[物語]寂しい風が吹いたら 2
愛は感じるものよ
そう、あの人は言った。
当時の僕は、愛を探してた。
あの人は、
愛を感じ取る天才なのだ。
寂しい風が
時々あの人を包んでも、
その風を心にそっとしまい込んで、
そこに僅かにも確かにある、
目の前の愛に、耳を澄ませて、
心を傾けてきた。
そう、あの人はそんな人。
一方で僕は…
愛を感じても、
いつの間にかその愛は
心のどこかにあいた穴から漏れ出て、
いつの間にか空っぽになって、
愛が満たされた時間はいつも、
僅かの束の間の夢。
それが僕だった。
たけど束の間にでも
確かに満たされた
その暖かな愛を求めて
またどこかにいつも
探して歩いてた。
そんな僕にあの人は言った。
貰った愛を数えること。
僅かにでも感じた愛は、
心に覚えているでしょう?
寂しくなったらその、
貰った愛を数えること。
心に寂しい風が吹いてきたら、
過去に感じた愛を数えた。
そしたらあの人みたいに僕も、
瞳に暖かな優しさをにじませる、
そんな人になれるかもしれない。
そんなことを思いながら、
貰った愛を数えるうちに、
その数える愛はやがて、
あの人から貰った愛に変わってた。
愛を数えればいつもあの、
少し右に顔を傾けて、
静かに微笑むあの人が、
優しく心に浮かんでた。
僕の心はいつしかその
暖かで優しい愛に、
満たされてた。
今僕は目の前で
優しくじっと僕を見つめる君の
暖かな愛に満たされてる。
もう過去の愛は、数えないよ。
もう溜まった愛は漏れてかないんだ。
いつだって君が
ここで愛をくれている。
いつでもその愛を感じれる。
溜まった愛で
君を包もう。
君に吹いていたあの、
寂しい風。
それはもう、
吹くことはないだろう。
君がくれた暖かな愛は
君を包めるくらいに
この心に貯まったんだ。
だから僕も君を
暖かな愛で包めるよ。
君から漏れ出て感じたのは、
もう寂しい風なんかじゃない。
君が微笑む。
君が右に顔を傾けて
僕に優しく微笑む。
それはあの時とは違う。
僕を瞳に写す、
幸せな微笑み。
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