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誰一人取り残さない ~ 世界一美味しいオレゴンの青空レストラン 3

グラスルーツガーデンには毎年2千人のボランティアやインターンが訪れる。ユージン市の中心街からバスで15分というアクセスの良さも手伝って車がなくても誰もが気軽に足を運べる。都市農園の強みだ。

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フードバンクが運営するこのガーデンではボランティア希望者が多く人材には事欠かない。ここで収穫された有機無農薬野菜は経済的な理由で十分な食料が買えない人の元へ届けられる。大勢のボランティアや寄付のおかげで、新鮮で栄養満点の野菜を無償で提供することができるのだ。道具、苗や種、肥料、ホースなど必要な物の大半は地元の企業、農家、ガーデニングショップ等からの現物寄付で賄われる。入り口に設置された壁には寄贈者の名前が記されている。

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私たち親子がガーデンデビューしたときは、経験あるボランティアらからオリエンテーションを受けた。その中には大学の社会人コースで学んだマスターガーデナーという肩書きを持つ専門家もいて熱心に指導してくれた。参加者が互いに経験を共有し教え合うシステムが機能しているため、誰でも思い立った日から気軽に楽しくボランティアを始めることができる。

初日は作業用具について説明を受けた。グローブ、ラバーブーツ、シャベル、手押し車などが道具小屋にきれいに並んでいて、子供用にもおもちゃではなく本物の道具がたくさん揃っている。ブーツに履き替えてグローブをはめ、重いスコップを手に作業の輪に加わる。体重を利用して効率よく耕す方法を教えてもらった。「日本から来たんだってね。日本料理にはどんな野菜を使うの?」などとお喋りを楽しみながら作業の流れを覚えた。2回目以降は苗を植える作業をよく手伝った。苗床に穴を掘り水を巻いてから苗を置きふかふかの土をかぶせる。最後は両手で「Give it a little hug そっとハグするように」土を押さえてできあがり。

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常連さんには年金暮らしのシニア層が多かった。一人暮らしのお年寄りもここに来ればさまざまな年代の人たちと交流でき、土と植物の中で身体を動かすことで健康的な生活が維持できる。中にはマスターガーデナーの資格を取り、ハーブ園のリーダー、葡萄棚のリーダー、コンポストのリーダーなどガーデンのある特定のスポットの担当に任命され、大活躍しているシニアボランティアもいた。

ユージン市は大学街ということもあり教育関係者も多かった。大学で環境学、フードスタディー、ランドスケープアーキテクチャーといった学部で教える先生がボランティアに来たり、学生らが単位取得のためにインターンシップに来ることもある。アメリカでは高校や大学の授業の一環として、地域の課題解決に貢献することが求められることが多い。また、大学街には全米、世界じゅうから学生や教員が集まる。国、人種、民族、性、文化の多様性を尊重しながら皆で力を合わせて土を耕す。

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大学のスポーツチームにも社会貢献が義務付けられている。体格のいい長身のバスケ部女子が20名やって来て大量の土を運んでトマトを植えるための畝をたくさん作ったことがあった。娘のミンモもお姉さんたちに混じって汗だくになって手押し車で土を運んだ。彼女らのチームプレイは素晴らしく気の遠くなるような大仕事を午前中の数時間で終わらせた。さすがアスリート奨学生だ。

平日は仕事で忙しい人は週末にやって来る。同じ会社に勤務するグループはボスに勧められて毎週末ボランティアに来ていた。ミリタリーの人は身のこなし方が軽やかだった。

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ガーデンでは障がいを持つ人も積極的にボランティアに関わる。全盲のマイクはよく雑草抜きの手伝いに来ていた。彼がバスを降りて白い杖をつきながらガーデンに現れると誰かが雑草のある場所まで彼をエスコートし、地面にクッションを置き、大きな虹色パラソルを固定して彼が作業がしやすいように手伝った。マイクは常連のボランティアの声と名前をすぐに覚えた。私とミンモが話している声を聞き分けて「ハロー、ミンモ」といつも声をかけてくれた。彼は社交的で人気者だった。

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そのほかにも、アルコール中毒から立ち直り勉強に打ち込むシングルマザー、文字を認識できない人、ひきこもりの若者、特別支援が必要な中高生といった社会の主流から取り残された人たちもガーデンの大切な仲間だった。複数のNPOとグラスルーツガーデンのスタッフが協働で彼らがボランティア活動を通して希望を持てるよう、自立できるよう温かく見守っていた。

小学生や園児は先生に引率されて校外学習として来ることが多かった。堆肥作り体験では、子供たちは生ゴミの臭いに一瞬顔をしかめながらもミミズの大群に興味津々だった。子供の感性は無限大だ。キッズサイズの長靴とグローブを借りれば本格的な畑の手伝いも体験できる。小さい手押し車で楽しそうに土を運んでいる子どものなんとも可愛いこと。

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ここにくれば野菜や果物がどこから来るのかを学ぶことができる。どうやって生長するのか自分の目で実際に見ることができるのだ。カフェテリアで冷凍カット野菜しか見たことのない子供は野菜がどう実るのか知らない。私は芽キャベツが鈴のようになるのを初めて見て驚いた。ルートベーダとかコルラビ(写真下)とか、宇宙人みたいな名前の面白い野菜にも出合えて感激した。

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ミンモもこのガーデンに大いに育てられた。10代前半の子供の感性がガーデンから得られるものは測り知れない。土の耕し方、肥料のあげ方、種の撒き方、苗の扱い方、水のやり方、雑草の抜き方、収穫の仕方、そして収穫物を自分で料理するところまで、一連の作業を学びながら貴重な体験をたくさんさせてもらった。

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ミンモが手押し車と鋤を上手に使って堆肥の山から腐葉土をかき集めて畑に運ぶ作業を一生懸命に手伝っていたのが印象に残っている。

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トレリスにトマトの茎を麻ひもで固定したり、マルチを敷いたり、摘心をしたり、温室ハウスの設置を手伝ったりと専門的なスキルも身につけた。ミンモはトウモロコシの種を植えたのが最高に楽しかったとよく言っていた。

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自分が食べるものを自分で育てそれを料理する。食べることは生きること、これほど素晴らしい命のためのレッスンを受けられる環境があるだろうか。ケールとレタスの箱詰め作業では、野菜を待っている人たちに思いをめぐらせた。少し傷んでいるのはキッチンへ持って行き、青空レストランの今日のランチに使ってもらう。

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子供もお年寄りも、失業した人も、心や体が不自由な人も、ガーデンは誰でも温かく迎え入れる。インクルーシブなコミュニティは誰一人取り残さない。みんな一緒に土を耕し同じ鍋の野菜スープを食べる。みんなで力を合わせて苗から大切に育てたトマトだ。

ミンモ、グラスルーツガーデンでの何にも変えがたい体験、一生の宝物だよ(続く)

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