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酒と舞台と暖簾と旅と/旅芝居の酒舞踊から

酒の歌が似合うといえば某会長だ。
初めて観たのは若い役者さんたちによる会結成時の大会にて。
最後の華やかなショーの前に、転がるように出てきて踊った。
終始にこにことほがらかに、でも、しみじみと嚙みしめるようにその曲を踊った。
じーん。と、同時に、笑ってしまった。
「味の染み込んだ老舗の酒場のおでんみたい」
曲に、演者の力、いや、人間力が重なった、この世界の舞踊特有の魅力だと思った。
そんなその人はショーが終わって出演者が勢揃いの際に、
若い役者リーダーに「おじさん、これ、若手の会ですよ(笑)」とツッコまれ、へらへらと笑っていた。
と、終演後の酒の席で、若手の客たちに伝えたら、あれ、皆、呆れながら笑ってる?!
「飽きたよね」「うん、いっつもあれですよ、曲も、出てき方も」
五木ひろしの、『暖簾』。

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旅芝居の役者には酒の歌が似合うと思う。
こちらも若い時はそんなこと考えたこともなかったが、近年、沁みる気がしてならない。
そもそも、演歌や古い流行歌には酒の歌が多く、
今の時代もそんな「スタンダードナンバー」な曲で踊るのだから、
もう彼らには体に染みついているのかもしれない。特に、オジサンたちは。

「おでん」だけでなく、いろんな役者をみてきた。

「辛くてね、毎晩呑んでいます、僕は主に焼酎を。座員が誰も付き合ってくれない」
自虐的に話していた人はとても繊細な人だった。
線の細い、生い立ちもすこし複雑な、若くはない人。座長。
喜劇の際は爆発したようにはじけて笑いを取っていて、でも、どこか、いつも、孤独を滲ませていた。そしてそれをいつも隠すことはなかった、いや、隠せなかった。
座員が次々といなくなった際、芝居中、立ち廻りで刀を投げ捨てた。「あー、もう、どうでもいいい」
そのあと、別日、別劇場での口上挨拶の際、逃げた座員の説明を何も隠さず正直に話し号泣していたのを聞いた。
さらに数日後、別劇場で観た、客席から「あの人、どこ行ったん?辞めたん?」、あっさりサラッと返していた、「あー、いなくなりましたー!」
抱え込む人だったのだろう、その線はどんどん細くなってゆき、でも日々、喜劇では爆発して。
今も、美学を求め、舞台に立っている。
先日、ひさしぶりに観た。
ゲスト先で、冒頭の会長でなじみ深いその曲を踊っていた。沁みた。
ショーが終わりゲスト先の座長に紹介されると、
ひたすらに謙遜し、舞台の隅の方へ隅の方へ行き、さらにいじられていた。
「そんな謙遜して。もっと真ん中に来てください。お酒を呑んだらめっちゃ喋るんですよ」

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ある役者は病院で肝硬変だと知らされた。
医者から禁酒を言い渡された。でも、すぐにはやめられない。
若くない。昼夜公演で忙しい劇場公演の際はまだいい。
地方の温泉センターの昼1回公演の際は時間があって仕方がない。
単身赴任。でもなかなか関東には帰れない。妻子と孫に会えない。呑まずにいられない。
「俺、めっちゃええ案思いついた」とある時言った。なに?
「一気にやめられへんから酒の量を減らしていくねん」
ストロングゼロのロング缶2本→350ml缶×2本→ロング缶1本→350ml缶1本→0本、の予定だと。
「……」の後、数日後、「達成出来ましたか?」
「いやー、無理やなー。お客さんと食事行って呑んでもうたわー、ビールちょっとだけやねんけどなー」
そういや別の肝硬変の役者(故人)は付き合いの際はノンアルコールビールを呑むと言っていた。「おかしなもんで、ノンアルでも雰囲気で酔うんです」

