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フェミニズムと音楽│Divaの歌う自立した女性像

音楽に込められたメッセージは、時代を映す鏡である。今回は(個人的お気に入りの)海外の女性アーティストの歌詞を通して、フェミニズムの潮流を紐解いていきたい。

 フェミニズムと音楽、その源流をたどると、やはりMadonnaやChristina aguilera、などが挙げられるだろう。Madonnaは「Express yourself」で、音楽を通して女性の尊厳を歌うアーティストの先駆けとなった。歌詞だけでなく、過激なパフォーマンスを通して「強い女性像」を全面的に押し出していく彼女の姿は、見るものに強いインパクトを与える。「Like a player」など宗教的な要素を持つ楽曲も多かったことなどから、ときには強いバッシングに晒されたものの、彼女がそれに屈することはなかった。
 Christina Aguileraは「Beautiful」で人々のもつ美しさを高らかに歌い上げてみせた。「Can't hold us down」ではより直接的なフェミニズムの思想が随所に現れている。

彼女たちが築いたフェミニズムの大きな”地盤”は、のちのアーティストに多大なる影響を与えた。さて、ここからは2010年代にリリースされた楽曲に込められたメッセージを、その歌詞を引用しながら紹介していきたい。

フェミニズムの代表、Beyoncé の 「Formation」(2016)

 Beyoncéは、フェミニズム・アイコンの代表と言える一人であろう。「Run the World」では、「Who run the world? Girls(地球を回しているのは女性である)」という力強い表明をしてみせた。
 「Single ladies」では、別れてから言いよる男に対し、「わたしが好きだったなら指輪のひとつでも嵌めておくべきだった」と一蹴してみせる。MVの中で彼女は、左手に鎧のようなものをはめているが、左手の薬指は簡単には渡さないという意思の表れでもあるのだろう。何度も手のひらを返す振り付けが印象的である。

Flawless」の歌詞においては、ナイジェリアの作家であるチチマンダさんのスピーチ(*1)が引用されている。

”女の子たちはおとなしくするように価値のない人間にとどまっておくように教育されます。女の子は野心を持ってもいいけれど持ち過ぎないようにと言われます。”

という一節から始まり、女性と男性の不平等が語られている。

そして2016年にリリースされたアルバム「Lemonade」の中の「Formation」では、彼女は自分自身をビルゲイツにたとえ(I just might be a black Bill Gates in the making)、女性の経済的自立を歌う。

Okay, okay, ladies, now let’s get in formation, cause I slay
Okay ladies, now let’s get in formation, cause I slay
Prove to me you got some coordination
Slay trick, or you get eliminated
オーケー、女性たち、位置について、圧倒してみせるから / 女性たち、教育を受けなさい、圧倒してみせるから / 私たちは対等だと証明して見せて、私がやってみせるから/ 成し遂げるのよ、さもなくば”排除”される

 この曲は女性を鼓舞する曲であると同時に、アフリカン・アメリカンへの誇りを歌ったアンセムでもある。彼女はアメリカでも最大規模のイベントであるCoachellaで黒人女性初のヘッドライナーを務めた。
 その圧巻のステージはしばしば「Beychella」と呼ばれ、黒人女性という立場から、アフリカンアメリカンと女性の尊厳をこれでもかと主張してみせた。ドキュメンタリーの「Homecoming」にはその一部始終が収められているので、視聴をお勧めしたい。

人類の平等を目指したLady Gagaの歌う「Scheiße」(2011)

 Lady Gagaはいち早くフェミニストである、と宣言したアーティストの一人である。派手なファッションのイメージが先行しがちであるが、彼女はあらゆる人種やLGBT+のみならず、いじめや貧困に対する包括的な支援を行なっている活動家である。「Born this way」ではすべての人種、性的マイノリティを、「私はこうあるべくして生まれた」と肯定する。

 彼女はその奇抜なファッション、歌詞や独特の世界観によって、「自由で強い女性像」を自ら体現している。「Scheiße」における一節からは、彼女のフェミニズムの思想が垣間見られる。

Love is objectified by what men say is right 
But high-heeled feminists, tell lessons far from this
Express your woman-kind
Fight for your right (Fight for your right)
If you're a strong female,You don't need permission.

