見出し画像

忠治は生きてく、忠次は生きてる

この日わたしは余裕がない日だった。
でも途中から駆け付けた。だって、祭りだと告知されていたから。
旅芝居における祭りとは「今日は一日●●が主役の日」だ。
芝居でもショーでも出番が増える。
どうしても座長がメイン(あたりまえ)として役も大きい出番も多い世界において、近年流行りの「祭」は個々の役者のファンたちの楽しみの日にもなっているみたい。
この日は、ちょっとびっくりだった、「芝居だけ秀峰祭」。
若い座長たちに譲るも、まだ現役でご活躍中のベテランが、芝居の主役をするという。
 
旅芝居界でも一、二を争う男前じゃないかと思っている。見た目も、そして、声が。
私的に、出てこられた時にキャーってなる数少ない役者のひとりでもある。
これ、自分でも言うけど、すごいことやねんで。は、さておき(笑)
一線を退いてからだいぶ経つが、育てた座長や役者さんたち、慕うベテラン役者たちも多く、
近年も(お体の調子などが悪いとは聞くが)
幾つかの劇団に手伝いのような形で出られたりお弟子さんのところに出たりもしている。
 
凄味がある。
 
中でも歌。ラストショー前に出てきてさらっと歌うだけでも色っぽい。
なんの力みもなくさらっと歌うのに凄味がある。
某キャーキャーと賑やかな応援さんがひしめく客席が印象的な劇団に手伝い? 特別出演? されていたときのこと、ラストショー前にゆらりと出てきて、
特になんの感慨もなさそうに松山恵子の『お別れ公衆電話』を歌った。
わたしは文字通り「きゃー」とか言った。隣りにいた友人はぽかーん、
呆れを通り越して笑いながら「よかったね」って言われたのだけれど、
でも選曲も含めていろっぽくないですか?
そりゃそうである。プロとしてレコードデビューもされているし。
若い頃は大舞台にも出られていたと聞く。
旅芝居の役者というより芸能人? 芸能界の方でご活躍? 中の
甘い歌声でお馴染み〝流し目のスナイパー〟(このフレーズ)こと竜小太郎さんも、このひとのお弟子さんだ。
 
若い頃はモテていた!
というのは、この人よりもベテランであり、ずっと昔話を聞かせてくれる某老優談。
「このひと、ほんと格好いいですよね」
「なに言ってるんだ。あいつはいつも「頭(カシラ)に憧れてなにもかも真似してました」って言ってたぞ」ほんとかな。
いろんな過去や昔の話も知っている。
敢えて書くことはしないが関西を中心に長く観てきている人は誰でも知っている話たちだ。
決してスルーは出来ないないものも含めたそれら大きなことも経て、でも、今も舞台に立たれている。
 
この日、「芝居だけ祭」の芝居は『信州一羽鳥』。
芝居の外題だけ見て「旅人ものだろーなー」なんて思いながら行ったら、忠治! まさかの〝格好いい〟国定忠治が主役の物語だった。  
残念ながら前半部分は遅れて観られなかった。
そして相変わらず芝居のあらすじを書くことはしない。
ただ、一言、「忠治だった」
わちゃわちゃと皆がやりとりして、はけたあと、さっと登場した忠治、たたずまい、立ち姿。
台詞なくさっとあらわれたその姿だけでもう「ああ、忠治だ」となった。
目。所作。そして何度も書かせて下さい、凄味。
忠治なの。喋らなくても。喋っても。その凄味が。いや、会ったことないけれど。
これってなかなかない。ベテランだから凄い、というのでもたぶんない。
渋みとか味とか枯れとかでもない。
大詰めの立ち廻り、大がかりなものではないが、凄味と美学を感じた。
押しつけがましいそれじゃなく、でも、只者ではない人の、それ。
 
