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【読書感想文】 忙しなく生活する大人にこそ読んでほしい児童文学の名作 『モモ』

まだ残暑が厳しかった、とある日曜日の朝のこと。

のそのそと起き出し、ベランダを覗いたら、全長30㎝くらいの知らない亀が歩いていました。

「おわぁふ!!」

それまでの人生で接することがなかったそこに居るはずのない生き物が居るという事態に遭遇すると、普通なら絶対に出ない声が出るものです。

亀、正式名称はミシシッピアカミミガメというその亀さんは、どうやら私の住むマンションの同階のどこかの部屋で飼われていて、そこから脱走し、ベランダにある、"非常の際には、ここを蹴破けやぶって隣戸りんこに避難出来ます"と書かれた隔て板へだていたの下の隙間をくぐり抜けて我が家にやって来たようでした。

私がベランダに出ると、亀さんは凄い勢いでこちらに突進してきます。

私は、「ひやぁっ!」とまた変の声を上げ、突進してくる亀さんをひたすら避けながら、"亀、歩くの早い! 全然のろまじゃない! "とまたしても驚愕したのでした。

しかしながら、いつまでも驚いている場合ではないので、仕方なく飼い主さんを探しに行くことにしました。

お隣、そのお隣と尋ね歩き、ことごとく撃沈し、心が折れかけた頃、ご年配のご夫婦のお宅でお尋ねしたら、「あらー、そちらまで行ってたのー。ごめんなさいねー」という早く聴きたかった返事が返ってきました。

奥さまのお話によれば、かれこれ5年ほど大事に飼っているとのこと。

「居なくなったなぁって思ってたけど、お昼食べてから探そうと思ってー」

その言葉に、"なんでだよ"などと思ったことは微塵みじんも感じさせない大人の愛想笑いを浮かべた私は、奥さまを我が家までご案内し、相変わらずベランダを満喫まんきつしていた亀さんを無事に引き渡せたのでした。

多くの人の胸に刻まれた作品

本日は、『モモ』(ミヒャエル・エンデ 著 大島かおり訳)をご紹介します。

ミヒャエル・エンデはドイツの児童文学作家で、この作品は1973年に刊行され、1974年にドイツ児童文学賞を受賞しました。

以来、現在においても根強い人気を誇り、多くの人の胸に刻まれた作品と言っても過言かごんではないだろう名作です。

2020年8月にNHK Eテレで放送中の『100分de名著』でも取り上げられ、心理学の視点から読み解かれているのを私もとても興味深く視聴させていただきました。

朗読はのんさんで、物語の世界観や主人公の特異なキャラクターを見事に表現されていて、素晴らしかったです。

忙しなく生活する大人に読んでほしい

この作品は、特異な能力を持った不思議な小さな女の子のモモが、人間たちから時間を奪う灰色の泥棒たちから時間を取り返すために奮闘するファンタジー。

そして、今を生きる私たちに現在進行形で、時間とは何なのか、幸せとは何なのか、生きるとは何なのかを問いかけ続ける物語です。

初めは皆にしたわれ、受け入れ続けるだけだったモモが、時間泥棒たちから友達を助けたい一心で行動を起こす純粋さと勇敢な姿に心を打たれ、ページをめくる手が止まらなくなったことを思い出しました。

私たちは、どう足掻あがいても終わりが必ずやって来る、限られた時間の中に生きています。

そんなかけがえのない時間の過ごし方に、後悔することがあっても無駄なことは何ひとつないのならば、心が豊かになるよう大切に過ごしたい。

世代を問わず楽しめますが、特に、時間に追われ、せわしなく生活することが当たり前になっている大人にこそ読んでほしい作品です。

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P.S.

物語の中に出てくる、金のバターとハチミツを塗ったパリッと焼けたパンと飲めるチョコレートがとても美味しそうでした。

私もモモと一緒にお腹いっぱい食べたい…というか、そこに住まわせてほしい。

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