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月森乙の「自分で選んだエッセイ」傑作選

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別サイトで公開しているエッセイの中からお気に入りのものだけを選び、一部修正してこちらに掲載しています。
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第7話 首ちょんぱ

第7話 首ちょんぱ

 当時、私たちは某国に住んでいました。

 ダンナの祖国の基地の近くに住んでいたので、つきあう方々はおおむね、ダンナの祖国の方々でした。

 私のダンナは士官ではありませんでしたが、運悪く士官の奥様方と交流する機会に多く恵まれました。
 彼女たちのマウンティングはすさまじく、派閥争いも相まって、目の前でバチバチと火花が散るようなありさまでした。
 もちろん、士官の妻でもない私などは、虫けら程度の扱

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第4話 彼の者

第4話 彼の者

 実はうちには息子もいます。

 本を読むのはきらいだし、隙を見てはズルをしようとします。私が隠していたお菓子を食べて、食べかすを放置しています。
「食べたでしょ」
 と言ったら、
「食べてない」
 と言います。証拠の食べかすを提示したら、
「だって、ち〇ち〇がそうしろって言うから」

 男性の神秘です。

 運動が嫌いですが、家でゲーム中継ばかり見せるのもどうかと思い、サッカーチームに入れました

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第5話 キャンプ

第5話 キャンプ

 某国の某州に住んでいるとき、近所のご夫婦からキャンプに誘われました。私はキャンプなど行ったことがなかったので、二つ返事で「行く」と返事をしました。

 近所のご夫妻もうちもまだ子供がいない時でした。

 そのキャンプ場は車で一時間ほどのところにある山の中でした。

 途中で道路にコオロギの大群が現れ、道路を真っ黒に埋めていました。近づくごとに形を変えて蠢くその黒いものを、ザリザリと音を立てて車の

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第6話 森のくまさん

第6話 森のくまさん

 母親にとって、出産は幸せの瞬間だと思います。

 私もそうでした。……ただし、ある一点をのぞいては。

 娘を取り出した直後、先生が私のお腹の上に、娘をうつぶせにおいてくれました。娘はぱっちり目を開け、不思議そうに周囲を見回していました。

 なんてかわいらしいんでしょう。

 感動した瞬間でした。

 娘は一通り周囲を見回した後、私を見ました。バチっと音を立てて目が合いました。どういうわけか、

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第3話 人種差別

第3話 人種差別

 少し前、某国では人種差別のことを話すのがとてもはやっていたそうです。ただ、「差別をしてきた人たち」に「差別をされた人たち」の気持ちはわかりません。だって、今まで「面白い」と思って差別したりバカにしてきたりしていたのですから。
 というわけで、かなり面白いことになっています。

 うちの娘は、見方によってはラテン系にも中東系にもアジア系にも見えます。
というわけで。

 ある日、クラスの誰かが、

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第2話 ギプス

第2話 ギプス

 追いかける、といえば。

 昔、昔の話です。まだ、子供はいませんでした。

 ダンナは某国人で、別の某国のあたりの某国基地の近くに住んでいました。

 ダンナの鼻の中に大きなポリープがたくさんできていました。そのせいで、顔の形まで変わっていました。医者はそれを、「白いぶどうをぎゅっ、ぎゅっと詰め込んだ感じ」と表現しました。

 わたしたちは遠いところに住んでいたので、手術をするのに片道四時間かけ

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第1話 シュネバル

第1話 シュネバル

ちょっと昔。
長女は十歳でした。
とある国に行きました。

その地域に、「シュネバル」というお菓子がありました。スノーボール。雪玉、という名前らしいです。

 中世の結婚式の時に供されてきた伝統的なお菓子で、リボン状に切ったクッキーをぐちゃぐちゃに丸めて揚げ、表面にたっぷり粉砂糖をかけたものでした。娘の顔くらいある、その大きなボール状のものを買いました。

 娘がかじりつこうと大口を開けたら、口に

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