うれしかった。
 
のは、たぶん、わたしだけじゃない。
 
口上挨拶の際、お弟子さんである座長が言った。
 
「忠治やったでしょ? 忠治にしか見えなかったでしょ?」
 
夜の部、正直客席は賑やかではなかった。
前列には劇団ファンの熱心な応援さんが何人も。
きっと昼の部や中間ショーも観ていた方々なのだろう。
そのほかは後方にちらりほらりという感じ。
座長はほぼほぼ前列の応援さんにばかり語り掛ける。
正直どうなのかなあ、だ。でも否定するのも気の毒だなあと思えるほど。
しかし、そんな中、身内ノリのようなものの中、座長は先の芝居に関して、言ったのだ。
 
「やっぱりすごい。格好いい。今日は本当に勉強になりました」
 
すごくいい表情(かお)をしてるなあ、と思った。
 
「僕がリクエストしたんですよ。師匠も大舞台(商業演劇)でやって以来だったんです。でも今日のバージョンあの時とちょっと違っていたんです。ね。ね?」
 
「僕らなんかつい力んで強く臭く台詞とか言っちゃうじゃないですか。
 でも師匠は違ってたでしょ? 訊いたら「昔は強く言ってたんや。でも新国劇とか観たら違うやろ。こうなったんや」みたいに言っててね」
 
煽ってふざけてたりしているときよりも、お客さんに喋っているときよりも、輝いているように見えた。
 
近年よく言われるフレーズ、「旅芝居は芝居でしょ」
このなんだか決めつけるような風潮とフレーズがなんだか好きじゃない。
芝居が好きだから故に色々もやもやするからこそ。
特に客席の観客がこのフレーズを言うこと・とき、
自分に酔ったりはしてへんかなあ? 距離感間違ってるというか勘違いしてへんかなあ? と思ってしまったりする。(※ちょっと前にこんなことも書きました)
舞踊を好む人だって悪くないだろうし、それを否定するのは失礼だ。
舞踊がきっかけで旅芝居や芝居に興味を持つ人もいるかもしれない。
ショーや華やかさや距離の近さで「会いに行けるアイドル」扱いやその強調をすることは、客席にお客さんが来る・増えるきっかけになるかもしれないし、たぶん近年はそれが顕著なのだろうなとも思う、いい悪いじゃなく。
芝居をみせたい、いろんな芝居をしたい、やりたい芝居をかけて見せたい、そのためにも(集客という意味でも、表現力という意味でも(舞踊も芝居と思うから))いろんなことはきっと大事で、だから「旅芝居は芝居でしょ」と言い切ることが、わたしは、好きじゃないなあ、だ。
 
そう、つまり、役者さんはほんとにほんとうに芝居が好きだ。
そうと思わされるたびに客席でアツくなる。
日々まいにちが舞台だからこそ「違う人間になれる」「違う人間の人生を演じ、描ける」芝居は楽しいのだろうなと考えたりもする。
 
「忠治やったでしょ? 忠治にしか見えなかったでしょ?」
 
生きている。生きていく。
 
「勉強になりました。これからも月に一回は師匠の祭りをやろうと思います」
 
生きてゆくねんよな。
 
すべてが「今」に滲む舞台で、今日、明日、これからへ。
 
忠治は生きていて、これからも生きていく。凄味とうれしさに、見せられた。
 
( 森川竜馬劇団(森川竜馬座長)にて「芝居だけ秀峰祭」
 芝居『信州一羽鳥」
 二代目梅澤秀峰(元・二代目森川長二郎(森川凛太郎)座長) 
 2023.5・27@大阪・十三 木川劇場)
 

わたしはこの役者さんの『それからの長吉』の母役が、とても好きです。
旅芝居の芝居でお馴染み『吉良の仁吉』の後日談、神戸の長吉とその周辺の人のお話。
文中の老優はこの芝居を作った、てか、代名詞的な人です。
 

