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青春の感触に行列する心理は、歳を重ねても分かち合える。

その日、ジムに新しい器具が入った。とりわけ最新の器具ではない。新しい器具が人気なのは目新しさからか、それとも。

後ろ姿

僕は、少し年配に見える先輩方がその器具に順番に並んでいるのをランニングマシーンから鏡越しに見ていた。有酸素運動を終え、少しタイプのこのジムのアイドルの彼女に近寄った。話題があるうちは話すに越したことはない。少しのぎこちなさを若干の照れ隠しに利用しつつ彼女に近付いた。

少しタイプの彼女は、まるで僕が話し掛けるのを見越していたかのように先に僕に話し掛けてきた。

「ねぇ。あなたが言いたいことは大体わかるわ。それを私との話題にしようとしているのも。それなら今日はやめて欲しいの。あなたにそれを聞かれるとしたらもう5人目なの」

少しタイプの彼女は、周りの年配の先輩方が僕より先に同じ質問をしていたことを囁き、僕からの質問を遮ろうとした。

僕は、年配の先輩方と同じ思考だと思うと若干恥ずかしくなり、彼女との距離を遠く感じたが少しタイプの彼女と話せる機会がないことが頭によぎり僕を奮い立たせた。

横向き

「なぁ、君に僕が聞こうとしていたことが仮に君の言う通りだったとしよう。だけどね。そこで仮に僕が君と話せなかったら僕は何のために筋トレしているかわからない。それに年配の人達にもそれこそ僕は負けたことになる。歳では負けていても、話し掛けるチャンスは平等にあるべきだ」

半ば強引に少しタイプの彼女に迫ったが、少しタイプの彼女はいつものように嫌悪感を抱く眼差しで僕に問い掛けた。

「あなたの言うことにいちいち反応する自分がバカらしいわ。だけどそうね。私の仕事でもあるから一応説明してあげる。この器具はね。在りし日の青春が思い出せるらしいの。だけどそれはね、誰にでも平等というワケではないの。あなたにそれが降りかかるかは正直私にはどうでも良いことよ。それを知りたくもないわ」

僕は、いつもより若干伏し目がちな少しタイプの彼女を見逃さなかったがそこには触れたくなかった。

「使わせてもらうよ」

魅惑の正面

少しタイプの彼女は、一言だけ添えてその場から去った。

「背中にボールを押し当てるのよ」

僕は言われた通りに背中にボールを押し当て足を持ち上げ腹筋を鍛え始めた。

足を高く持ち上げようとする分、支えとなってボールが背中に沈み込む。

彼女の言っている意味が一瞬にして理解出来た。僕には在りし日の青春が甦った。

いつものセットより多くのセットをこなしその余韻に涙が出そうになった。

この器具に行列が出来るのは、在りし日の青春を取り戻す年配の方達にとってもある種の戦いなのかもしれない。

いつもより多めのセットを終えた僕を少しタイプの彼女は見逃さなかったが、それには触れずに僕にこう言った。

「どうやら思い当たったみたいね」

僕はそれに反応したら何かが終わる気がしたため、努めて明るく少しタイプの彼女に答えた。

「あいにく僕には思い当たる彼女なんていなかったよ」

少しタイプの彼女は、いつもより優しい目を見せそして悲しみを帯びた視線で僕に答えた。

「私は、一言もあなたに昔の彼女を思い出させる器具だなんて言っていないわ」

しまった。僕は調子に乗ると口を滑らせる。思い出の余韻を捨てなければならない。

少し遠慮がちなバストの彼女にどうやって言い訳しようと考えていながら、僕の頭の中は少し大きめなバストの彼女で一杯だった。

なんのはなしですか

村上筋肉倶楽部
~背中で感じるバストの青春編~

目標まであと7㎏。


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