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【新刊試し読み】『ふるさと再発見の旅 中国地方』|清永安雄 撮影

残しておきたい風景や語り継ぐべき物語を丹念に取材してオールカラーでお届けする写真紀行シリーズ第四弾『ふるさと再発見の旅 中国地方』10月13日(水)発売されることを記念して、本文の一部を公開します。


本書について

日本全国津々浦々、歴史ある門前町や宿場町から、知られざる漁村や在郷町まで。残しておきたい風景や語り継ぐべき物語を丹念に取材してオールカラーでお届けする写真紀行シリーズ。
第四弾「中国地方」は岡山、広島、鳥取、島根、山口を収録。コラムでは地域に伝わる祭りや旧花街、ノスタルジックな商店街をピックアップ。各県の重要伝統的建造物群保存地区も全て掲載しています。


試し読み

八塔寺はっとうじふるさと村(備前市吉永町加賀美かがみ

茅葺き、田畠、小川、水車小屋 日本の原風景よ永遠に

「八塔寺」は寺の名称でもあり、その寺の門前に発達した集落の名でもある。
 八塔寺の正式名称は照鏡山八塔寺。西暦七二八年に、聖武天皇の勅願により弓削道鏡ゆげのどうきょうが創建した天台宗の古刹である。最盛時には七十二もの僧坊があり、西の高野山と呼ばれた聖地だったという。しかし再三の兵火に遭い、一五一七年の浦上村宗うらがみむらむね赤松義村あかまつよしむらによる八塔寺合戦の際には全山焼き討ちされ、堂塔伽藍はほとんど焼失してしまった。
 寺の衰退とともに門前集落も活気を失い、その後も時代とともに過疎化が進んでいったが、地元や近隣住民の間では、伝統的な茅葺き民家や段々畑の残る美しい風景が消えてゆくのを惜しむ声も多かった。そこで昭和四十九年、岡山県が、日本古来の農村風景を残そうと「八塔寺ふるさと村」の名で保存地区に指定した。だが、残念ながら全国的には知名度が低く、また交通の便も良くないせいか、観光客はあまり呼び込めないまま現在に至っている。
 村には今、十数軒の茅葺き民家が残っているが、村の中心部にひときわ目立つランドマーク的な茅葺きの屋敷がある。今は外国人の宿泊施設「国際交流ヴィラ」になっているこの屋敷には、興味深いエピソードがある。
 昭和六十三年六月、ここで今村昌平監督による映画『黒い雨』の撮影が始まった。映画の舞台は昭和二十五年の広島の農村だったが、監督はここを見て、戦後ののどかな農村風景にピッタリだとロケ地に決めた。この時、主人公(田中好子)が叔父夫婦(北村和夫と市原悦子)に引き取られた家に選ばれたのが、郊外にあった、当時空き家だった旧庄屋の大きな茅葺きの家。これを村の真ん中に移築して使用したのだが、これが撮影後もそのまま残され、外国人の宿泊施設として使われることになったという。『黒い雨』は井伏鱒二の原作で、広島に投下された原爆に人生を狂わされていく人々の恐怖と悲しみを描いた映画で、数々の映画賞を受賞した。三十年前に撮影された映画に見る八塔寺の風景は、今もほとんど変わっていない。だが、当時との大きな違いは、住民の高齢化が進み、無住の家も増えてきていることだ。保護されているとはいえ、このままでは廃村になるのではないかと心配になる。
今では滅多に見られなくなった、茅葺きの家々が点在するのどかな田園風景、小川のせせらぎや水車小屋など、なつかしい日本の原風景が残っている村│この貴重な財産を守るには、保存地区としては観光客誘致が最も有効に思える。興味のある方はぜひ、何度でも村を訪れていただきたい。


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目次

<岡山県>
八塔寺ふるさと村/伊部/牛窓/足守/玉島/奥津温泉 [重伝建]城東/吹屋/矢掛宿/倉敷川畔
<広島県>
東城/出口/木江/西条 [重伝建]鞆町/竹原/御手洗
<鳥取県>
智頭/網代/根雨/赤碕 [重伝建]所子/打吹玉川
<島根県>
吉田/鵜鷺/平田/柿木 [重伝建]大森銀山/湯泉津/津和野
<山口県>
祝島/室積/壇ノ浦漁港/下関グリーンモール [重伝建]堀内/平安古/浜崎/佐々並市/古市金屋


著者紹介

1948年、香川県生まれ。写真家。京都写真美術館代表。公益社団法人日本写真家協会会員(JPS)、公益社団法人日本写真協会会員(PSJ)。 写真集に 『日本人の道具』、『パリスケッチ』、『樹々変化』、『古鎮残照』、 ノスタルジック・ジャパンシリーズ、『美しい日本のふるさと』シリーズなどがある。


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『ふるさと再発見の旅 中国地方』撮影/清永安雄
【シリーズ】ふるさと再発見の旅
【判型】A5変型判(200mm×148mm)
【ページ数】256ページ
【定価】本体2,200円(税込)
【ISBN】978-4-86311-313-8


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「ふるさと再発見の旅 シリーズ」とは

日本の原風景に出逢う旅へ―
各地に残る美しい日本の原風景と、その地で紡がれてきた歴史や物語を丹念に取材し、オールカラーでお届けする写真紀行のシリーズ。
―掘り起こせば私たちの国は、虚実入り混じった、数えきれぬほどの歴史や伝説、言い伝えに彩られています。そんなふるさとの町や村に埋もれてきた、歴史譚や懐かしい原風景に出逢う旅―

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