走ることが旅になる・トレイルランニングのすすめ
リッキー・ゲイツ著、川鍋明日香訳『アメリカを巡る旅 3,700mマイルを走って見つけた、僕たちのこと。』についてのコラムシリーズ第3回をお届けする。
今回は、岩佐幸一さんが登場だ。岩佐さんが運営しているトレイルランニング、ウルトラマラソンのウェブメディア「DogsorCaravan.com」を日々チェックしている人も多いのでは?ウェスタン・ステイツを走ったことやリッキーとの思い出も含めて、コラムを書いてくれました。
リッキー・ゲイツとのインタビュー・シリーズ、『アメリカを巡る旅』を翻訳した川鍋明日香さんとのポッドキャスト番組『Thursday - Vocalizing Emotions』と合わせてお楽しみください。記:木星社
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走ることが旅になる・トレイルランニングのすすめ
文:岩佐幸一
Photo & Text by DogsorCaravan, Edited by K@mokusei publishers inc.
2013年6月、アメリカを旅していた私は、コロラド州ボールダーに立ち寄った。
アウトドアとランニングが盛んなこの街で、スコット・ジュレクとランチをしたのだ。アメリカで最も歴史ある100マイルのウルトラマラソンが「ウェスタン・ステイツ」だ。これを七連覇したことで知られるレジェンドは、口髭の若者を連れてきた。
「サンフランシスコからオートバイでママに会いに来たんだ」とはにかみながら自己紹介してくれたその若者が、リッキー・ゲイツだった。それがきっかけで、リッキーが来日した時にはインタビューしたり、日本の山を走るムービーを作りたいという相談に乗ったりした。『アメリカを巡る旅』の著者は日本も大いに気に入ったようだ。
リッキーは5ヶ月かけてアメリカ大陸を走って横断したが、そこまでしなくても彼の旅の世界を体感できるのがトレイルランニングだ。舗装されていないハイキングコースや登山道の土の上を走る。石や木の根を踏みしめ、ぬかるみに突っ込み、登ったり下りたりしながら次々と変わりゆくトレイルを進む。私の場合は走るのが楽しいというよりも、次々に未知との出会いが続く旅をするのが楽しいのだ。
リッキーに出会ったのち、私は「ウェスタンステイツ」でシエラネバダを横断する100マイルを完走した。このレースのコースは西部開拓時代に一攫千金を夢見た人たちが切り拓き、そこを馬で走破する腕比べが大会の起源となっている。旅や冒険はトレイルランニングとは切っても切れない関係があるようだ。
コロナ禍で海外旅行はもちろん、国内のトレイルに出かけることも難しい時期が続いた。やむを得ず自分の街を繰り返し走る。季節により変わる公園の木々や住宅街の植え込み、実りゆく田んぼや畑があった。消える建物の後にはすぐ新しい建物ができあがる。通りかかれば必ず顔を上げてひと吠えする犬もいる。
やがて、わずかな変化や変わり映えしない日常も、時が流れることで旅をしているように感じていた。リッキーがこの話を聞けば「おめでとう、いい旅をしたね」といってくれる気がしている。
(了)
岩佐幸一:ウェブメディア編集者・ライター
通信会社の財務アナリストだったがランニングに目覚めて退職。自らトレイルランニング、ウルトラマラソンのウェブメディア「DogsorCaravan」を運営して10年目を迎える。仕事に力を入れると走る時間が取れないのが最近の悩み。1970年滋賀県生まれ。ウェブサイト DogsorCaravan.com ポッドキャスト「Run the world」 Instagram@DogsorCaravan ウェスタンステイツ・エンデュランスラン(2013)を完走したときのレースレポートはこちら。
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