マガジンのカバー画像

バラと錠剤〜アメリカ人との交際の物語

15
オーストラリアに 1 年間留学し、帰国後のタクの心は曇っていた。この物語はタクの実体験を元に書かれている。2006 年 3 月~11 月、タク は大学生で、英語教師として日本に滞…
運営しているクリエイター

#異文化理解

バラと錠剤(5/15)〜アメリカ人との交際の物語

タクが上京して 1 ヶ月ほど経ち、大学も始まったばかりの頃だった。帰国して数ヶ月しかたっていなかったので、日本に強烈な違和感を覚え ていた。敵ばかりの戦場に出向いた兵士のごとく、肩に力が入るわ、精神は血走っているわ。自然体を理想と仰ぐ青年の滑稽な諷刺画のよ う。新ゲイコンパでタカと仲良くなり、タカと飲み歩いていたある晩のこと。交友関係が広く深いタカは長電話を始めた。手持ち無沙汰になった タクは、辺

もっとみる

バラと錠剤(4/15)〜アメリカ人との交際の物語

「犬と猫どっちがすき? 」

「犬」

「私は猫」

なぜ?と、聞き返しもせず、ホイットニーは猫を選んだ訳を語りだした。すきっ腹にビールが回ったタクは、はっきりとは聞き取り損ねたが、

「猫は孤高で自分らしく生きているからいい」

と言っていた雰囲気はわかった。彼女らしかった。それは同時に、しっぽを振りまわし、無闇やたらと懐いてくる犬に対する複雑な気持ちの顕 われだった。そんな犬の像と、ひたすら媚

もっとみる

バラと錠剤(2/15) 〜アメリカ人との交際の物語

話は上野に戻る。
なるほどと思いつつ、キリスト教の地なのかな、と疑念に駆られたタク。さして重要な点でもなかったし、言葉尻をとるようで気が引けたので、 何も言い返さなかった。 ホイットニーの日本語力は、英語で例えるなら、ハロー、ノープロブレム、といったレベルなので、二人の会話は英語だった。 タクには、受験英語しか下地のないまま 20 歳を過ぎ、そこから 1 年間留学した程度の英語力しかない。ホイット

もっとみる

バラと錠剤(1/15)〜アメリカ人との交際の物語

<プロローグ>
「日本のよいところってなに?」

「............まったく思い当たらないんだ.........」

オーストラリアに 1 年間留学し、帰国後のタクの心は曇っていた。この物語はタクの実体験を元に書かれている。2006 年 3 月~11 月、タク は大学生で、英語教師として日本に滞在していたアメリカ出身のホイットニーと交際した経験を綴ったものだ。

「I love you.

もっとみる