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「気味が悪い」
「そうでしょう」
「けれど、克服したい。克服するより、譲りたい」
「なんとなく、まァ」
「背広」
「背広ですか」
「うん」
「背広がどうしたんです」
「背広の、ビロ」
「ええ」
「悪魔の音だよ」
「本当かなァ」
「試しに、チャーハンの、ハン。替えてみろ」
「——チャービロ。パラパラは、してないなァ」
「うん。それじゃ、風鈴の、ふう」
「——ビロリン。汚い夏だなァ。けれど悪魔かどうか」
「ふん。それならお前、どうだ」
「いやァ、なんでしょう。ええ。じゃァ、これはどうです。やまお君が覗き込むと、突然カチッと音がして鋭く発光した。目がチカチカして、しかしそれはよかった。握った懐中電灯の、そのスイッチと発光の意外な関係が、今の彼の心を満たしていたの、音」
「おと、か。——カチッとビロがして。ふん。突然ビロッと、目がビロビロ——」
「わがままだァ。じゃ、デンワの、ンワ」
「——デビロ。デビロか。いや、ほんとに。デビロだなァ」
「どうです、悪魔ですか」
「——おい、だんだん強引に兄弟の気がする」
「僕はデビルでいいです」
「遠慮することはない」
「しませんが。いいです。僕が、デビロです」
「そうとも」
「兄さんは」
「なんだ、お前。浸かるのに上着なんか着て」

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