愛は男の正論で形作られるもの/ハイヒールを履いたフェミニストたちはそれとは程遠いところで教えてる/ 女らしさを表現して、権利のために闘っている / あなたが強い女性であるなら、何の許可も必要ない(一部省略)

 ここで出てくる、”ハイヒール”を履いたフェミニストたち、という部分。フェミニスト、という言葉は、それまではお堅いイメージがあり、自身をフェミニストである、と表明することを嫌う人もいた。(今現在でも、そうしたイメージを持った人は少なくないと思われる)ここでは、女性らしさを保持したまま女性の権利のために闘うフェミニスト像が描かれているのが印象的である。

If you're a strong female,You don't need permission. という力強いリリックには、彼女の信念が現れている。

(ちなみに、「Scheiße」はドイツ語のスラングで、英語で言うShit.のような汚い言葉。彼女は歌中で I don't speak German,But I can if you'd like.あなたが望むならドイツ語だって話せる、と言っておきながら、結局話せるのは子供っぽいスラングだけであるというオチ。)

 新しいアルバムの「Chromatica」の「Free Woman」では、I'm still something if I don't got a man(恋人がいなくたって,私には存在価値があるわ)と、男性性に依らない女性の存在を肯定する。彼女の歌詞世界における女性像は一貫して強く自立している。
 一方、自身が若いころレイプの被害にあったこともあり、性犯罪の被害者に対して寄り添った「Till it happens to you」のような曲を書いていたり、いじめに苦しんで自死した少年に捧げた「Hair」などの曲もある。自身に向けられた暴力性を乗り越えてきた強さと、同じように弱った立場にある他者に対する優しさを兼ね備えているのが、彼女の特徴と言えるだろう。

 また、彼女は細い体型にとらわれないボディ・ポジティブの思想も併せ持っていたことを付け加えておきたい。名誉あるSuper bowlのハーフタイムショーに出場した際、その体型に対し「お肉が衣装にのっている」「へそを隠したほうがよい」などの否定的な意見が集まった。それに対し彼女はInstagram上でこう反論する。

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   私の身体について話題になっていると聞いたわ。私は自分の身体を誇りに思っているし、あなたもあなたの身体を誇りに思うべき。あなたが誰で、何をしているかに関係なくね。
成功するために他人やほかの何かに構う必要がない理由を、私は何百個だって説明することができるわ。あなたはずっとあなたであり続けましょう。

 他者の目にとらわれず自分を愛する、というのは彼女の一貫したメッセージであり、「ボディ・ポジティブ」の発信者としてくくるのには違和感もある。しかしながら、Lizzoをはじめとした、「痩せていることが美しい」とされていた価値観に抗うアーティストの存在は、彼女のような自身のありのままの姿を堂々と見せる姿勢と根底で通じているように思える。

新世代の歌姫Ava Maxの「King &Queen」(2020)

(出だしがBon jovieの「You give love a bad name」に似てるなと思ったら同じソングライターだそう。新しい曲なのにどこか聞きなじみがあるのはそのせいかもしれない。)

 彼女は男性の権威(あるいは男性性の象徴?)をSword(剣)にたとえ、And you might think I'm weak without a sword But if I had one, it'd be bigger than yours(剣がないから弱いって思っているでしょうけど/ もし私が持ってたなら、あなたのより大きい剣)と歌う。ただ、この曲は単なる女性賛美で終わる曲ではない。

In chess, the king can move one space at a time
But queens are free to go wherever they like
You get too close, you'll get a royalty high
So breathe it in to feel alive
チェスでは王様はひとマスしか進めない/けれど女王はどこにでも行ける
近すぎすぎたら、権力を手に入れておかしくなってしまう
深呼吸して、生きてるってことを実感して

 彼女は、人が権力を手にすることによってそれに陶酔してしまうことを警告している。現実的に女性が権利を回復しつつある世界の現状が、歌詞にも投影されているようにも思える。

 以下、Ava Maxがこの曲に込められた意味を語ったインタビューを引用する。

But at the end of the day, I really wanted to give off a message of it’s not just kings who can be in charge, it can be queens and we can have equality for all and that’s the world I think we’re going towards.. I don’t think it’s 100% there yet, but definitely almost there. And I think we have a lot of work to do. 
でも、一日の終わりには、王様だけではなく、女王様にもなれるし、全ての人に平等になれるというメッセージを伝えたかったのです。まだ100%とは言えませんが、間違いなくほぼ達成していると思います。 そして、まだまだやるべきことはたくさんあると思います。

 彼女の言うように、女性差別はかなり是正されてきて、日常の中で、あからさまな差別を受けた、という経験を持つ人の数は少なくなってきているように思える。

 彼女らが力強く訴えた男女平等は、果たして実現した、のだろうか?

