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[物語]ウイスキー

ウイスキーが、好きなのよね。
スコッチ、かな。
ロックで飲むのが、好きなのよね。

クスッと笑いながらそう言った君は、
やけにクールでかっこよかったんだ。

僕はビールが好きで、
ヨーロッパなんかのエールビールについて、
熱く語るのを君は、
ニコニコと聴いていたよね。
僕はいつもそんな君の優しさに包まれて、
熱く語ってしまうんだよね。

いつも一通りの優しい時間をくれた後君は、
静かに君自身のことを教えてくれる。

ウイスキーってね…

そう言いながら、
君の若い頃の楽しい話に僕は
まるで一緒にタイムトラベルをして、
君がウイスキーを片手に、
寂しさを心に滲ませて、
静かに喧騒に耳を澄ませているのを、
上から見ているみたいだった。

そこにいたら、
僕が君の話に耳を澄ませて、
君の心を抱きしめてあげるのに。

だけど今はね、
ロックグラスを片手に語る君の
特等席は僕だけのものなんだよ。

僕の手にもロックグラス。
君のマネをしてウイスキー。
好きな銘柄も見つけたよ。

だけど君みたいにはなれないね。

最後まで話を聴けないんだ。
知らない間に落ちる僕。
だけど目を覚ましたらいつも、
君が優しく見下ろしてる。

ウイスキーの楽しみ方。
僕だけの、楽しみ方。

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