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【読書感想文】 普通とは何かを問う芥川賞受賞作 『コンビニ人間』

私たちの日常生活において、コンビニエンスストアは今や必要不可欠な存在です。

ある一時期、どういうわけか我が家の近所から大手コンビニチェーン店がすべて撤退してしまったのですが、その時の喪失感は大きく、もう少し先に行けばスーパーマーケットがあるにも関わらず、真空地帯になったような侘しい気持ちになったことを覚えています。

しかし、24時間365日、欲しい時に美味しい食べ物や飲み物が買えて、イベントのチケットが買えて、公共料金の支払いができて、他にもいろいろなサービスが受けられる便利さは決して当たり前のことではありません。

応対する店員さんや業務に携わる方々がいらしてこそ成り立つのであって、その感謝を忘れてはいけないと考えます。

「ちょっと店長に相談しようと思っています」

本日は、『コンビニ人間』(村田沙耶香 著)をご紹介します。

第155回芥川龍之介賞受賞作

私が著者の村田沙耶香さんをテレビで初めて拝見したのは、芥川賞を受賞されるほんの少し前だったと記憶しています。

BSテレビ東京(その当時はBSジャパン)で放送されていた、『ご本、出しときますね?』という小説家をゲストに招くトークバラエティ番組に招かれていて、コンビニで週3日働いていると嬉々として話されていたのがとても印象的でした。

そのため、その後の芥川賞受賞記者会見の席で、これからもコンビニでアルバイトを続けるのかという質問に、「ちょっと店長に相談しようと思っていますが、可能なら(続けたい)」と答えていたのが妙な説得力を持っていたことを覚えています。

普通とは一体何なのか?

この作品は、子供の頃から複雑な思考と感性を持ち、店員としてコンビニの一部になることでしか生きられない36歳未婚女性の物語。

今現在も、世界は多様性や個性を許容すると言いながら、暗黙のうちに皆と同じく"普通"に生きることが正しいという価値観に支配され続けているように感じます。

では、普通とは一体何なのでしょうか?

普通なら幸せなのでしょうか?

そう問いかけられたならば、すべての人が納得できるような答えを出せる自信は私にはありません。

なぜなら、正しいとされる普通の人生を歩んできた人が皆、満ち足りた幸せな日々を過ごしているとは限らないからです。

しかし、普通の尺度が他人とは違う自分を持つこの物語の主人公は、コンビニという存在と運命の出逢いを果たし、その身を捧げることで幸福を感じ、結果、社会に貢献しています。

普通と言われる範疇はんちゅうにいても生活に行き詰まったり、不満を抱えている人よりは正しい生き方をしているのではないでしょうか。

そう考えるとこの物語は、普通の生き方を正しいとする価値観へのアンチテーゼなのかもしれません。

主人公の思考や行動に戸惑うところはありましたが、自ら決意したその結末には安堵あんどしました。

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P.S.

主人公をいろいろと揺さぶる重要な人物が登場するのですが、生理的に受けつけないとはこういうことだったなと久しぶりに思い知りました。

これはあくまでも私の主観ですが、よくもまあ徹頭徹尾気色悪く仕立てられるものだと、著者の力量に感服してしまいます。

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