見出し画像

「ゲーム実況マーケティング」の全体像と機会と課題〜ゲーム実況を制するものがビジネスを制する時代に知っておきたいこと

業界人なら知っておきたい「ゲーム実況」の世界』で、現在までの「ゲーム実況動画」の年間公開動画本数、視聴人口、実況タイトルの状況などのマクロな状況をデータを紹介しました。コロナ禍においても力強く成長し、現在は日本国内で2000万〜2500万人が日常的に「ゲーム実況」を楽しむようになっています。

これだけ多くの人が日常的に楽しんでいる「ゲーム実況」の影響力は爆発的に大きくなっており、ゲーム実況がきっかけで大ヒットしたゲームも珍しく無くなってきました。すべての業界で「インフルエンサーマーケティング」の重要になっていると思いますが、ゲーム業界も同様にもしくはそれ以上に「ゲーム実況」の活用がとても重要になっています。個人的には「ゲーム実況を制するものがゲームビジネスを制する」と言えると考えています。

しかし「インフルエンサーマーケティングの視点」でのゲーム実況の情報が世の中にほとんど存在しておらず、実態や構造が理解しにくいために取り組みが難しいという声をよく聞きます。そこで今回のゲーム実況noteの第2弾では、ゲーム実況をインフルエンサーマーケティングの視点で解説します。データも重要なので、今回もYouTubeのデータベースサービスであるエビリー社の「kamui tracker」にご協力いただきました。

このnoteがゲーム会社のプロデューサーやマーケターのみなさんはもちろん、YouTuberのみなさんにとっても少しでもお役に立てれば幸いです。

ゲーム実況のプラットフォームはYouTube、Twitch、Mirrativ、OPENREC、Mildom、ニコニコなど多数ありますが、今回の内容やデータはYouTubeに特化したものになっています。他のプラットフォームにも独自の特色があり、それぞれの活用方法があることにご留意ください。

1.YouTubeを活用したマーケティングの全体像

まずは「ゲーム実況」の主戦場であるYouTube活用の全体像を整理すると、大きく発信の主体を「ゲーム会社」、「ゲーム実況者/インフルエンサー」に分けることができます。どちらもゲームのマーケティングにとって非常に大事な取り組みですが、今回の記事では「ゲーム実況者/インフルエンサー」主体の動画のマーケティングに活用に注目し、それを「ゲーム実況マーケティング」と呼びます。

YouTubeを活用したマーケティングの全体像

2.ゲーム実況マーケティングの全体像と課題

次に、「ゲーム実況マーケティング」の全体像とアプローチを整理します。ゲーム実況動画は「①オーガニック動画」「②タイアップ動画」の2つに大別することができます。

ゲーム実況マーケティングの全体像

①オーガニック動画とは、ゲーム実況者が実況するゲームタイトルを自発的に選択し、ゲームの紹介/攻略/企画などの動画を投稿するものです。いわゆる多くの人がイメージするゲーム実況はこちらです。

ゲーム実況者に実況するタイトルとして選ばれるためには「動画が多くの人に再生してもらえる」という基本条件をクリアする必要があります。そのためには「ユーザ数が多いタイトル」「面白い動画をつくりやすいタイトル=ゲーム実況映えする」ことが重要です。

一方の②タイアップ動画は、企業からの依頼で仕事として動画を投稿するものです。よく「案件」と呼ばれています。YouTuberの影響力に期待してプロモーション協力を依頼するものですが、種別はたくさんあり、主に(1)単体動画、(2)連載動画、(3)生配信/LIVE、(4)番組出演の4種類があります。実況映えが強くないゲームでも、ゲーム実況を活用するためにはタイアップを積極的に活用していくことが重要になります。

①オーガニック動画も②タイアップ動画も、どちらもゲームのプロモーションではとても強力で有効な手段です。各ゲーム会社はゲーム実況を有効に活用するために「ゲーム実況マーケティング」をしていく必要があります。

画像2
ゲーム実況マーケティングの主なアプローチ

「ゲーム実況マーケティング」を成功させるためには

「ゲーム実況マーケティング」を成功させるためには、プロモーションの目的と目標、プロモーションするゲームの特性を元に、適切なアプローチをして、ゲームにとって最適なゲーム実況者とマッチングする必要があります。

この整理と選択を間違えることで、期待した成果が得られない失敗にもつながることもあります。これが「ゲーム実況マーケティング」成功のキモであり、最も難しいポイントです。

もちろんゲーム会社にとっては①オーガニック動画が増えるに越したことはありません。ただし、これを増やすことは簡単ではなく、オーガニック動画頼みになっているがゆえに、「ゲーム実況マーケティング」が進まないことも散見されるように思います。①オーガニック動画も②タイアップ動画のどちらも活用して「ゲーム実況マーケティング」を進めることが重要です。

3.ゲーム実況のタイアップはどれくらいあるのか?

