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『鉄鎖のメデューサ』

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リレー小説として始めたのに趣味に走りすぎて誰もついてこれなかったため、結局1人で40話に亘り書き続けたファンタジーです。
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2014年7月の記事一覧

「鉄鎖のメデューサ」第18章

「やったぞ!」「捕まえた!」

 背後から聞こえてきた群集の叫びにロビンの足が止まった。振り返ったその目が大きな網をゆっくり吊り上げるゴーレムの姿を捉えた。
 数歩戻りかけた歩みが疾走に転じる寸前、その肩を大きな手ががっしりと掴んだ。
「話を聞かせてもらおう」
 そういった黒い髪の大男の脇にやってきた金髪の青年が厳しい視線を投げかけた。

「格好だけ似せた猿知恵か。宝玉をごまかせるとでも思ったか。

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「鉄鎖のメデューサ」第19章

 乗せられた舟が動き出したと思ったとたん、大きな水音と叫び声が聞こえてきた。むろん投網に巻かれ身動きもならぬラルダには、何が起きたのか確かめるすべはなかった。しかし背を向けたまま舟を漕ぐ男の落ち着き払った様子から、おのずと事情は察しられた。

「……なにもかも計算のうちということか? 警備隊員に化けているようだが、さてはきさまが黒幕か!」
「詮索は無用だ。ついでにいっておくが、俺を石にしようなどと

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「鉄鎖のメデューサ」第20章

 月下に浮かび上がったゴーレムの影を、木陰から見上げる者がいた。
「まさかと思ってはいましたが、本当にそうだったとは……」

 網が押し込まれた窓の位置を覚え込むと、アンソニーは用心深く屋敷に近づいた。
 二階に登れそうな庭木があったが、メデューサがいる部屋となると不用心に近づくのは危険だった。仲間に知らせることを優先すべきとアンソニーは判断し、敷地の外へ出て待ちあわせ場所と決めている屋敷が見張れ

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「鉄鎖のメデューサ」第21章

 鍵の開く音がした。ラルダが振り返ると上背のある男が入ってきた。やつれの目立つその面持ちに黒髪の尼僧は眉をひそめた。それに気づいたのか、相手もまた探るような視線を返した。だが縛られた手を見ると、彼はすまないと詫びながら縛めを解いた。そしてまっすぐ彼女の目を見て問いかけてきた。
「メデューサを匿っていたのはあなたか?」

「……連れてきたのかとは訊かないんだな。やはりメデューサをこの街に持ち込んだの

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「鉄鎖のメデューサ」第22章

 体を固く締め上げる網目との格闘に疲れ果てた小柄な妖魔が身を休めていると、鍵が開く音がして、扉が細く開いた。うつ伏せの姿勢ながら触手の眼点は扉の様子も見て取ったが、開けた者の姿は扉の陰になっていて見えなかった。

 瞬間、投げつけられた短刀が床に突き刺さり、結わえられた網の綱が数本切れた。体への締めつけがわずかにゆるんだ。開けたままの扉の隙間から遠ざかる足音はすぐに聞こえなくなった。

 締めつけ

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「鉄鎖のメデューサ」第23章

「あそこへ登るの?」
 二階の窓へ枝を差し伸べている大木を見上げたロビンは呆然とした。

「ゴーレムは確かにあの窓から網に絡めた二人を押し込めたでありますよ。君に登ってもらえないと困るです」

 アンソニーに言われてロビンは大木の幹に取りついたが、腕が回りきらない幹に身を押し上げることはできなかった。

「仕方ないですな。背につかまるですよ」

 背中にロビンをしがみつかせたまま、アンソニーは猿の

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「鉄鎖のメデューサ」第24章

「やめて! お父様っ。クルルも! その人はお父様よっ」

 叫ぶセシリアにノースグリーン卿が視線を移した。小柄な妖魔もまばたきした。大きな人間から金色の目を離さないながらも、眼点のある触手がいっせいに背後の少女をうかがった。

