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森てく
2021年12月19日 16:42
カレンダーは、今日が何曜日か分からぬ者にとっては福音書、砂漠の北極星とも呼べるまさに日常生活の羅針盤だった。 人々はこぞってその数字の書かれた紙束を買い求め、トイレや茶の間の壁にピンでとめた。これで好きなときにいつでも日にちを見られる。 ただ間もなく重大な欠陥が明らかにされた。 今日が何日か分からぬ者にとってそれはただの数字の羅列にすぎないということに。 携帯もパソコンも普及してい
2021年12月13日 16:19
今年の一生懸命小説大賞にもたくさんの応募作が寄せられた。 ざっと五千作品以上あるという。学校の体育館半分くらいの量だ。「数だけならすごいことです」 と、担当の何人かが口々に言う。 確かにと、山と積まれた段ボールを前に、私もうなづく。 去年の大賞は、30年スーパーのパートで二人の子供を育て上げたシングルマザーの方だった。 作品はまあまあだったけど、その十倍の分量の、自分の子育て記
2021年12月9日 13:30
前回 きっかけ部には新入部員30人がいた。初日に僕一人だけになってしまった。だけど次の日に5人入った。でもすぐ3人が辞め、翌日に10人入部し…、という具合に梅田駅みたいに人の出入りがとんでもなく激しいことが分かってきた。 どうやらみんな掛け持ちで入部してくるようである。運動部の生徒も思いのほか多い。 たとえば守備がうまくなるきっかけをつかみたい野球部の補欠とか、馬のにおいが好きになるきっ
2021年12月6日 16:38
きっかけさえあれば人は何にだってなれるという勧誘の言葉で迷わず僕はきっかけ部に入った。 自己紹介が済むと、部長が僕ら新入部員(30人)に順に目標を尋ねた。 みんな口々に自分の目標を言う。曰く学年一位になる、クラス一位になる。いい会社に就職する。自分の店を持ちたい。株でひと山当てたい。… スポーツ系の望みを言う者はいない。そんな人たちはみんなその運動の部活に入るから。だがそれはちょっともった
2021年12月5日 17:19
文学賞パラドックスという有名な言葉がある。 一応説明する。昔の文豪と言われる人たちが現代に突如生き返って、ある文学賞に応募する。でも誰も受からないという矛盾である。 一時期知的な遊びみたいな扱われ方をしていたことがあって、解釈は人によりちょっとずつ変わっている。 たとえば大審問官の例を取るまでもなく、今の時代と考え方や精神性が合わないだろうとか、またスマホは当然として、今の社会をとらえて描