バラと錠剤(1/15)〜アメリカ人との交際の物語

<プロローグ>
「日本のよいところってなに?」

「............まったく思い当たらないんだ.........」

オーストラリアに 1 年間留学し、帰国後のタクの心は曇っていた。この物語はタクの実体験を元に書かれている。2006 年 3 月~11 月、タク は大学生で、英語教師として日本に滞在していたアメリカ出身のホイットニーと交際した経験を綴ったものだ。

「I love you. But I am not in love with you.」

ホイットニーに心臓を握られ、タクの感情は錯乱し、それ以上言葉がでない。別れ際の台詞で、一生忘れられないタクにとって最強の英語 だ。

<プロローグ 2>

2006 年時点主要人物紹介

タク
日本人大学生。エニーの元彼。ホイットニーと交際している。

ホイットニー
アメリカ人で英語教師。ニックの元カノでキャシーの親友。タクと交際している。

ニック
ニュージーランド人で英語教師だったが、2005 年に帰国。ホイットニーの元カノ。タクの飲み仲間だった。

キャシー
カナタ人で英語教師兼エリアマネージャー。ホイットニーの親友で彼女と同棲している。タクに密かに尊敬されている。

ケント
カナダ人で英語教師。ホイットニーとキャシーの元ハウスメイト。長旅のあと、また日本に戻ってきた。タクの飲み仲間で相談相手。

ジョン
オーストラリア人で英語教師。タクの飲み仲間だか、子どもっぽい性格で、ネイティブではないタクをよくからかった。

ショーン
カナダ人で英語教師から英紙新聞の編集者に転職。タクの友達でタクに密かに尊敬されている。
エニー 香港人でタクの元カノ。おおらかな性格。

<本編>
久々に、デートらしいことを試みた二人。 よくよく振り返ってみると、二人の間には、デートという概念が欠落していた。
型にはまったカップルには共感できる範疇を超えていた。あらたまって「付き合おう」と言ったことも、言われたこともない。

「3 月ぐらいかな、たしか」

ある日、そう思い起こしてみた二人。付き合いだした時期、いや、性的に関係が深まった時期と説明したほうがしっくりくる。 自由恋愛を彷彿させる、そんな間柄でもある。自然とカップルだと思われる事が増えていき、いつの間にか否定しなくなっていった。 自由恋愛のようで、そうとも言い切れない。いろんな異性と付き合う気はなかった。その手の器用さを二人は持ち合わせていなかった。裏に は別の拘りがあった。年末に日本を発ち南アメリカを一周するという、大学時代から掲げていたミッションがホイットニーにはあった。そのまま 故郷に帰国するつもりなので、関係が曖昧なほうが都合がよかった。 言葉という道具で、今この瞬間を捉えるには、あまりにも単純で、あまりにも拙い。こんな欠陥だらけの道具で今を、そして、今になるべく未来 を、縛り付けたくはない。絶え間なく変化の伴う、今というこの瞬間こそ大切にしたい。そんな拘りが、タクにはあった。定義に縛られたくなか った。

前日のメールにて、その日の晩に落ち合うはずだったけれど、ジムへ行くはずのホイットニーは予想外の晴天を見て、心変わりした。

「こんな天気のいい日に室内に籠るのなんてもったいない。今から公園に行きましょ」

「O.K.」

タクは、こんなとき、彼女に振り回されているとは思わなかった。結果的にそう見られても可笑しくはない、とも思っていた。男を翻弄したいと いった類の欲望や駆け引きは、一寸も感じえなかった。どんな形であれ、何よりも大切なことは、相手の気持ちを尊重するか否かにかかって いる。気分屋だけれど、相手の気持ちに気をかけ、相手の決断を大切にしていた。心がわりは誰にでもある。したいことをしたいと言える、言 いたがる彼女の素直さと、無邪気さがタクには羨ましくもあり、あいらしくもあった。

お互いの住処が二駅しか離れていないこともあり、1 時間弱でホイットニーの最寄りの駅で落ち合えた。昼過ぎには上野公園に着いた。公園 に行く、それだけが定められたスケジュールだ。大体いつもこんな具合で、良くとれば、思うままに臨機応変に、悪くとれば、無計画で行き当 たりばったり。徒に公園内を散策した。

「日本に来て、明くる日に訪れた場所がここなの」

クリスマス間近に来たらしく、

「ホームレスが、日本語の聖書を片手に聖歌を合唱してたわ」

そこでホームレスが無料で聖書の配布もしていたらしく、

「私にも聖書を配ってきたの。キリスト教の地である私に配るなんて皮肉ね。それが何よりも印象に残ってるわ」

ホイットニーには、世界各地を巡る旅と、海外生活という、人生の二大計画があった。大学生の頃から抱き続けた人生へのチャレンジであ る。日本に来て、3 年が経とうとしている。3 年という節目での帰国。タクと関係を築く前から、計画され、計画された刹那から、遂行は揺るぎ ないものとなっていた。バイブルの教義のように、計画書は、遂行する為に、ただそこにあり続けていたように、タクには感じられた。

アメリカ南東部、ジョージア州。ホイットニーは、そこで生まれ育った。2003 年 11 月、僕がちょうど帰国した月に、二十五歳で来日した。ある 高校アメリカンフットボールのチームを舞台にした映画「タイタンズを忘れない」の撮影の舞台が、彼女の母校だ。人気からいって高校アメフ トの大会は甲子園にあたる。タクがジョージアと聞いて連想するのは、アトランタオリンピック、南北戦争、「風と友にさりぬ」ぐらい。それほど ホイットニーのホームタウンに疎い。DNA 的には、ほとんどがイギリス系で、少々ドイツ系が混じっている。鼻のあたりがどことなく、ドイツ人 を髣髴させる。赤みがかったカールのきいた金髪に、青い目。タクが英語のテストで読んだ記事に、青い目は、茶色い目よりも、感情が表れ やすいという実験結果が書かれていた。テスト中、道理で白人の子供の演技はうまく見えるのかと、感心した。ややたれ気味の目をもつホイ ットニーも、表情に乏しいと、どこか寂しげにみえる。アメリカではミニチュアサイズで、日本の女性の平均ほどか、やや低め。白人女性は太 かったり、長伸であったり、やたらと逞しい印象がある。そんな先入観と相まって、一緒に全身が写るプリクラを撮ると、タクの体がやたらと逞 しくみえた。でこが広く、片手で収まりきれそうなほど、小柄な顔。笑うと赤ちゃんのように無垢な笑顔。「Cute」と言うと、怒っているとも、恥ず かしがっているともとれる、なんとも不思議な不快感をしめした。ホイットニーの親友でもあり、タクの気心のしれた友でもある、カナダ人女性 キャシーに聞いてみた。キャシーはホイットニーのマンションに住むルームメイトだ。やっぱり嫌らしい。ホイットニーは手足が、日本人男性と 同じぐらい太く、骨太なのだろう。高校時代は幅跳びの選手だった。週に数回ジムに通っていることもあり、筋肉質で、体脂肪も低い。それで も、乳房は豊富で、くびれもはっきりしており、女性らしさを漂わせていた。胸から尻のあたりまでは、アジア系には稀な、はっきりしたラインが あった。

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