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メキシコ大統領選挙結果とメキシコ経済展望


 2024年6月2日に行われたメキシコ大統領選挙の結果が出ました。予想通り、元メキシコシティ市長のクラウディア・シェインバウム氏が勝利しました。今後のメキシコ経済について解説したいと思います。

シェインバウム氏の政策と大統領選挙結果

 今回の選挙の結果はほぼ予想通りで、全くサプライズはありませんでした。そして、現政権から大きく政策が変わることもないと思われます。新しい情報というのは多くあるわけではありませんが、まずは新大統領のクラウディア・シェインバウム氏について簡単に説明します。

シェインバウム氏の政策

 シェインバウム氏の政策は基本的に現職のロペス・オブラドール氏と大きく変わらないと見られています。一方で、シェインバウム氏はメキシコで初めての女性の大統領になるわけですが、自分のことをフェミニストだと主張していて、女性の権利擁護に非常に積極的です。また、LGBTの権利擁護にも積極的で、メキシコシティの市長の時代に、市内の学校の制服にジェンダーレスのタイプを導入するなどしています。

選挙結果の影響

 シェインバウム氏が現職のロペス・オブラドール大統領の側近で、ロペス・オブラドール政権の政策を引き継ぐと見られていましたので、今回の選挙でシェインバウム氏が勝利したというのは、ロペス・オブラドール大統領の政策が一定の支持を得た結果だと言えます。同時に議会議員選挙も行われていて、上下院で与党が議席を増やしています。こちらも与党が国民から支持を得られた結果と考えられます。

メキシコの治安問題

 今回の選挙は「血にまみれた選挙」とも言われています。昨年の9月から選挙運動最終日の5月27日までに、政治家が133人殺害されたと報じられています。これはメキシコ麻薬戦争と言われたりする武力紛争に関係するものです。メキシコでは2006年頃から軍隊を動員して麻薬カルテルの取り締まりを強化してきましたが、それが暴力の連鎖を引き起こしてきたというのがあります。
 今回の選挙に関しても、犯罪組織にとって不都合な候補者が殺害されたり、政治家が犯罪組織と繋がっているんじゃないかということももちろん多々ありました。麻薬戦争の影響で多くの政治家が殺害されました。

メキシコ経済の現状

 メキシコ経済の足元の状況を振り返りたいと思います。2020年は新型コロナやその後のサプライチェーンの混乱の影響でGDPの成長率はマイナス8.7%と落ち込みましたが、2021年はプラス5.7%、2022年はプラス3.9%、2023年はプラス3.2%と、コロナ後は比較的好調となっています。

メキシコ経済とニアショアリング

 この好調の背景にはいわゆるニアショアリングというものがあります。メキシコ経済を語る上ではこのニアショアリングという言葉が必ず出てきます。

ニアショアリング
企業が事業拠点を近隣の国(多くの場合、国境を接する国)に移すこと。

内閣府HP

 ニアショアリングというのは、事業拠点を隣国に移すこと、つまり、アメリカで車やいろいろなものを売りたい会社が、隣国のメキシコに製造拠点を持つことです。
 メキシコは隣に消費大国のアメリカがあり、世界の企業がメキシコに製造拠点を設け、そこからアメリカに製品が輸出されることにより、輸出を伸ばしています。そして、国内に海外企業がたくさん工場などを作って、人やお金が入ってきて、それによって国が潤っています。この他にも、アメリカに出稼ぎに行っている人たちからの仕送りなどもメキシコ経済を支える大きな要因になっています。

ニアショアリングと政策

 海外企業の誘致を積極的に進めてきたのがメキシコ大統領のロペス・オブラドール氏です。ロペス・オブラドール氏はエネルギー分野では国の影響力 を強めるなどしている一方自動車などの分野では外国企業を積極的に受け入れてきました。こうしたロペス・オブラドール政権の政策もあり、メキシコはニアショアリングで成長を実現したと言えます。

メキシコと中国の関係

 メキシコがアメリカへの輸出を伸ばしているわけですが、これには中国も関わっています。近年、アメリカへの輸出でメキシコが中国を抜いたという報道があり、一見、メキシコと中国がライバル関係になっているようにも見えますが、実はそうではありません。デロイトが発表したレポートなどで、2022年にメキシコの工業団地に拠点を設けた企業の国別の割合を見ますと、8割が中国の企業となっています。そして、2021年以降、中国によるメキシコへの直接投資が急増しています。
 中国企業がメキシコで生産し、アメリカに輸出しているという状況になっていることが分かります。

シェインバウム政権の経済政策とトランプ政権が誕生した場合の影響

 シェインバウム政権でも、これまでの経済政策が継続されると見られています。しかし、アメリカでトランプ政権が誕生した場合、これに影響が出る可能性があります。トランプ氏は中国の製品に60%の関税をかけると言っています。中国企業のメキシコ工場で生産されるものについても高い関税をかけると言っています。トランプ政権が誕生した場合には、メキシコ経済の好循環がストップしてしまう可能性もあります。

メキシコの憲法改正と経済展望

 ロペス・オブラドール政権は2月にも憲法改正案を国会に提出しています。これは否決されていますが、年金制度の拡充や農村に対する補助金、奨学金などを憲法で保証する、いわゆる左派的な大きな政府で、国家財政が著しく悪化する可能性があるものになっていました。ロペス・オブラドール政権は2024年にも65歳以上の高齢者に一時金を配ったり、最低賃金を20%引き上げたりしていて、財政赤字はGDP比4.9%とかなり大きくなる予定になっています。仮に憲法改正が行われた場合には、恒常的な財政赤字に陥る可能性があると見られています。憲法改正には上下院で2/3以上の賛成が必要ですが、今回の選挙で下院は与党が2/3を獲得しました。ただし、上院は過半数は超えたもの2/3には達していない(TeamモハP修正:6/17 選挙の結果を記載しています。)ので、すぐに憲法改正にはならないと見られていますが、憲法改正の可能性は高まってきたと言えるでしょう。
 今後はアメリカの選挙の行方とメキシコの憲法改正がどうなっていくのか、メキシコ経済を見ていく上でも重要になりそうです。

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