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ゲーム業界のVTuberプロモーションを大解剖〜にじさんじとホロライブ、拡大する影響力とその理由

直近のゲーム業界のマーケティングとプロモーションにおいて『ゲーム実況』の重要性が非常に高くなってきており「ゲーム実況を制することがゲームビジネスを制す」時代であることを前回までのnoteで解説してきました。

最近では「ゲーム実況」の中でも「VTuber」の存在感が大きくなってきました。「にじさんじ」を運営するANYCOLOR社が上場し、市場から高い評価を受けたことも記憶に新しいですが、実際にゲーム企業がVTuberのゲーム実況をプロモーションとして起用する「ゲーム実況マーケティング」においても、とても目立つ事例が増えています。

今回のnoteでは、YouTubeのデータベースサービスであるエビリー社にご協力いただき「kamui tracker」で取得できるデータをもとに「ゲーム業界のVTuberプロモーションを大解剖〜拡大する影響力とその理由」について解説していきたいと思います。今回も全文を無料公開しますので、少しでも参考になったらいいねや拡散をしていただければうれしいです。

①VTuber人口:チャンネル登録者が1000人を超えているVTuberは何人いるのか?

まずはVTuberの全体状況をおさらいしましょう。ユーザーローカル社によると活動するVTuberの人数は2021年10月時点で1.6万人を突破しており、この記事を公開している2022年9月現在においてVTuber人口は約2万人規模であると予測できます。

VTuber人口規模はよく共有される数字かと思いますが、今回はもう少し踏み込んで、チャンネル登録数が1000人を超えているVTuberが何人いるのか?を紹介したいと思います。チャンネル登録数1000人は収益化するための条件の一つなので、この人数の方が市場感を把握する上では参考になるかもしれません。

国内で活動するチャンネル登録1000人以上のVTuberの推移

チャンネル登録が1000人を超えている国内で活動する(海外VTuberは除く)、VTuberの数は2022年8月末までのデータで4481人でした。2万人のVTuberが国内で活動しているとすると全体の22%になります(反対に78%のVTuberはまだYouTubeでは収益化できていないことになります)。

VTuberの草分け的な存在であるキズナアイさんが活動を開始した2016年6月からVTuberが少しずつ増え始め、その後2018年に一気に多くのVTuberが誕生したことがわかります。

また、2018年〜2019年に活動開始したVTuberの中にチャンネルを成長させることができたVTuberが多いことからこの時期が「VTuberブーム期」であったことがわかります。一方で、2020年以降はブームが落ち着いたように見え、新しいVTuberの機会が減ってきているように思います。

国内で活動するチャンネル登録1000人以上のVTuberの登録数別分布

さらにチャンネル登録数の分布を見てみると、1万人以上が1343(7%)、10万人以上が365(2%)、50万人以上が89(0.45%)、100万人以上が31(0.16%)という分布でした。10万人以上チャンネルは100分の2のとても狭き門であることがわかります。

チャンネル登録数上位のチャンネルも2018年〜2019年のブーム期に活動を開始したVTuberに偏っており、2022年の活動開始ながらすでに登録100万人を突破した壱百満天原サロメさんがいかに特異な存在であるかわかります。

このように、2018年のブーム以降たくさん生まれたVTuberの中でも、チャンネル登録数を伸ばしたVTuberが一握りの存在であること、そして今なお成長を続けているVTuberにはとても実力があることがわかると思います。

また一般のYouTuberとは異なり、チャンネル登録者数が上位のVTuberはライブ配信を中心に活動する「ライバー」がほとんどです。実在しないキャラクターでありながら、ライブ配信による編集されない"生の個性"こそがVTuberのコンテンツの魅力です。

実在しないキャラクターの実在する生の個性」という矛盾こそがVTuberの魅力の本質です。VTuberはスーパーチャットによるファンからの投げ銭が他のインフルエンサーに比べて多いことがたびたびニュースになりますが、その理由でもあり、VTuberの実力を示す指標でもあります。

そんな実力のあるVTuberの多くがメインの活動が「ゲーム実況」です。VTuberはさまざまなゲームの実況や配信を通じて新しいファンを獲得し、ファンは日々ゲーム実況を楽しんでいます。だからこそゲームのプロモーションとしてVTuberの起用が増えるのは必然なのです。

②VTuberを活用したゲームプロモーションの状況

続いてVTuberを活用したゲームプロモーションの状況を深ぼっていきたいと思います。前回書いたこちらのnoteでYouTube全体でのゲーム実況プロモーション、タイアップ動画の状況を書いていますのでチェックしてください。