旅芝居という、ともすれば、夜の職業以上にそれらしい世界(悪い意味ではない)。
人間の裏も表も、酸いも甘いも、日々毎日一生が舞台と旅という仕事。
子供の頃から何年何十年一生を過ごす彼らの日々の酒はどんな酒なんだろう。
どれだけの夜とどれだけの酒と共に生きてきたのだろう。美味い酒は、どれくらいあったのかな。あるのかな。

冒頭の会長は、お金払いもよくて。呑みっぷり呑みに行きっぷりもよいと評判が高い。
だからか、ゲスト出演の際は客席がその地その店からの華やかなお客さんで埋まり、
胸元も華やかに咲く。でも時折、笑顔の中に、どこか、遠くをみるような、いや、人の心の奥を覗くような顔をするときがあるのが印象深い。

以前、かかわっていた雑誌のインタビューの際言っていた。
好きな映画やドラマは? 即答された、「『お水の花道』!!」
格好つけた映画やドラマの名を挙げる役者が多い中まさかの回答だったが、噛みしめるように語ってくれた。「サウナで観ます。あれは泣く」真面目な顔で。

「馬鹿な生き方しかどうせできないけれどお前らしくていいさと今夜も酒が笑う」(『暖簾』五木ひろし)

とは云え、意外と「呑めない」「呑まない」役者も実は多かったりするみたい。
一方で、酒の席でちいさなことから口論となり大きな事件になったりもしょっちゅうみたいだけど。

どんな皆も、どうぞ、お体にだけは気を付けて。どうぞ、元気で、舞台に居て下さい、毎日、どうぞ、ずっと、ずっと。同じく呑んでしまう私は、自戒をこめて、祈るばかりだ。

(2か月前にこのインスタを投稿して、「書きますね」っつったまま、
半分書いて放置してた。ことに気付いた。きっとなんかもっと書こうとしてたんだろうが、中途半端になっちゃったが載せておきます。皆の健康祈願の祈りを込めて!)

◆omake◆
【ころころ、にこり。ほろほろ、ほろり。-“菊ちゃん”(橘菊太郎)、酒と舞台と人生と-】 (2015.5月)

おでんの話、と、ゾクッとした男宿の話です。

◆omake、2◆

【カラスたちの『男酔い』-旅役者の「血」-】(2017.1月)

この曲も本当に「スタンダード」になったよなあ。
あるベテラン曰く、最後にサビの男酔い、を繰り返すのがまたええ、とか。(アンコ、ってやつですね)

この文、今読み返すと「男」「男」みたいの、今はそういう考え方書き方好きじゃないし、今ならしない書かないや(笑)
けど、酒の歌舞踊としては欠かせないので貼っておくとします。

◆omake、3◆
私にとっての「旅芝居・酒の歌」は『南部酒』、この『南部酒』、旅芝居イチ(※超私見!)。いろんな思い出があります、2~3重に。

(2019.4月)

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もう二度と観られませんがね、わっはっは。

皆ほんとに、体大事に、呑みすぎ厳禁やで。ほんとほんと。また元気で会いたいもの。

◆◆◆
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大阪の物書き、
構成作家/ライター/コラム・エッセイ/
大衆芸能(旅芝居(大衆演劇)やストリップ)や大衆文化を追っています。
現在、lifeworkたる原稿企画2本を進め中。
演劇、古典芸能好き、からの、下町・大衆文化も好きです。
現在、女2人の酒場巡りを連載中。
現在第10回(New!!) 


そして、あたらしい連載「Home」。皆の大事な場所についての文章です。こちらもぼちぼち進めます。


ふだんはラジオ番組の構成などに関わっています。
現在の主なものは、AMの懐メロリクエスト番組。(昭和1桁〜50年代歌謡)

旅芝居・大衆演劇関係では、各種ライティング業。
文、キャッチコピー、映像などの企画・構成、
各種文、台本、役者絡みの代筆から、DVDパッケージのキャッチコピーや文。あ、小道具の文とかも(笑)。
担当していたDVD付マガジンは休刊中。
が、アーカイブがYouTubeちゃんねるで公開中です。

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