前回のnoteではゲーム実況全体の市場つまりオーガニック動画をデータをメインに紹介しましたが、今回も「kamui tracker」にデータご協力いただき「タイアップ案件」の動画の市場動向データを紹介したいと思います。実際にどんなゲームで、どれくらいのタイアップ案件の動画があるのか、このデータは調査がしづらく、あまり業界でも知られていない貴重なデータだと思います。

2021年の最新データを追加しました

前回の記事では、2020年の年間でゲーム実況の動画の投稿数は約217万本とお伝えしましたが、その内のタイアップ広告動画の投稿数は約6,850本でした。タイアップ広告動画の数もゲーム実況の成長と連動して成長しており、2021年はさらに成長していることが予想できます。

ライブ配信のタイアップ動画が急成長している

ゲーム実況全体におけるライブ配信の成長に合わせて、タイアップ動画でもライブ配信が急激に増えていることがトレンドです。一方でアーカイブ動画のタイアップ動画の数は2020年から減少しています

プロモーションにも関わらず、ゲーム会社が事前確認や修正/編集ができないライブ配信のタイアップが増えていることは、ゲーム実況マーケティングが業界に浸透していることを示していると思います。視聴者はユーザはリアルな情報を求めてるようになっているのです。このライブ配信のトレンドは他の業界でも同様に起こってくると思います。

画像5

ゲーム実況のタイアップ広告を展開しているゲームタイトルは、2020年は約600タイトルがタイアップ動画を展開しており(ゲームタイトル以外のゲーム関連商品も含む)、ゲーム実況マーケティングに取り組む企業やタイトルが増えていることがわかります。タイアップ動画を投稿するゲーム実況者も増えており、2020年は1,000チャンネルを超えていました

画像5
ゲーム実況タイアップ動画の平均再生数

タイアップ動画の再生数は全体的には伸び悩み傾向

その一方で、タイアップ動画の平均再生数を見てみると、2018年までは平均再生数が年々増えていましたが、2019年からは平均再生数が減少しています。これはライブ配信のタイアップが増えていることも要因の一つですが、実はアーカイブ動画の平均再生数も減少しています。ゲーム実況者が増え、タイアップを活用するタイトルが増えた反面、タイアップ動画で多くの再生数を生み出し、高い効果を出すことが難しくなっているためと言えます。

・2020年の年間のタイアップ広告動画の投稿数は約6,850本で増加傾向
・タイアップ広告を展開したゲームタイトル数は約600タイトルで増加傾向
・一方、タイアップ動画1本あたりの平均再生数は減少傾向
・ライブのタイアップ広告が急激に増加しておりタイアップ全体の40%に

4.タイアップを積極的に活用しているタイトル

さらに詳細な状況や傾向を掴むために、2017年からのタイアップ動画の投稿数が多いタイトルTOP10を特別に公開します。このランキングで、具体的にどんなタイトルが積極的にタイアップ動画を活用しているのかわかると思います。

画像7
ゲーム実況タイアップ動画数が多いタイトルランキング

ゲーム実況タイアップ動画数のTOP10のタイトルのほとんどが「スマホゲーム」です。上位のタイトルは年間数百本を展開しており、2020年はTOP5のタイトルだけで3,000本以上のタイアップ動画があり、全体6,850本の内の45%を占めています。

ランキングを見ると「荒野行動」のタイアップ動画とびぬけて多いことに気がつきます。リリース直後だった2018年以降、毎年なんと1,500本以上のタイアップ動画を展開しています。2017年に1位だった「逆転オセロニア」が200本強だったことを考えると、前代未聞な数のタイアップ動画を展開しています。

