月と虹色の龍が名前をもらった日 (創作小説)
ある夜のことでした。
そうくんはお母さんと夜空を眺めていました。
お母さんは言いました。
「今日のお月さまはとっても綺麗だね。ほら、あの雲をみてごらん。なんだか龍のようだね。」
「うん。お月さまの光があたって虹色のドラゴンみたいだ!」
そうくんは、嬉しそうに言いました。
その夜、そうくんは暖かいお布団で眠りにつきました。そして、夢をみました。
…
えーん。
えーん。
あれれ?誰かが泣いている…
泣いてるのは、だあれ? どこにいるの??
『えーん、ここだよー。ぼくは、ここだよー。』
そうくんがふりかえると、そこには虹色の美しい龍がからだを丸めて泣いていました。
どうしたの?なにがあったの?
『今日、ぼくは、からだから大切なものを落としてしまったんだ。お月さまがあんまりにも綺麗でみとれていたの。そうしたら、お空でともだちの龍とぶつかってしまってね。ぶつかったときに、大事な大事なぼくの一部が落ちてしまったみたいなの。』
それはたいへんだ!
すぐに見つからないの?
『あのね、ぼくは、下のせかいに降りられないの。だから、とっても困っていて。もし無くしたのが先生にバレたら怒られちゃうかもしれないの。』
怒られるのはイヤだよね。
虹色のドラゴンさん、
ぼくのなまえは、そうくんだよ。
『…そうくん。そうくん。いいなまえだね。とってもすてきななまえだね。そうくん。もしぼくの落としたものを見つけたら、また教えてくれる?』
もちろんだよ。
『やくそくだよ。そうくん。ありがとう、ありがとう。』
…
朝が来ました。
夢から覚めたそうくんは、夢を忘れないように大きな声で、虹色のドラゴンの落とし物を探すんだ!と言いました。
お母さんは、え?なんのこと?と、キョトンとしました。
その日もいつも通り過ぎました。
学校からの帰り道に、近道をしようと、森の中をひとりで入っていくそうくん。
森の道は進むにつれて、だんだん太陽の光を遮り、暗くなって行きます。
そうくんは、この暗いところがちょっと苦手なので、下を見ながらわざと大きな声で歌をうたいます。
そのときです。
ふと、右の茂みの奥が、強く強く光輝いているのに気がつきました。
そうくんは、足を止めて、どうしよう、ここで立ち止まるのは少し怖いけど、あの光を見てみたい。そう思い、勇気をだして右の茂みへ入って行きました。
茂みの中は、まばゆい光で包まれていました。
「…あっ!すごい!虹色だ!虹色のウロコ…」
そこには、虹色で透きとおった美しい美しい大きなウロコが1枚落ちていました。
「これはすごいものを見つけたぞ!宝ものだ!」
そうくんは、虹色のウロコを抱えて茂みから出ると、森の道を駆け抜けておうちを目指しました。
ただいまー!と、おうちに帰ると、いつものおかえりなさいが聞こえません。
そうくんは、途端に不安になりました。
「おかあさーん!どこにいるのー?すごいものを見つけたんだよー!虹色のウロコだよー」
玄関からバタバタと靴とランドセルを脱ぎ捨てて、キッチンにいくと、テーブルの上に、お母さんからのてがみがありました。
「…んー?今日のゆうごはんは、からあげです…わーい!……あぶらがなかったので買ってきます。すぐにもどるので、おやつを食べて待っててね…なーんだ、お母さんでかけてるのか。せっかくすごいもの見せようと思ったのに!…あれ!!?」
抱えていた虹色のウロコは、だんだん光が弱くなり始めました。さっきまでのしなやかさは無くなり、どんどん透けて消えかかっています。
「どうしよう!!?ひかりが!…ひかり、光!そうだ!」
そうくんは、急いで引き出しの中から2つの懐中電灯と、ランタンを持ち出してお布団の中へ潜りこみました。そして、虹色のウロコに集中して光が当たるように懐中電灯をあてつづけました。
「おねがい、おねがい、光をたくさんあげるから、どうか消えないで!どうか…おねがい…おねがい…」
どれくらいそうしていたか、わかりません。
ぽうぽうと優しく瞬く虹色のひかりが、強くなったり弱くなったり…
それをぼんやり眺めていたそうくんは、いつのまにか眠ってしまいました。
…
『そうくん、そうくん。』
あ!虹色のドラゴンさん!
