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旅芝居・月見草仁義という芝居

旅芝居の座長大会で演じられた芝居で、忘れられないものがあります。
今日はちょっとその話をさせて下さい。
 
旅芝居の座長大会の芝居って面白くないことが多い。
言いきってはいけませんが、
がっかりした経験があるのはたぶん私だけではないはずです。
しょうがないよね。
あ、「しょうがない」は旅芝居を語る時に私が何より嫌いな言葉なんやけど。
その日の大会に出演するために集まった座長、
つまり「トップ」たちがでひとつの物語を舞台で見せる。
ひとりひとりに見せ場が要る。そりゃあ大変になるでしょう。
 
茶化している訳ではなく、
この摩訶不思議な業界「THE にほんてき」な世界では、
肩書や順番というものに任侠や宗教や冠婚葬祭並みにこだわることや人が多い。
出番が少ないと大変に支障が生じる。
そりゃそうだ。
「わざわざ呼んだ俺の客(俺を華やかにしてくれる(概念))に申し訳が立たない」
え? その後の舞踊で見せろ?
「俺は役者だ。旅役者は芝居をする人です」
あ、はい。
 
かくして同じような外題がかけられることとなったりします。
そんなに稽古をしなくても頭の中に入っているようなスタンダード古典的なものとか、なんだ、もうムムムな芝居となることも少なくない。
でも来た客はその不満を押し殺すということも少なくない。
好きな役者に嫌われたくないからかな。高いチケット代を払っているのに。
しかもそれに「色つけ」(概念)したりしているのに。
これはもう旅芝居という業界が変わらない限り、
出る方も観る方もあまり得しない状況として続くことでもあると思います。
 
でも、ひとつ、とても印象に残っている芝居があります。

『次郎長外伝 月見草仁義』

もう一度観たいなと思っているのですが、たぶん無理だろうから書きます。
ずっと書こう残そうと思っていた(いる)芝居でもあるのです。
 
2012年3月に『古今東西オールスター』という座長大会でかけられました。
いろいろあったようだけれど今思うと本当に奇跡の大会でした。
プロデュースしたのは、九州が誇る旅役者・玄海竜二、当時会長、今は会頭の奥様、章江さん。
一度目の大会の舞台は、九州は嘉穂劇場。御存じの方も多いだろう名門劇場です。
政治家とか津川雅彦(玄海会頭の友人)からのビデオメッセージなども披露されました。
 
そんな大会にいわゆる「コース切り」、関西の興行師が台本を書きおろした芝居です。
若い頃から各劇団に依頼され、台本を書くようになったその人によるもの。
興行師が台本を書きおろすということに疑問や意見を持つ人も居るかもしれません。
私もなにも知らない解っていない頃はそう思ったこともないとは言えません。
でも、この芝居は、「演劇」を知り業界を知るその人だからこそ書けた芝居だと私は思いました。

『古今東西オールスター』は続いて9月に「関西編」として、
神戸は新開地劇場というこれも旅芝居にとって歴史ある大きな劇場で開催されました。
同じ芝居が、主要メンバーはそのままに、他は違うキャストで、再演をされました。

メインの役どころを演じたのは、若くはない2人です。
玄海会頭(闘病前)と、そして、関西の重鎮で盟友である大日方満さん。
共に重鎮とはいえ、大日方さんは今や劇団の「後見」ポジションにおられる方です。
彼ら2人が「老侠」(この言葉も旅芝居界では大きな意味を持つ言葉)として、いわゆる旅芝居でも(他の芸能でも)お馴染みの
清水次郎長や黒駒勝蔵一家が登場するお話で、
敵対するヤクザ一家やその周辺の人々は若い座長や今活躍中の座長たちが演じました。
そこに「もう俺は老いた」という2人が関わって、さて、どうなる?
 