「お父様がその子を連れてきたんでしょう? だったらなぜ脅かすの? せっかく友達になってくれたのに……」

 予想もしなかった言葉に、卿は目をむいた。
「……友達だと?」

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「鉄鎖のメデューサ」第25章

「誰か追ってくるでありますよ!」
 アンソニーの言葉にアーサーが振り返った。

「どこだ?」「屋根を伝っているであります」
「ただ者ではないな。様子はわかるか?」
「気配は一人。どうするでありますか?」

 アンソニーの後ろに乗ったラルダが話に割り込んだ。

「気づいていないふりをして速度をゆるめてくれ。敵の名前も顔も掴めていない現状、向こうからの接触はありがたい。警備隊に踏み込まれない程度に隠れ

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「鉄鎖のメデューサ」第26章

「あなたも強情な人だな、ノースグリーン卿」

 取り調べ室と化した客間で尋問を続けるホワイトクリフ卿の声には疲労さえにじんでいた。

「単独でこんなことができるはずがないことなど子供でもわかる理屈ではないか。観念して共謀者はだれか答えられよ!」

「あくまで私の意志でしたことだ。娘の命を救うために尽力してくれた人に迷惑はかけられん」
「心意気は立派というほかないが、それではすべての罪を一人でかぶる

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「鉄鎖のメデューサ」第27章

「敵はそう出てくるのか。いよいよ正念場だな」

 アンソニーの話にそう応えたアーサーへ、ラルダが尋ねた。
「医者の割出しの首尾は?」
「掴めた。だがノースグリーンの屋敷の方へ戻ることになる」

「かえってその方がいいですよ。敵の網に追い込まれるわけにはいかないでありますよ」
「だが、それでは警備隊と真正面から蜂合わせだ」
「グレイヒースの手勢はみな中原の出身でしたわ。いっそ蹴散らしてしまいませんこ

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「鉄鎖のメデューサ」第28章

「クルル!」
「どけ! 邪魔だ!」

 馬から転げ降り駆け寄るロビンにノースグリーンの怒声が飛んだが、ロビンはクルルの前に両手を広げて立つと長身のナイトをにらみ上げた。

「こんなことするなんてひどいや! 悪者のところから毒消しを取ってこようとみんながんばってるのにっ」

 するとノースグリーンの背後から馬に乗った人影が矢のように左から右へ駆け去った。召使の身なりをした間者だった。

「まずい、気

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「鉄鎖のメデューサ」第29章

 前から迫る強敵の姿に魔力を瞳にみなぎらせながらも、小柄な妖魔は違和感を覚えていた。つい最近刻まれた記憶が警報を鳴らしていた。
 いつ、どこでのことだったか。うごめく触手の下の頭脳が一旋した。

 大きな橋の上での出来事が脳裏に浮かんだ瞬間、妖魔は後ろを振り向いた。殺気に向けて放たれた魔力と同時に敵が何かを投げつけた。

「ろびん!」

 自分をかばう前の二人に体当たりした妖魔の腕を短刀がかすめた

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「鉄鎖のメデューサ」第30章

「臭いよう、兄貴。もう残飯集めはいやだよう……」
「しょうがねえだろうが! これを養豚場の豚どもに食わせねえとおれたちも飯にありつけねえんだ。毎日同じ事をいわせんじゃねえや、タミーよぅ。俺まで情けなくて泣けてくらあ……」

 ごみ箱から残飯を荷車の箱に移しながら近づいてくる二人の大男こそ、この街に氷漬けのメデューサを持ち込んだ張本人ゴルト兄弟に他ならなかった。メアリが顔を引きつらせて横を向くと、小

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「鉄鎖のメデューサ」第31章

 目覚めたばかりのクルルに対し、セシリアを救うため石にしてほしいと説明を始めたロビンだったが、それは予想以上に困難なものだった。

 目に見える事物に関する言葉を優先的に身につけてきた小柄な妖魔に対して、セシリアを石化してほしいことを伝えるのがまず大変だった。ようやく伝えることに成功すると、今度はクルルがセシリアはともだちだから石にはしないといい出してきかなかった。メデューサにとって石化はあくまで

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