彼女たちが訴えたフェミニズム、その現状

 冒頭で述べたように、様々なアーティストが書く歌詞には、ときに政治的状況や世相が現れていたりもする。

 日本では5月ごろ、きゃりーぱみゅぱみゅが政治的発言をして「アーティストは政治に口を出すな」と叩かれていたが、私はむしろ、アーティストが音楽をつくる、ということ自体とても政治的な行為であると思う。個人の感性を通して多くの人の共感を得るアーティストは、ある意味で、とても大衆的で、多くの人を(物理的にも、精神的にも)動かす力を持っているからだ。

 別にいちいち聞く音楽の歌詞を調べてそれをむりやり社会に結びつけたいわけではない。そんなのしていたら堅苦しくて音楽を聞くのが嫌になってしまう。音楽は、自分が聞いていて、楽しんだり、癒されたり、悲しんだりできればそれで十分である。ここに紹介した曲も、その楽曲だけで十分すぎるほどの魅力を持っていると思う。

 ただ、「個人的に」共感できた、気になった歌詞が、実は多くの人が同じように抱えている悩みであったり、叫びであったり、秘めた願いであったりすることもある。そしてそれは、今私たちが生きている社会における問題と直結したものであったりする。
「個人的なことは政治的なことである」というのは第2波フェミニズムのスローガンともなった言葉であるが、私たちが普段聞いている音楽も、社会のうねりのなかで生み出されたものであり、少なからず当時の情勢を反映している。

   男女平等の実現はかなり現実的になってきてはいるだろう。しかしながら、世界に目を向けると、女性差別はまだ現存している。 今も国際的に深刻な問題となっている女性差別の問題でいうと、性暴力や虐待、未成年の早期結婚、雇用機会や賃金の不平等、教育格差、などが挙げられる。

日本の現状に引き寄せて考えてみると、出産や子育てにおける女性の役割はいまだ女性への負担が大きく、女性の社会進出を謳っておきながら、国や自治体による支援はいまだ不十分である。

  日本での医学部入試でれっきとした女性差別が横行していたことは記憶に新しいが、就労機会においても、男性と女性の間の溝は依然として根深い。
日本のジェンダーギャップ指数は121位と、G7の中でも極端に低くなっている。

   アーティストが自由に生きる女性の姿を歌うのは、まだそれが実現していないからである、とも言える。声高に権利を求めなくても、当たり前にそれが実現されている社会こそが、理想であり、「フェミニズムを歌う歌」が無くなった時こそ、本当の男女平等が実現した時なのだと思う。

最後に、Beyonceの Flawless (*1)で引用されたチチマンダさんのスピーチを全文引用しておきたい。どこか共感できることがあるとしたら、それは社会がいまだ変革を必要としている証なのかもしれない。

女の子たちはおとなしくするように価値のない人間にとどまっておくように教育されます。/ 女の子は野心を持ってもいいけれど持ち過ぎないようにと言われます。/ 成功は目指すべきだが、成功しすぎないようにと言われます。男性を脅かしてしまうのです。/ 女性は、自分は女だから結婚を夢見るのが当然とされます。/ いつも心の中では結婚することが一番重要だと言い聞かせながら人生の選択をしなければいけないのです。/ 結婚は喜びと愛と支え合いの源かもしれないけどそれならばなぜ女の子に結婚を夢見るように教育をして男にはそうしないのでしょうか。/ 女の子はお互いをライバルとして見るように育てられます。/仕事や功績を成し遂げるためにライバル心を持つことはいい事でしょう、しかしそうではなく彼女たちは男性の気を引くライバルとして相手を見るように育てられるのです。/女の子は男の子のように性的な生き物であってはいけないと教わります。/ フェミニスト 社会、政治、経済において男女平等の信念を持つ人

次回は、LGBT+とマイクロアグレッションについて、例のごとく歌詞を取り上げながら書いていこうと思う。今のところ、RINA SAWAYAMA、Marina,King princessあたりを取り上げる予定。

↓【合わせて読みたい】フェミニズムと音楽シリーズ第二弾はこちら。

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