「鉄鎖のメデューサ」第25章

「誰か追ってくるでありますよ!」
 アンソニーの言葉にアーサーが振り返った。

「どこだ?」「屋根を伝っているであります」
「ただ者ではないな。様子はわかるか?」
「気配は一人。どうするでありますか?」

 アンソニーの後ろに乗ったラルダが話に割り込んだ。

「気づいていないふりをして速度をゆるめてくれ。敵の名前も顔も掴めていない現状、向こうからの接触はありがたい。警備隊に踏み込まれない程度に隠れ場所を移る必要は出るだろうが」

「つかまった時に何かわかったことはないのか?」
 ロビンを前に乗せたリチャードがいった。

「ジョージ・グレイヒースという警備隊員はいるか? 顔は定かでないが年配の凄腕だ」
「サポートに徹して手掛けた事件はすべて解決させていますわ。目立つところへは出ませんけれど信頼は絶大ですわよ」
 アーサーの背後からメアリが答えた。

「ノースグリーン家に入った者たちも時間をかけて信頼を勝ち取りながら数を増やし、時が至るのを待って仕掛けた。同じ方法でこの街も手中にすべくノースグリーンを除くつもりだろう」

「だったら卿に毒を盛った方が早くはないか?」
 クルルを前に乗せたエリックがいった。小柄な妖魔を不安がらせないようロビンを乗せたリチャードの真横につけていた。

「それだと定められた順位の者がくり上がるだけだ。彼を罪人にした上で解決にあたり功績を示せば警備隊の中で力も伸ばせる。一石二鳥を狙ったんだろう」

「確かにここ数年中原出身の者が重用されるケースが増えたとは思っていたが、どこかの国の間者かもしれぬとは……」
「出身地を手掛かりに洗い出すしかなさそうですわね」
「最初にノースグリーンにメデューサの話を吹き込んだ召使と、それに呼応して診断を出した医者。まずここから手をつけるべきだろうな」
「でもノースグリーン卿がもし自白してしまえば、たちまち誰が間者なのかわかるだろうに」

 最後のエリックの言葉に、ラルダはかぶりをふった。

「動かぬ証拠が出ない限り、彼は誰の名前も出さずに一人で罪を負うはずだ。やつらはわざわざ危険な方法だとことわって、もし捕まれば追放だからと反対までしてみせてノースグリーンに自らの意志で選ばせるように仕向けた。娘を救えなかったとしても、反対を押しきって協力させた相手への感謝が消えることはない。あのジョージという男は、ノースグリーンの人格を十分把握して彼を心理的に追い込んでいる」

「確実といえば違いないが時間がかかるやり方だな。彼らの主はよほど若いのかな。年寄りではとても待てんだろう」
「出身地を洗って領主が年寄りでなければまず間違いないことになるのでありますか?」
「だが、それだけでは弱い。やはり証拠をつかむしかないか」
「容疑者を自白させるか、そのハイカブトとやらを押収するかのどちらかということですわね」
「そうだ。特に解毒作用のある灰色の花はなんとしても手に入れなければ!」

 一行が廃屋に入ったのを確かめた追跡者を、アンソニーは物陰から探った。引き返していくのを見た彼はアーサーに相手の様子を耳打ちすると逆に追っていった。アーサーは仲間の待つ廃屋に戻った。

「やはり召使の一人らしい。メアリは本部に戻って隊員の出身地を洗ってくれ。問題の医者は俺が探す。リチャードとエリックはここに残って、敵が来たら捕まえてくれ。もし警備隊が動くなら打ちあわせた場所へ移動するんだ」


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