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短編物語

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短編小説として書いたもの集めました。
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#エッセイ

[物語]始まりの花火

[物語]始まりの花火

あの日僕は仕事を終えて、
ずっしりと重い心と身体を、
引きずるように電車を降りた。

駅から出たら、暗いはずの空が
ピカピカと明るくなっていて

ヒュー
ドドドーン

夜空に花火が上がっていた。
駅前には人が溢れていて、
僕は明るくなった空を振り返りながら
少しのため息をついて、
すぐに帰り道を急いだ。

家路への暗くなった田舎道。
街のあちらこちらで花火があがっていて
まばらに人が立ち止まって見

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[物語]ウイスキー

[物語]ウイスキー

ウイスキーが、好きなのよね。
スコッチ、かな。
ロックで飲むのが、好きなのよね。

クスッと笑いながらそう言った君は、
やけにクールでかっこよかったんだ。

僕はビールが好きで、
ヨーロッパなんかのエールビールについて、
熱く語るのを君は、
ニコニコと聴いていたよね。
僕はいつもそんな君の優しさに包まれて、
熱く語ってしまうんだよね。

いつも一通りの優しい時間をくれた後君は、
静かに君自身のこと

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[物語]寂しい風が吹いたら 1

優しい人があの人。
優しさが、全身から溢れてる。
それがあの人。

いつものあの部屋のテーブルの向こうに
静かに佇むように座っているあの人。
扉を開けて入って、
僕はテーブルのこっち側に座る。

顔を上げると、
少し右に顔を傾けたあの人が、
僕に耳を澄ませて待ってくれている。
その瞳は優しさと暖かさで溢れてる。

あの人はいつだって、
そんな人。

だけど、僕は知ってる。

時々あの人に、
寂しげ

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[物語]寂しい風が吹いたら 2

愛は感じるものよ

そう、あの人は言った。
当時の僕は、愛を探してた。

あの人は、
愛を感じ取る天才なのだ。

寂しい風が
時々あの人を包んでも、
その風を心にそっとしまい込んで、
そこに僅かにも確かにある、
目の前の愛に、耳を澄ませて、
心を傾けてきた。

そう、あの人はそんな人。

一方で僕は…

愛を感じても、
いつの間にかその愛は
心のどこかにあいた穴から漏れ出て、
いつの間にか空っぽに

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