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#0 地域で持続可能な経営を行うために必要な「ものさし」とは?

山梨県内自治体の計画策定やそのための調査研究などを行う調査研究機関、つまりシンクタンクである山梨総合研究所では、令和2年度から山梨県中小企業家同友会との共同により、『地域において持続可能な経営を行うためには何が必要なのか』を明らかにすることを目指した調査研究を開始した。この研究では、地域に根差した中小企業が、その経済活動を将来にわたり持続可能なものとしていくため、企業と地域社会との“つながり”を核とした経営に着目し、今後の中小企業経営の指針を示すことを目的としている。

(左)共に研究を行っている山梨県中小企業家同友会 笹本貴之さん
(中・右) 山梨総合研究所メンバー @studio pellet

企業と地域社会とのつながりとは具体的にどのようなことか。その一つは、私たちが日常生活やビジネスにおいて「どこの企業と取引をするか」を選択することである。例えば、どこの会社から商品を買うか、どこの会社に仕事を依頼するか、どこの会社で働くか、などである。
 
そして、その選択には、一般的に「安い・便利・手軽」といった価値観や、「大手・知名度」といった価値観が重視されやすいのではないだろうか。しかし、これらの価値観だけでは、人材や資金などの経営資源が限られる地域の中小企業であっても、規模の大きい企業やグローバル企業と同じ土俵での競争で勝ち続けることが求められてしまいかねない。一方で、地域の中小企業でも、地域社会から選ばれ続ける企業であれば、将来にわたり事業を継続することは可能であろう。
 
例えば、地元の飲食店は「安い・便利・手軽」といった点で競争力がなくても、「食を堪能すること」や「家族や友人との楽しいひととき」であったり、「昔ながらの懐かしい味」、または「顔なじみの店主との会話」といった、私たちの生活に潤いを与えてくれる店もあるだろう。 

その他にも、食を通じて地元の一次産業を支えることで、地域の食文化や産業を維持することに貢献するといった社会的意義が評価される店もあるだろう。
 
つまり、私たちの選択とは、商品やサービスが消費者の機能的なニーズを満たすことだけではなく、感情的や社会的なニーズも満たしてくれることにもつながっている。
 
地域の中小企業にとっては、価格や性能といった機能面で大手企業に太刀打ちすることは難しいのかも知れない。しかし、消費者自身の中に機能性以外にも大切したい選択のポイントがあるのならば、それに応えていくことが、これからの地元中小企業が目指すべきひとつの方向性ではないか。
 
残念ながら私たちは、日々の慌ただしさの中で、機能性以上に大切なことを見失ってしまうことや、それに気づく感性が鈍ってしまうこともある。その結果が、今日の地域社会を生み出しているとするならば、それを軌道修正していくために、私たちが本当に大切にしていることを取り戻すことが必要ではないだろうか。
 
地域で持続可能な経営を行うために必要なものは何か、私たちにとって本当に大切なことは何か。これまでの調査研究を通じたディスカッションから浮かび上がった一つのキーワードが、地域の“じりつ”であった。

 この“じりつ”には2つの漢字表記がある。
一つは「自立」である。「自立」とは、自分の足で立つこと。つまり、経済的に依存せずに、生計を立てられることや、事業を継続することができることである。
 
もう一つは「自律」である。「自律」とは、自分自身の考えに基づいて自分を律すること。つまり、他者の支配や制約を受けずに、自らの価値観に基づいて判断し行動できることである。

確かに、個人であっても企業であっても、「自立」することは、生きていくため、活動を維持していくためには必要不可欠なことである。しかし、そのために、自らが大切にしていることが失われてしまうとするならば、それはもはや「自律」しているとはいえないのではないだろうか。
 
これまでの調査研究では、地域の中小企業にインタビューを実施してきた。その結果、経営者の持つ理念の重要性や、それを日々の事業活動で体現することの大切さ、地域内における顧客や取引先、従業員等との信頼関係といった“つながり”を持つことの重要性が分かってきた。そして、その信頼関係には、それぞれの企業やその経営者が持つ独自の価値観が反映されていることにも気づくことができた。
 
そして私たちは、この地域社会と地元中小企業との様々なつながりを通じて見えてくる、地域で暮らし働く上で大切なこと、つまり尺度を「地域のものさし」と名付けた。 

しかし、この「ものさし」は何かという確固とした答えを、私たちは持ち合わせていない。また、地域の持続可能性という観点で言えば、地域に住む一人ひとりが日々の生活を送り続けられるようにしていくため、地域にとって大切にするべき価値観があるのではないだろうか。地域で暮らし続ける、地域で学び続ける、地域で働き続けるために、どのような価値観が必要であるか、みんなでその答えを探していこうと考えた。
 
このnoteでは、山梨県中小企業家同友会と山梨総合研究所の共催により開催する対話・交流の場「地元企業の魅力発見サロン」の様子について紹介していく。その中で、山梨という地方の中小企業の経営者やそこで働く人たちの声を伝えていくことで、サロン参加者の皆さんと一緒に、地方で働くという選択肢について改めて考えてみる機会としていく予定である。
 
それを通じて、自分らしく暮らし働くことができるための「地域のものさし」を、みんなで探していきたい。
 
なお、サロンの開催予定などは、山梨総合研究所HP(https://www.yafo.or.jp/)を参照いただきたい。

山梨県中小企業家同友会 理事 笹本貴之さん @studio pellet



(執筆:山梨総合研究所 調査研究部長 佐藤文昭)

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