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トランプ政権誕生で揺れる市場の動向


 アメリカの大統領選挙でトランプ氏が勝利し、それに伴ってアメリカの金利が大きく上昇し、ドルが買われる展開となっています。株式市場においては、日米の株価が大きく上昇する一方で、中国の株価は下落しており、まさにトランプ政権の政策を織り込んだ「トランプ相場」や「トランプトレード」とも言える動きになっています。
 市場を注視している投資家の多くは、こうしたトランプ政権の政策を織り込む動きがどこまで続くのかに注目していることでしょう。この記事では、現在の市場の動向について、特に私が興味深いと感じた部分に関して解説します。

ご参考(トランプ氏記事のまとめ)

■ トランプ氏が勝利した場合のドイツ経済(2024/3/12)
■ トランプ氏が勝利した場合のフランス経済(2024/3/30)
■ トランプ氏が勝利した場合の金利の動き(2024/7/2)
■ アメリカ財政赤字の見通しと利払い、GDPの関係(2024/7/18)
■ FRBと独立性の話とニコニコch再開のご報告(2024/8/16)
■ トランプ氏の報復関税と私のYouTuberとしての話(2024/9/14)

アメリカの国債市場の動き

 2024年11月6日、あらゆる市場が大きく動きましたが、その中でも特に目立ったのはアメリカの債券市場です。
 
アメリカの10年国債の利回りは、9月末時点で3.78%でしたが、10月に入るとトランプ氏の勝利を織り込む動きが現れ、10月末時点で4.28%にまで上昇しました。そして11月6日には4.43%まで上昇しています。つまり、9月末から0.65%上昇したことになります。

 この金利の上昇の理由としては、トランプ政権の誕生によって景気が良くなり、それに伴ってインフレ率も上昇傾向に向かうという予測が市場に織り込まれたことが考えられます。
 それを裏付けるかのように、市場が織り込む期待インフレ率は、9月末時点で2.18%でしたが、10月末には2.32%に、そして11月6日には2.40%まで上昇しました。

期待インフレ率の影響

 期待インフレ率とは、通常の国債の利回りと物価連動国債の利回りの差から計算される指標です。
 期待インフレ率の上昇と金利上昇がどこまで続くのかについて関心を持っている人も多いことでしょう。2016年にトランプ氏が大統領選挙で勝利した際には、その後の12月半ばまでアメリカの長期金利の上昇が続きました。今回はどうなるのかという点も注目されています。

法人税減税の効果とリスク

 景気にとって最もプラスとなると予想される政策は、法人税の減税です。トランプ氏は法人税を現行の21%から15%に引き下げると主張しています。前回のトランプ政権下では35%から21%に14%引き下げられたため、単純に税率だけを比較すると、今回は6%の減税であり、前回よりも小幅な引き下げとなります。
 また、今回の選挙前の段階で既に織り込みが始まっており大幅な金利上昇が見られたため、ここからさらに金利上昇が続くとしても、2016年の時ほど長続きしないのではないかと考えています。ただし、2016年と比べてアメリカの財政状況が着実に悪化している点には注意が必要です。

欧州の国債市場への影響

 欧州の国債利回りの動きも非常に興味深いと感じています。これまでも「トランプ氏が勝利すれば、ドイツを含めた欧州経済には逆風が吹くだろう」と解説してきましたが、まさにそのような動きが見られました。
 ドイツの10年国債の利回りは11月6日に0.02%低下し、2.405%に下落しました。これは、ドイツ経済を中心にマイナスの影響が及ぶという予測を市場が織り込んでいる動きと考えられます。

 ドイツ経済については中国との関係性が非常に強固で、中国なしでは成り立たないと言えるほどの企業も多く存在します。そして、製造業を中心とした経済構造という点においても、トランプ大統領の政策と相性が悪い国と言えます。

トランプ氏が勝利した場合のドイツ経済

 ドイツのケルン経済研究所が10月に公表したレポートによると、トランプ政権が続くとユーロ圏経済は2028年までに1.3%縮小し、ドイツのGDPも1.5%縮小すると予測されています。これは、トランプ氏が主張する輸入品への20%の関税が実施されることを前提にした予測です。
 ウクライナ戦争の終結や原油価格の変動といった不確実な要素は含まれていないため、ある意味では最悪のシナリオといえるでしょう。

ドイツと欧州経済の厳しい展望

 欧州経済にとってトランプ政権はさらに厳しい状況をもたらしそうです。仮にアメリカがウクライナ支援から手を引くことになった場合、ドイツやフランスがどのように対応するかも不透明な状況です。
 このような環境下で設備投資なども控えられ、当面はドイツを中心に欧州経済の厳しい状況が続くと予想されます。そのため、ドイツを中心に欧州の国債利回りも低水準で推移する可能性があります。

新興国経済への影響

 メキシコは、中国メーカーがメキシコに工場を建設してアメリカに輸出するという「関税逃れ」の対策として関税が引き上げられる可能性があり、非常に厳しい立場です。この関税の問題は、前回のトランプ政権でも同様でした。中国などが関税回避の方法を模索することになるでしょう。

トランプ氏は中国の製品に60%の関税をかけると言っています。中国企業のメキシコ工場で生産されるものについても高い関税をかけると言っています。トランプ政権が誕生した場合には、メキシコ経済の好循環がストップしてしまう可能性もあります。

メキシコ大統領選挙結果とメキシコ経済展望

 アメリカの景気が上向くとドルが強くなりやすいため、新興国にとっては厳しい状況です。ドルペッグしている国々は金融引き締め政策を取る必要が生じ、ペッグしていない国でも自国通貨安を避けたいと考える国は多いため、ドル高は非常に厳しい局面をもたらすでしょう。

日本の国債市場と今後の動向

 日本も円安・ドル高が進み、1ドル160円台が見えてくるようだと日銀に利上げを求める声が強まり、国内経済にマイナス影響が及ぶ可能性もあります。そのような背景もあり、日本の国債市場も金利上昇で反応しています。

総括

 以上が11月6日のマーケット、債券や為替の動きについての解説です。今後もトランプ政権の政策を見極めつつ、最新の情報をアップデートしていきたいと思います。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。


ご参考

 アメリカでは、トランプ氏が大統領になった場合に政府系ファンドを創設するという話が出ています。

アメリカの政府系ファンド創設案とその目的

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