タイトルの「月見草」にピンと来た方もいらっしゃるかもしれません。
そうです。そうなんです。
山口洋子が作詞して野村克也が歌った99年リリースの歌、
『俺の花だよ月見草』ではありません。
いや、そうです。つまり、「ベース」は「あれ」、あの物語です。

血気盛んな人々による争いごと。
いくら大義名分を振りかざそうともそれは私利私欲によるもの。
旅芝居をはじめとした古典もので、古くから描かれてきた登場人物とストーリーでもあります。
そこに、さて、元若き者だった二人はどう見て、どう思い、どう関わる?
やくざ者として、いえ、人間として。

結末は、鮮やかで、晴れやかです。

嘉穂劇場の花道が、生きました。
 
書いたその人は、
この芝居の老いたヤクザ、
大日方さんが演じた「御坂の藤五郎」に自分の父を重ねたそうです。
口上挨拶で語られました。

そして超個人的なことを述べると、
私にとっても今思い返すと父が重なる芝居でもあります。

大会が開催された際、私は某旅芝居雑誌にかかわっていました。
ちょうどこの「オールスター」第1回の様を本誌にまとめていたときに、
ウチの父が逝きました。膵臓ガンで半年ほど闘病していました。
諸々をやりながら放りながらぎりぎりまでこのページをまとめました。
生き方が重なるとかでは全くないのですが、そんなこともあって忘れられない芝居でもあります。

再演してくれへんかなあ。
出来れば大日方さんと玄海さんのままで。
無理やろなあ。
ほんまに、あれ、奇跡の大会やった。
 
そうそう、
悪役を演じた大御所が、
台本内の「不俱戴天」を「むずかしいねん」と言っていたことも記載しておきます。
取り巻きの女性から聞きました。
姐さんは同調して言っていました。
「あの人の書く台本、ことばが難しすぎるのよ」
笑って涙出た。
 
旅芝居は役者をみるものと言われがちで、それは何も悪いことではありません。
でも私は「物語」が、「物語を舞台で描いていく様」が、だから芝居が好きです。
古典でも新作でも、あたらしいものでも古いものでもです。
更に、旅芝居という「舞台で生きるひとびと」だからこそ、
その生き方と舞台で描かれる物語が重なったりするようなものにグッときます。
だから忘れられない芝居のうちのひとつで、これからも思い出すのでしょう。

でも、それより実は大事なことは、
この作品以上に面白い座長大会での、
いえ普段でのも含めた芝居が生まれることで、ほんまに願い、祈っています。

あ、もう一度言いますが、新作だからいいという訳ではなくて、古典でも、新作でも、ですよ。その「やり方」で。

最後に本誌に書いた「あらすじ」を載せておきます。
週プロっぽく書きました。嘘、嘘。はさておき、
ひさしぶりに、かかわっていた雑誌のYouTube動画を観たら、
最新のものにこの芝居が二度目に上演された「古今東西オールスター 関西篇」が上がっていました。
私はYouTubeちゃんねる版にはノータッチなのですが、
本誌は業界初のDVD付マガジンとして発売されたので、
今、映像部分が小出しで動画としてアップされています。
各劇団で販売しているDVDの予告映像などもあり貴重映像ばかりです。
あの頃DVDだけでも何本作ったんやろ(笑)
キャッチコピーとか文章とかもう覚えてへんくらい。
今も各劇団で知らないくらいたくさん売られてるはずです。
本誌のバックナンバーも公式HPからまだ買えます。
いまだに大量注文して下さる某劇場様もいるらしく本当に感謝です。
というのもさておき、この日の各座長のインタビュー動画の背景で、芝居、雰囲気だけですが観られますよ。
 