「荒野行動」は2018年以降の日本を代表するスマホゲームの一つです。ゲーム実況の積極活用が「荒野行動」の大ヒットに重要な役割を果たした可能性が高いと考えています。なぜなら荒野行動はTVCMなどデジタル以外のプロモーションはそれほど積極的に展開してきていないからです。まさに「荒野行動」は「ゲーム実況を制するものがゲームビジネスを制する」の代表的な事例だと思います。

画像8
荒野行動「荒野の光」

「荒野行動」がとびぬけてタイアップ動画の本数が多い理由の一つは独自のインフルエンサープログラム「荒野の光」を展開していることが挙げられます。それくらいゲーム実況マーケティングに力を入れていると言えます。

「荒野行動」を含む、年間数百本のタイアップ動画を展開しているタイトルはどんな展開をしているのでしょうか?大きな特徴としては、同じYouTuberがたくさんの動画を投稿していることが挙げられます。

画像7
ゲーム実況タイアップ動画す上位タイトルの内訳

同じYouTuberを起用し続けるということは、同じ視聴者に新しい動画を視聴し続けてもらいたいということです。タイアップ動画の内容も「攻略」や「プレイ日記」が多く、視聴層は新規ユーザではなく明らかにゲームを遊んでいるアクティブユーザがメイン層になっています。つまり、既存ユーザのリテンションを目的としたタイアップ動画を積極展開しているゲームも多いということです。

タイアップ動画の展開本数が上位のタイトルは「オーガニック動画」の投稿本数が少ないタイトルも多いです。さらにスマホゲームはコンソールゲームと比べるとどうしても実況映えしにくい側面があります。実況映えしないゲーム”だからこそ”「ゲーム実況マーケティング」を真剣に考えることか求められているのです。

参考までに、タイアップ動画を積極的に活用して高い成果を出したのではないかと考えている事例をいくつか紹介します。再生数が多めの事例をピックアップしましたが、他にもいろんな事例がありますので要チェックです。

また、以下のnoteに「逆転オセロニア」がどのようにタイアップ動画に取り組んできているかが公開されていて参考になります。

5.オーガニック動画を増やす取り組みも重要

最後にゲーム実況者が自発的に公開する「オーガニック動画を増やす取り組み」を紹介します。ゲーム実況は時間がとても必要になるため、ゲーム実況を通じて収益を得られるようにすることは活動の土台であり、多くの実況者は視聴者を多く獲得できるゲームの動画を投稿したいと考えています。

オーガニック動画を増やすためには「遊んでいるユーザが多いゲームであること」「ゲーム実況者が実況をしやすいゲームであること」の2点はとても大事な要件になります。この2点こそが「実況映え」と言えます。

その前提も踏まえた上で、数あるゲームの中からゲーム実況者に選ばれなければなりません。つまり、オーガニック動画を増やすためには、”ゲーム実況者向けのマーケティング”をする必要があるということです。そうでなければ、これだけたくさんのゲームの選択肢があるなかで振り向いてもらうことはできません。

オーガニック動画を増やすための主な施策
(ゲーム実況者向けのマーケティング)

  1. ゲーム実況ガイドラインを公開する

  2. ゲーム実況者向けのインフルエンサープログラムを展開する

  3. ゲーム実況者の動画をプロモーションする

オーガニック動画を増やすための主な施策は上記の3点です。簡単に概要と代表的な事例を紹介します。

①ゲーム実況ガイドラインを公開する

ゲーム実況は長らく権利的にグレーな状況が続いていましたが、任天堂のガイドライン公開をきっかけに、ゲーム実況ガイドラインを公開する企業が増えてきました。ガイドラインでゲーム実況や収益化を許可してくれるからこそ、安心してゲーム実況をすることができます。今後はガイドラインが公開されていないゲームはゲーム実況者から敬遠されるようになると思います。

代表的な事例の一つは、2020年11月に発売されたNintendo Switch用ゲームソフト「桃太郎電鉄 〜昭和 平成 令和も定番!〜」です。300万本を超える異例の大ヒットの裏には確実にゲーム実況の取り組みが貢献しています。

②ゲーム実況者向けのインフルエンサープログラムを展開する

ゲーム実況ガイドラインの公開した上で、さらにインフルエンサーに選んでもらうために、ゲーム実況者への動画投稿インセンティブを提供するなどの特別な施策を展開しているケースも増えてきています。