ベテランの役者を変に持ち上げたり、
味があるとか渋いとかいうのや、変に過剰に持ち上げるのも、なんかななんだかな、それはそれで逆に失礼なようなと、ずっと思ってきましたし考えてきましたし今も思います。
つまりそれは旅芝居・大衆演劇を変に過剰に持ち上げたり美化したりすることへの疑問とも繋がることでもあるのですが。
 
と、同時に、
都合のよい人々の主観的な観方でプッシュされたり持ち上げられる人(現役スターや、ベテラン)も居る。それもなんだかなあ、とかもね。
 
みんな、生きてる。
 
文中の役者さんのようなひとも、もっと、観られるべきだよなあ、といつも思います。
ええ芝居、めっちゃ持ってはるねん。
残し、教え、継ぎ継がせている役者さん(流派)のおひとり。
 
とは、林蔵の際にも書きましたね。
これも旅芝居の芝居でお馴染み『人斬り林蔵』(赤尾の林蔵、などタイトルはさまざま)、これを立てて、最初に「本家」としてやったのはウチ、と、口上でおっしゃっていました。などの過去記事ふたつ、貼っておきます。


ショーには出られず、残念。
ということで秀峰さん(ついまだ森川さんと呼びたくなるが)の写真は無し。
この日、ラストショーは森川竜馬座長の花魁。
長身の座長の花魁は、豪華でした。

翌日は座長まつりで「現代版 喧嘩屋」だったとのこと。
「師匠に作り替えをお願いしてるんです」「小沢仁志さんみたいな感じでやりますよっ」
興味津々。観たかったな。

◆◆◆
以下は、すこしだけ自己紹介 。よろしければお付き合い下さい。
(先日のプチ告知2つも追加📚🆕本屋さん来てね)

構成作家/ライター/コラム・エッセイスト
中村桃子(桃花舞台)と申します。

大衆芸能、
旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。

普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、各種文章やキャッチコピーなども、やっています。

劇場が好き。人間に興味が尽きません。

演劇鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)などの鑑賞と、学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)経験などを経て、
某劇団の音楽監督、亡き関西の喜劇作家、大阪を愛するエッセイストなどに師事したり。
からの大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリー。

舞台と本と、やはり劇場と人間と、あ、酒も愛し、人間をひたすら書いてきて、書いています。

lifeworkたる原稿企画(書籍化)2本を進め中。

その顔見世と筋トレを兼ねての1日1色々note「桃花舞台」を更新中です。
各種フォローもよろこびます。

【Twitter】【Instagram】【読書感想用Instagram】

あ、5月1日から東京・湯島の本屋「出発点」で2箱古本屋も、やってます。

詳しいプロフィールや経歴やご挨拶は以下のBlogのトップページから。
ご連絡やお仕事の御依頼はこちらからもしくはDMでもお気軽にどうぞ。めっちゃ、どうぞ。

関東の出版社・旅と思索社様のウェブマガジン「tabistory」様では2種類の連載中。

酒場話「心はだか、ぴったんこ」(現在17話)と
大事な場所の話「Home」(現在、番外編を入れて4話)

旅芝居・大衆演劇関係でも、各種ライティング業をずっとやってきました。
文、キャッチコピー、映像などの企画・構成、各種文、台本、役者絡みの代筆から、DVDパッケージのキャッチコピーや文。
担当していたDVD付マガジン『演劇の友』は休刊ですが、YouTubeちゃんねるで過去映像が公開中です。
こちらのバックナンバーも、さきほどの「出発点」さんに置いてます。

今後ともどうぞよろしくお願いします。あなたとご縁がありますように。

この記事が参加している募集

#舞台感想

5,919件

楽しんでいただけましたら、お気持ちサポート(お気持ちチップ)、大変嬉しいです。 更なる原稿やお仕事の御依頼や、各種メッセージなども、ぜひぜひぜひ受付中です。 いつも読んで下さりありがとうございます。一人の物書きとして、日々思考し、綴ります。