『そうくん、また逢えたね。とっても嬉しいよ。』
うん。ぼくもうれしいよ。そうだ、
さっきね、とってもすごいものを
見つけたんだよ。虹色のウロコだよ!
『うんうん。ぼくは、お空のうえから、とっても速くそうくんが走るのを見ていたよ。』
なーんだ!そっか!
あ!あれあれ。ちょっと待って。
もしかして、
もしかして、
あの虹色のウロコは、
虹色のドラゴンさんの落とし物!?
『じつは、そうなんだ。そうくんは、見つけてくれたんだね。とっても怖かったでしょ?あの森のなか』
うん。そうなの。
あの森の道はちょっと暗いところがあるの。
いつもは、走ったりして
明るい道に出るまで絶対に止まらないの。
『そうなんだね。“勇気”を出してくれたんだね。そうくんは、その虹色のウロコが欲しいかな?宝ものって言ってたし、お母さんにも見せたいんだよね?』
あー。うん。
そう、そうなの。
でも、
虹色のドラゴンさんとやくそくしてたよね。
ぼくは、虹色のウロコを返すよ。
『そうくん、ありがとう。ありがとう。本当にありがとう。あのね、見つけてくれたお礼がしたいんだ。ぼくの背中に乗って、あの美しい月を見に行こう。』
いいの!?
やったー!!!
虹色の龍の背中にまたがったそうくんは、そのままあの美しい月夜へと旅立ちました。
それはそれは、たのしい、素晴らしい空の世界です。
お月さまは真ん丸で、キラリキラリとふたりを照らしました。
ふたりは色んなことを話しました。そうくんは学校のこと、お友達のこと、勉強のこと、好きなゲームのこと、美味しいごはんのこと。たのしかったこと、悔しかったこと、怒られたこと、頑張っていること。
龍はあっはっは!と大笑いしながら、そのすべてをうん。うん。とにこやかに聞いていました。
『そうくん、とてもすてきなお話を、たくさんたくさん、どうもありがとう。もうそろそろお別れの時間なんだ。』
えっ。もうさようなら?
かなしいなー。
またすぐ逢えるよね?
『そうだね。もしも、またぼくが落とし物をしたときは、そうくんに見つけてもらおうかな。』
うん。もちろん、任せて!
あ、虹色のドラゴンさん。
きみに名前をつけてあげるね。
そうだなあ。
レインボーだから、
“れいちゃん”
っていうのは、どうかな??
『!?なまえ!なまえをくれるの?れいちゃん?なんて素敵な、なまえだろうか!れいちゃん!ぼくのなまえは、れいちゃん!』
そうだよ!れいちゃん!
今日からきみは、
れいちゃんだよ!
虹色の龍は、からだをめいいっぱい震わせて大喜びしました。すると、すべてのウロコが光輝き、煌めく光の粒がたくさん湧きだして、そうくんを美しく優しい虹色で包み込みました。
ふたりはうれしくて、たのしくて、むねいっぱいの、しあわせな気持ちになりました。
『ありがとう、ありがとう、そうくん、ありがとう…』
…
ハッ、と気が付くと、あたりが唐揚げのいい匂いで満ちていました。
キッチンにのそのそ歩いていくと、お母さんがごはんを作っていました。
「……お母さん、おなかすいた…。」
「あ!起きたの?何度も声かけたのに、ぐっすり寝てたみたいね!疲れてたのかな?もうすぐできるからね。」
できあがった美味しいごはんを食べながら、そうくんは今日あった虹色の龍の話と、美しい月夜の旅の話をしました。
それから、不思議ともうあの森の道が怖くないかもなぁと、からあげをほおばりながら思いました。
れいちゃんは今夜も夜空を舞っています。
おしまい。
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