VTuberのゲームタイアップ動画の歴史は、VTuber界の親分のキズナアイさんが2017年に投稿した動画から始まりました。その後、2018年のVTuberブーム以降に一気にタイアップ動画も増えはじめ、2020年に637件、2021年は一気に倍増の1260件と成長を続け、2022年には年間1500件強のペースで進捗しており、タイアップ動画全体の15%弱がVTuberになっています。

当初は他のYouTuber案件と同様にアーカイブのタイアップ動画が多かったのですが、VTuberがライブ配信中心に人気が高まり、現在はタイアップ動画の80%がライブ配信です。ライブ配信によるタイアップ動画は2019年以降にはVTuber以外でも増えて、現在は約50%がライブ配信になっていますが、その大きなきっかけはVTuberだったと言えるでしょう。

VTuberによるゲーム実況タイアップ動画数の推移

記念すべき国内で一番最初のVTuberタイアップ動画はキズナアイさんによる「幻獣契約クリプトラクト」の動画でした。ここからはじまった。

なお、タイアップ動画を投稿したことがあるVTuberの数は約450人(全体の10%)でした。チャンネル登録数が多いVTuberほどタイアップ動画の実施経験や実施本数が多いものの、かなり多くの多様なVTuberがゲームのプロモーションに起用されている状況と言えると思います。

なお、参考までの独自集計ありますが、2大VTuber事務所の「にじさんじ」、「ホロライブプロダクション」のタイアップ動画数は全体の約40-50%を占めていました。この2大事務所はタイアップにおいても強力な存在感があります。

にじさんじ、ホロライブ所属VTuberのタイアップ動画数の推移

③VTuberを多く活用しているゲームタイトル

次は、VTuberプロモーションをたくさんやっているゲームタイトルが何かを見ていきたいと思います。タイトルのフェーズによっても変わってくるデータですが、今回はこれまでの累計のVTuberタイアップの動画本数をランキング化しました。上位タイトルがVTuberに注目して積極的に活用しているタイトルといえると思います。

YouTubeゲーム実況タイアップ動画数が多いタイトルランキング

ランクインしているタイトルは、コンソール、PCゲームも入っているものの、全体の傾向と同じようにタイトル数はスマホゲームが多いです。特に「荒野行動」は圧倒的にタイアップ動画の本数も再生数も多いタイトルですが、VTuberにおいてもダントツの1位でした。

他のランクインタイトルも基本的にはYouTubeで積極的にプロモーションしているタイトルが上位に入っています。また、傾向としてはカジュアルなゲームというよりもやり込み度合いの強いコアゲームが多くランクインしている印象です。

動画の再生数(アーカイブ)で見ると、むしろコンソールゲームが上位に多くランクインしています。特に「eBaseball パワフルプロ野球」シリーズは少ない投稿数ながら、非常に再生数が多くなっています。多くのVTuberにタイアップ動画を投稿してもらうか、それとも同じVTuberに動画を投稿し続けてもらうかは、タイトルによって大きく方針が異なっています。

VTuberゲーム実況タイアップ動画 再生数ランキング

続いて、タイアップ動画ごとの再生数ランキングを見てみると、VTuberタイアップの本質が見えてきました。上位の動画はVTuberが集う大会やコラボ企画がほとんどを占めていました。また他にも同じ事務所のVTuberが連日リレー形式で配信をする企画も目立ちます。こういった連続的、連鎖的な取り組みができるのもVTuberならではのポイントと言えそうです。

特に「にじさんじ」は『にじさんじ甲子園』『にじさんじ麻雀杯』など、タイアップながらオーガニックの企画を凌ぐほどの大ヒット企画を複数展開しています。これもANYCOLOR社が評価される理由、強みと言えるでしょう。

【#にじさんじ甲子園 2022 】決勝

【にじさんじ】にじさんじ麻雀杯 花鳥風月戦【#にじさんじ花鳥風月戦】

#ホロライブヘブバンWEEK

④VTuberプロモーションの効果を高めるポイントを仕掛け人に聞いてみた

ここまでゲーム業界のプロモーションにおけるVTuberの起用について各種データを見てきました。状況や可能性を感じてもらえたのではないか?と思うのですが、最後に「実際にVTuberのプロモーションで高い効果を出すためのポイント」について深ぼりたいと思います。