先にご紹介した「荒野行動」の『荒野の光』、「モンスト」の『MONDEMY AWARD』、「東方ダンマクカグラ」の『YouTube動画投稿キャンペーン』の3つを代表的な事例として紹介します。これらはゲーム実況者が動画を投稿することにゲーム会社からメリットの提供をする施策です。

ゲーム実況の世界も競争が激化しており、ゲーム実況で成功することはなかなか難しくなっています。ゲーム実況者の単独ではなく、ゲーム運営と協力する形で一緒に成長していくことも求められるます。海外ではこういったプログラムは先行しているため、国内でも今後増えてくると思います。

③ゲーム実況者の動画をプロモーションする

ゲーム実況者が投稿した動画をゲームユーザに見てもらえるように、ゲーム側がプロモーションをすることも重要な取り組みです。ゲーム実況者の成長は実況しているゲームの成長に一定は依存する関係にあります。ゲーム実況を通じてゲームがもっと成長するように尽力しているわけです。ゲーム側もゲーム実況者をより成長させるための尽力することもゲーム実況マーケティングを成功させるためにとても重要な視点です。

クラロワはゲーム内でゲーム実況を紹介するコーナーがあります

6.「ゲーム実況マーケティング」を成功させるために

「ゲーム実況マーケティング」を成功させるためには、ゲーム実況プロモーションの目的と目標プロモーションするゲームの特性を元に、適切なアプローチをして、ゲームにとって最適なゲーム実況者とマッチングすることが何よりもだいじだと考えています。

ゲーム実況マーケティングを成功させるために

上記の図の要素がしっかりと噛み合い、最適なゲーム実況者とマッチングができたときに、高い効果が出せると考えています。そのためには「マーケティング戦略」「ゲームそのもの」「ゲーム実況とゲーム実況者」の高い理解が求められるため、取り組みが難しい施策だと言われるのだと思います。

スマホゲームのYouTubeマーケティング大全〜全部わかる!最新トレンドと成果を出す方法〜

具体的にどのように取り組んでいくべきかを、12月9日(木)に開催した無料ウェビナーで実際に取り組んでいるゲーム会社と一緒に深掘りをしました。レポート記事を以下に公開しているのでぜひこちらもご覧ください。とても具体的で参考になると思います。

7.ゲーム実況を制するものがゲームビジネスを制する

今回は、ゲーム業界のインフルエンサーマーケティング「ゲーム実況マーケティング」について具体的なデータを交えながら、どのような取り組みがあるのかを解説してきました。前回と併せて「ゲーム実況マーケティング」の大枠を理解することに少しでも役に立てば幸いです。もしこの記事が少しでも参考になりましたら、ぜひ「スキ」を押していただければうれしいです。

まだまだ「ゲーム実況マーケティング」は始まったばかりです。今後もゲーム実況の重要度がさらに高まる中で、マーケティングも進化していくと考えています。一緒に研鑽していければと思っています!

kamui trackerの紹介

今回もYouTubeデータはエビリー社の「kamui tracker」にご協力いただきました。「kamui tracker」は国内のYouTubeチャンネルのデータを元に今回ご紹介したYouTubeの国内マーケットデータだけでなく、YouTuber向けには自身のチャンネル分析をより簡単に深堀りできるツールを提供しています。無料で利用できる範囲もあるので、ぜひ活用をしてみてください!

MOTTOのYouTube事業の紹介

株式会社MOTTOでは、国内トップクラスの数のYouTubeマーケティングの経験を元に、「企業のYouTubeマーケティングの右腕」をテーマにYouTubeビジネス支援サービスを提供しています。キャスティングやタイアップの提案だけではなく、ビジネスに合わせてどのようにYouTubeと向き合っていくべきか、YouTubeのトータル戦略からサポートすることが特徴です。

さらにゲーム実況における「オーガニック」領域の新サービスも提供しています。ご興味がある方はぜひお問い合わせください!

Twitterもやっていますので、ぜひフォローをお願いします!

ぜひスキ、フォローをお願いします。もしサポートいただけたら、ゲーム/アプリ業界のマーケティングへの貢献活動に活用していきます。 Twitterフォローもよろしくお願いします! https://twitter.com/MOTTOI