のことだけれど、行きつけのスタバがあったんだ。(チェーン店に行きつけってなんだかおかしいかな、本当はちゃんとしたカフェでもあればよかったけどね)

週に2回の頻度で通っていたから、ほとんどの店員は僕にオーダーを言わせてくれなかった。
ついには、店員が会計の際に読み上げてくれて、ああ、それが僕のいつものか、って気づくからおかしいよね。

「イングリッシュブレックファーストがおひとつ」

みんないつも同じ笑顔だった。
なんていうか、いかにもスターバックスっていう工場で量産されているみたいな。

街なかのアンケートで「その人の笑顔で職種や働いている店を当てろ」みたいな企画があれば、みんながスタバの店員だけ見事にあてられそうな気がするのだけれど、どうだろう?

そういう笑みを向けられ続けると、胸やけして、不意に固い鈍器か何かで殴ったら、この人はどんな表情をするのかな、なんて考えるけれど、もちろん実際にはしないよ。

特に清水のお気に入りの店員とか、完璧なスターバックス産の笑顔で、うんざりして、マグカップか何かを叩きつけたくなるんだけど、いつも大人しい僕の左手は、静かに財布を開くだけなんだ。ペットは飼い主に似るって言葉僕好きだな。

清水、落ち込んでいたっけ。
あの清水だって、たまにはキャバクラとかガールズバーとか後輩の彼女のこととは真正包茎のこと以外だって悩むよ。

みるみるうちに彼の肩が窪んでいっても僕としてはすこぶるどうてもよかったけれど、まだ僕が日本にいた時は、落ち込んでいる人がいたらその理由を聞かなくてはいけないっていう法律があったから、嫌々尋ねたんだ。

「お気に入りの店員が半年後に結婚する」

お菓子を取り上げられた180㎝の子供みたいで、奇妙だったな。
一応、まだ僕が日本にいた時は、近くの人間が落ち込んでいたら、援助してあげないといけない法律があったから、
僕は彼が所属する社会人バレーに参加した。

一緒に運動していればすぐに忘れるだろうと思った。
そして、清水は僕以外に友達がいなかったから、彼はよく僕をキャバクラやガールズバーに誘った。

僕はどこでも本を読んでいたから、周りのことなんて関係なかった。
でも、あるキャバ嬢が、遊園地にいったときの話はさすがに参ったね。

なんでも、急速に上にのぼるアトラクションに乗っているときに、おならをしたらとても臭かったという話だ。
正直、本当に気が滅入ってしまったけれど、こういう場のお金はいつも清水か出してくれたから、文句はいわなかった。
でももし、僕がお金を出していたら、その女の嘘みたいに突き出た胸に、吸っている途中の煙草を投げ入れて、朝まで二人でワルツでも踊ったと思う。
でも僕のお金じゃないからね。

ガールズバーで僕の目の前に粘土みたいな女の子がついたときも、僕は本を読んでいた。
お酒を飲みながら本を読めるメリットがなければ、気がふれたっていかないよ。

「何の本を読んでいるの?」

と聞かれたとき、大抵僕はジッドとかチェーホフとかの全集みたいなとんでもなく分厚い本を読んでいた。

「その本の感想は?」

「うーんと結構重いよ」

これでどんな鈍い子でも僕が話すためにアルコールを摂っているわけじゃないって気づいてくれる。
でも本当に重いんだ。

そういう時は、清水の方が人が出来ているから、僕の背中を叩いて場を和らげてくれる。
ナンパ以外のことも結構考えているんだなって思うよね。
そういえば、バレーボールもそんな感じで叩いていたな。

僕が社会人バレーボールに在籍していたのは、たったの3カ月だったと思う。
活動内容はあんまり覚えてないけど、そのなかで付き合っている二人がいたんだ。どこの組織にもいるような関係だったよ。

誓ってわざとじゃないんだけど、それぞれコートの外から向かい合ってサーブの練習をしているときにさ、二回連続で女の子の頭にボールをぶつけてしまったんだよね。
いつも、タバコを4本くらいまとめて吸わないと、死んでしまう病気にかかっているような子だったんだけれど、立派にも彼氏がいて、その彼氏に僕はずっと睨まれていた。魚みたいに口をぱくぱくしていたよ。

それで居心地が悪くなって、辞めてしまったってわけ。
それからすぐに清水もやめたよ。
清水のことだから、わかると思うけれど、後輩の彼女に手を出そうとして失敗したんだ。
全部明るみになって、サークル内で裁判まで始まってしまって、もう少しで死刑になるところだったんだ。

命からがら仙台に逃げて、つまらない警備員をやったりボーイをやっていたって話だったんだけど、また女の子関係でもめて、少しおっかない人達に追われはじめたんだ。

死なないでほしかったよね、僕ってほら、こんなんだから友人もほとんどいないしさ。

8年も前のことだから、生きていたら、なんか思い出話にもなりそうだったじゃない。

真性包茎の手術はしたのか、とか、あれかれ後輩と仲直りできたのか、とか、今足しげく通っているキャバクラはどこなのか、とか
全く懲りない馬鹿なやつだったよ、死ぬまでね。

僕はバンクーバーのコストコで、スターバックスの試供品を飲みながら、不意に彼を思い出しちゃったよ。
だから苦いものって避けてたんだけどさ。

試供品をくれたスタッフは、結構いい加減なやつで、お湯が沸くのに40分もかかるなんて抜かすんだから参ったよ。

僕はどうしてもスタバのコーヒーが飲みたいと思って60分は待ったね。
やっと渋々、一口分くらいの紙コップに黒い液体が注がれて、来た時には感動しちゃったもんだ。

僕以外の誰も待っていなかったのに、行列に並んでやっとのこさ、ときめきメモリアル2を買ったみたいな気持ちだよ。大袈裟に言うとね。

でも実のところ、コーヒーは4分33秒で出てきたんだ。おかしいよね。

冷ましながら飲んだつもりだったけど、鬼のように熱かった。

多分スターバックスで雇った人ってわけじゃないからさ、ちゃんとした作り方知らなかったんだね。なんでも限界まで熱くさせてしまえば完璧なコーヒーだって思い込んでいるよ。どこのカフェだってそんな馬鹿なこと教えないでしょう?

でもさ、それでもあれは熱すぎるんじゃないかな、メリーゴーランドだって早すぎたらみんな振り回されちゃうんだからさ、
あれは火傷しちゃうよ、スターバックス。

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今週のお題【カフェ】×【4分33秒】




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