これまでたくさんのVTuberプロモーションの仕掛けている"プロ"のお二人にVTuberプロモーションのポイントをヒアリングをしてみました。非常に参考になるお話をしていただきましたので、その内容を共有します。

(1)TheSwampman株式会社 横田 雄士氏

①VTuberプロモーションで効果を出すためのポイントを教えてください
何をもって効果とするかの定義にもよりますが、本質的に実施する意味があるのは、短期的な露出以上に、中長期的にプロモーションの対象となった製品に対して、タレントの方たち自身が愛着や興味をもってもらえるようにすることだと考えています。そのための企画を立て、文脈を構築し、キャスティングを行うことを心掛けています。

最終的な露出を重視して、大量にタレントをアサインすることも否定はしませんが、例えば同じことを何十人にやっていただいても、ご本人たちにとっても、視聴者にとっても、見ていて楽しいものにはなりにくい側面もあるので、そういった目的の場合にも、いかに「面白くする」ひとさじの企画のスパイスを入れられるかどうか、が重要だと考えています。

②VTuberプロモーションと相性の良いゲームジャンルや特徴はありますか?
おおざっぱに言えば、シングルプレイのものよりも、多人数で遊べるもののほうが企画を立てやすい側面はありますが、結局はキャスティング対象となるタレント本人が楽しめるものが相性が良い、と考えるのが適切だと思います。

楽しめるかどうかは未知数だが、宣伝として取り組んでいただいているその瞬間は少なくとも楽しんでいただけるような企画を載せることができればどんなものでも結果的に相性が良かった、と言える結果を残せるかもしれませんし、「どう企画を載せても調理のしようがない」といったケースだと誰が何をやっても相性が良くない、という判断をしています。

③印象に残っている優れたVTuberプロモーションの事例を教えてください
現在、年間数十本のVTuberを起用したプロモーション企画に携わっていますが、その中でやはり凄いと思うのは、にじさんじさんが定期的に開催している「雀魂」の大会です。

1.雀魂×にじさんじ

初回の「にじさんじ最強雀士決定戦」を皮切りに、現在は年2回、個人戦の「にじさんじ麻雀杯」とチーム戦の「花鳥風月戦」を開催いただいておりますが、毎回ドラマがありますし、麻雀のルールがわからなくても面白いし、麻雀のルールがわかればもっと熱中できる、という非常に素晴らしい仕上がりのタイアップになっていると思います。

2.ガーディアンテイルズ

同じくにじさんじさんで実施させていただいた「ガーディアンテイルズ」のいわゆるリレー配信企画「しゃち通クロスレビュー」というものがあるんですが、一連のリレー企画を通して、たくさんの切り抜き動画が生まれたり、リレー配信企画の時点ではお声がけしていなかったタレントの方にも遊んでいただけたりと、こちらの企画でVTuberプロモーションの理想形の一つとなるような結果が出せたかなと考えています。

 TheSwampman株式会社の横田さんが「面白い案件動画」と「つまらない案件動画」の違いについて取材された記事が電ファミニコゲーマーに掲載されています。大変参考になりますので、こちらもぜひご覧ください。

(2)株式会社エビリー VTuberご担当者

株式会社エビリーのVTuberキャスティングを得意としているご担当者にはゲーム以外の視点も解説いただきました。

①VTuberプロモーションで効果を高めるポイントを教えてください
VTuberプロモーションを手掛ける際に常に心かげている3点を紹介します。

1.「双方向コミュニケーション」になっているか?
アーカイブ動画投稿が主体のYouTuberとは異なり、ライブ配信主体のVTuber のコンテンツには必ず視聴者がリアルタイムに存在します。だからこそ、視聴者とコミュニケーションを取りやすいように、視聴者がライブ配信に参加しやすいように企画を工夫することが重要だと考えています。その工夫が、タイアップに特別感や高い熱量を持たせることができます。

2.「適材適所」になっているのか?
芸能人・YouTuberに共通する要素ですが「なぜその人が、この商品のプロモーションを行っているのか?」を説明できることが大事です。タイアップ案件だとしても、その方が独自に持つ「得意」や「好き」を存分に発信できることが効果に直結します。特にVTuberのファンはここに敏感なファンが多い印象です。逆にいうと「その商品が好きで好きでたまらない」と普段から発信している方にプロモーションを依頼することは、とても効果的なアプローチです。VTuberがイキイキと取り組んでいるタイアップは、ファンがタイアップの成功を応援してくれるように思います。