いろんないろんな願いと想いを込めて、載せておきます。


百花繚乱、古今東西―
 
ニッポンの夜明けを感じさせるようなその時代に、
己の意地と誇りをかけ、仁義に生きる者たちが居た。
 
甲府の黒駒勝蔵、そして駿河の清水次郎長。
上州は大前田栄五郎立ち合いの下、
富士川舟運の一件で手打ちを行った両者は
富士山の麓、御坂峠の利権を巡って睨み合う。
 
御坂峠、
そこは名うての侠客だった御坂藤五郎が、
足の悪い一人娘おきぬと共に、ひっそりと余生を送る土地。
 
数奇な縁に導かれ、この地にひとりの男が戻り立つ。
その名は、忍野仙次郎。
かつて「人斬り仙次郎」と異名をとった、藤五郎の終生の宿敵であり友だ。
 
「牡丹や百合の花より、裏道でもお天道様の下、
ひっそりと咲いて、散って生きる、月見草のようなヤクザでありたい」
 
老侠二人は命をかけて渡世の道を示すことを決める。
 
富士山には月見草がよく似合う。
男にはこの花道がよく似合う。


古今東西オールスターは計3回、
3回目は2014年に熊本市民会館にての開催でした。
この時のお芝居は玄海会頭が立てた『茜雲』という作品。
こちらはなんかほのぼのした「旅芝居らしい」芝居でした。これです。
茜雲はDVD化されて販売もされています。
玄海会頭の会社から買えます。
でも月見草仁義はDVD化されていないのです。勿体ないな。
 

旅芝居の雑誌はすべて休刊になりました。
己がかかわっていた雑誌はもう随分と前に休刊となりましたが。
その前後に後から出た雑誌や老舗雑誌から依頼は来ていたのですが、
仁義(笑)を通して他にはいきませんでした。
その後、あまりに狭い世界かつ人間のいろんな感情が動く世界で、
びっくりしちゃうようないろんなことがありました、
過去形じゃないな、あります。
ほんとうに芝居より芝居みたいな、なんとまあ様々な人々よ。
清濁併吞で、人間すぎる世界で、
劇場も、業界も、
みてみぬふりや見過ごさずに考えなければいけないことがたくさんです。
と、とても思います。


この芝居の作者の話、を含む話。昨年、書かれた芝居を観た際に。


文中に書いた、「老侠」のこと。昨年の記事より。
2002年に上演された、伝説の芝居です。
これも、座長大会でのこと。この芝居が劇界に与えた影響は本当に大きいね。



以下は、ちょろっとですがいつもの自己紹介 。
と、苦手なりにもSNSあれこれ紹介、連載などなどの紹介!!も。
よろしければお付き合い下さい🍑✨
ご縁がつながったりしたらとても嬉しい。

大阪の物書き、中村桃子と申します。 
構成作家/ライター/コラム・エッセイ/大衆芸能(旅芝居(大衆演劇)やストリップ)や大衆文化を追っています。
普段はラジオ番組の構成や資料やCM書きや、各種文章やキャッチコピーやら雑文業やらやってます。
現在、lifeworkたる原稿企画2本を進め中です。
舞台、演劇、古典芸能好き、からの、下町・大衆文化好き。酒場好き。いや、劇場が好き。人間に興味が尽きません。

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現在、関東の出版社・旅と思索社様のウェブマガジン「tabistory」様にて女2人の酒場巡りを連載中。

と、あたらしい連載「Home」。
皆の大事な場所についての話。

2023、復活。先日、新作が出ました🆕

以下は、過去のものから、お気に入りを2つ。

旅芝居・大衆演劇関係では、各種ライティング業。
文、キャッチコピー、映像などの企画・構成、各種文、台本、
役者絡みの代筆から、DVDパッケージのキャッチコピーや文。
あ、小道具の文とかも(笑)やってました。

担当していたDVD付マガジン『演劇の友』は休刊ですが、
アーカイブがYouTubeちゃんねるで公開中
(貴重映像ばかりです。私は今回のアップにはかかわってないけど)


あなたとご縁がありますように。今後ともどうぞよろしくお願いします。

皆、無理せず、どうぞどうぞ、元気でね。

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