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小説詰め合わせ

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2015年10月の記事一覧

淡い紫の呪い

淡い紫の呪い

 雪原にほんの一滴、ブドウのジュースをこぼした時のようなはかない淡い紫。その色をミサキはこっそり持っている。きっと誰にも見せてない、でも私は知っている。だって私がつけたんだもの、あの華奢な左の手首に。

 「先輩って、かっこいいよね」ミサキがそう言うのと、私がカメラのシャッターを切ったのはほぼ同時だった。

 「え?先輩??」

 わざと聞き返す。先輩と呼ばれる人物にはあらかた予想がついていた。

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ユリちゃん

ユリちゃん

  がたたん。ごととん。がたたん。ごととん。

 その日私は地下鉄の中でうたた寝をしていました。通学している高校からこの地下鉄の駅までは歩いて15分ほどなのですが、11月の木枯らしが私の身体を冷やすのには十分過ぎるほどの時間で、暖かい車内に凍え切った足を踏み入れた瞬間、固まっていた節々が和らぐのを感じました。それと同時に気も緩んでしまったのか、いけないと思いつつ泥にどっぷりとつかるような眠気が私の

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おだやかな自殺

 私は時々心が寂しくなります。身が震えるほどの、押し寄せるような寂しさではありません。包み込まれるように優しく、どっぷりと怖くなるのです。私はそれが、心底恐ろしいような気がして、真夜中に1人で訳も分からず泣くのでした。いったい何が怖いのか、それすらも分からずに。

 その日はとてもよく晴れていて、私が高校を理由なくさぼった初めての日でもありました。時刻はお昼を過ぎたところで10月の空が高く澄んでい

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くす玉の残骸。

くす玉の残骸。

 私はね、この世で一番悲しいものを知っているのよ。

 例えばね、誰かの誕生日会。

 天井に金ぴかのくす玉がつるされてるの。そこには、和紙でできた柔らかい花とか、ウサギの人形なんかがついていてね。皆がそれを期待にあふれた眼差しで、今か今かと見つめているの。

 そして、パカッっとくす玉が割れて、皆が「わぁ」と歓声を上げてね。そしたらね、瞬間辺りは、色とりどりの小さな風船と、ギラギラと光沢のある色

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