3.「ストーリー」はできているか?
そもそもYouTubeの動画/ライブ配信をいきなり1本投稿するだけでは商品を長く深く訴求することができず、視聴者の記憶になかなか残りません。そこで、タイアップが実現するまでのストーリーを段階的に視聴者にも展開していく取り組みも有効です。ストーリーの作り方として、VTuberとクライアントが一緒に企画を作り上げていったり、一緒に課題をクリアしていくリアリティーな展開も人気があります。

②VTuberプロモーションはどんな業種と相性が良いでしょうか?
ゲーム、アニメ、グッズ、音楽といったサブカルチャーなエンターテイメント領域の業種は視聴者の趣味嗜好と近いため相性が良いと思います。また飲食や消費財などの視聴者の生活に身近なものも高い効果が出している事例があります。

③印象に残っている優れたVTuberプロモーションの事例を教えてください
1.カレーメシ×ホロライブ

あえてゲーム業界以外の事例を紹介すると、「YouTube Creator Collaboration 部門賞」を受賞した「カレーメシ×ホロライブ」は「VTuberプロモーションで効果を高めるポイント」の全てが強く盛り込まれていた企画でした。

前代未聞のやりすぎコラボレーションの名の通り、ライブ配信だけではなく、オリジナル曲のミュージックビデオ、音楽ライブ出演、そしてテレビCMの出演(+見守り配信)など、双方向で適材適所でストーリーを生み出す施策になっていました。さらに「切り抜き動画」もたくさん生まれて視聴されていることも注目すべき事象です。

2.にじさんじ香水
Abema Shoppingとコラボレーションしたオリジナルグッズ「にじさんじ香水」も第7弾まで続く大人気のプロモーション企画と言えるでしょう。香水はVTuberをイメージして作られており、香りでVTuberの存在を身近に感じられる「新しい体験価値」を一緒に作っている商品と言えるでしょう

以上がインタビューでした。お二方にお話に共通していたのは「VTuberファーストな企画」こそが効果を高める本質だと感じました。生の魅力が出るライブ配信が主体のVTuberだからこそ、他のインフルエンサー以上に重要なのかもしれません。効果を高めるにはVTuberを理解する姿勢が何より重要だと感じました。

にじさんじ、ホロライブの2大VTuber事務所は構造的にとても強いですが、どちらの事務所にも所属していない渋谷ハルさんが主催する「VTuber最協決定戦」のような「事務所の垣根を横断したムーブメント」も生まれています。コミュニティとしてVTuberを捉える視点も重要だと思います。


まとめ

  • ライブ配信を中心に活動するVTuberは、編集されない"生の個性"で勝負している。ブームを経ても人気を継続するVTuberの実力はとても高い

  • 普段から「ゲーム実況」を活動のメインにするVTuberは、自身もファンもゲーム好きが多いため、ゲームとの親和性もとても良い

  • ライブ配信だからこそVTuber同士がコラボすることでのドラマやハプニングが起こりやすくなり、配信の魅力や面白さが掛け算になる

  • 人気のVTuberが多く所属する「にじさんじ」「ホロライブ」は構造的に魅力的なタイアップ企画を生み出しやすい。だから強い

  • プロモーションの効果を高めるには、VTuberの個性や適性が活かせて、VTuber自身が楽しめる「VTuberファーストな企画」が重要

  • VTuberは個人だけでなくコミュニティとしても捉える。「コミュニティの掛け算」が高い熱量とムーブメントを生み出す


以上、「ゲーム業界のVTuberプロモーションを大解剖〜にじさんじとホロライブ、拡大する影響力とその理由」でした。これからさらにゲーム業界にとってVTuberが重要な存在になっていくと思ので、引き続き注目です。

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kamui trackerの紹介

今回のVTuberに関する各種データはエビリー社の「kamui tracker」にご協力いただきました。「kamui tracker」は国内のYouTubeチャンネルのデータを元に今回ご紹介したYouTubeの国内マーケットデータだけでなく、YouTuber向けには自身のチャンネル分析をより簡単に深堀りできるツールを提供しています。無料で利用できる範囲もあるので、ぜひ活用をしてみてください!

MOTTOの紹介

MOTTOでは、ゲーム業界のマーケティングの課題解決を支援する事業を行っており、国内有数のYouTuberプロモーションの経験を元に「ゲーム実況マーケティング」の各種サポートもしています。「ゲーム実況マーケティング」はさまざまなアプローチがあります。ゲームのマーケティングに課題を感じてる方はぜひお問合せください

「ゲーム実況マーケティング」の全体像を元に各種支援をしています

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