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地方財政の何が論点なのか?(いくつかの自治体の財政を眺めて・・・)

こんにちは!海原雄山です。

昨年後半からこの統一地方選にかけて、いくつもの広域自治体(都道府県)、基礎自治体(市区町村)の財政について調べてnoteの記事にしてきました。

その中で、今回は私が得た気づきについてまとめておこうと思います。


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①遠い不交付団体(財政力指数の低さ)

財政力指数は、いわば支出を収入でどれだけ賄えているかを示す指数で、これが1を割っていると、足りない分は地方交付税を国からもらえることになります。

都道府県、市町村あわせても、財政力指数が1を超えているのは、東京都を含めごくわずかです。

もっとも、財政力指数を計算する際に見込まれる収入すべてを分子に入れるわけではないので(『留保財源』として分子から控除される)、必ずしもすべてがすべて本来的な意味で財源不足とも言い切れないわけですが、地方交付税を受け取る自治体が減らなければ、その分だけやはり国の財政的負担は重いままであるため、日本全体のことを考えると良いわけではないことは確かです。

大阪市は今後数年で交付団体から脱却し、不交付団体になる見込みですが、それは大阪市という人・物・金が集まる街だからこそできることで、例えばその周辺の基礎自治体では財政力指数がかなり低く大きな企業などもないため、残念ながら不交付団体などほど遠い自治体も多いことは確かです。


地方交付税は、全国の自治体間の財源の偏りを是正し再分配する側面もあるため、どの財源とどの仕事を国から地方に移すかといった地方分権の議論にも少なからず影響のある話だと思います。

この状況をどのように考えるか、またどうあるべきか、国と地方の財政制度の在り方も踏まえ、今後議論が必要ではないでしょうか。



②地方税の伸びる自治体、そうでもない自治体

各自治体の一般財源の多くは地方税になります。そして、その地方税の約85%前後は住民税と固定資産税になります。

住民税のうちの多くは個人の住民税所得割ですが、これは文字通り所得にある程度連動しています。

名古屋市と岐阜市は比較的近い地理的関係にありますが、両者では、この5年間で住民税所得割と固定資産税の伸びに違いがあります。

名古屋の方が岐阜市よりも伸び率が高いです。

これは、名古屋が東海地方の経済の中心地であることと無関係ではないでしょう。

名古屋市には多くの企業が集まり、そこに住む人々の所得も企業の収益向上とともに上昇しているものと考えられます。また、人の集まる街であるが故、固定資産税も上がりやすいと考えられます。

一方、岐阜市は岐阜県の県庁所在地でありながら、名古屋市内への通勤のしやすさもあってか、名古屋市のベッドタウン的性質も持っていますので、人・物・金が集まるところとは言い難いとは考えられます。

そうすると自ずと、住民税所得割の伸びも固定資産税の伸びも、大都市に比べ鈍いものとなると考えられます。

このように、当然のことながら、都市の性質によっては税収の伸びにも違いが出てくることがわかります。

そう考えると、財政を考える上で、どのような対応をするべきか、あるいはどういう都市を目指すべきかは、自ずと変わってくると考えられます。


③歳入の伸びは税収増だけとは限らない

基本的に財政を良くするためには、収入を増やすか、支出を減らすか、あるいはその二つを同時に行うことです。

税収を増やすには、住民の所得を伸ばすか、あるいは街の魅力を高めて固定資産税を増やすか、あるいは独自の税を設定するかといった選択肢がありますが、住民の所得を増やすのも街の魅力を高めるのも、自治体がすぐにはできることではありません。

産業振興も一自治体でできることは限界があるし、固定資産税があがるような街づくりも長期スパンでの開発を要します。

近年の住民税所得割の増収は、アベノミクスによる日本国民全体の総所得の伸びによる部分も大きいでしょう。

一方で、それらによらず、歳入を大きく伸ばしたのが、寝屋川市になります。

寝屋川市は長らくコストカットを進めていて歳出はかなり絞れている印象ですが、一方で2019年度にボンっと歳入が増えているのです。

なぜ、寝屋川市の歳入は大幅に伸びたのか。それは、2019年度から寝屋川市が中核市に変更になったことによる特例措置で、地方交付税が大幅に伸びたのです。

いうまでもなく、寝屋川市において財政が良化しているのは、それまでもかなり積極的なコストカットがあったわけで、怠けていた等と言うつもりはありません。

中核市になることで権限が増える=仕事が増えることでもあるのですが、財政を調べる際に、自治体の位置づけがかわることで歳入が伸びることもあることは頭の片隅に置いていただければと思います。

④地方財政における消費税の重要性

2019年10月に消費税率が上がったことは記憶に新しいかと思いますが、消費税は自治体の財政にも大きな影響があります。

地方税収が必ずしも伸びているわけでもない中、近年その重要性を増しているのが地方消費税です。

兵庫県の財政を一例に挙げると、景気の変動を受けて県民税(法人分)や事業税収等が落ち込む中、地方消費税収はむしろ増えています。

2020年度における兵庫県の地方税収において、消費税の占める割合が31%となっており、県民税(31.5%)に匹敵する規模となっています。

国の財政において、消費税法人税や所得税等に比べて景気の変動を受けにくいと言われています。


そのため安定財源とされており、削減が難しい義務的経費(人件費、公債費、扶助費)等の比率が高い地方自治体において、これ以上に無い理想的な財源と言えるでしょう。

よもや、消費税はそれ抜きに地方財政は語れない存在となっていると言っても過言ではないと思いますが、世の中に『消費税廃止』等を政策に掲げる政党まで現れております。

しかし、消費税のこうした現状等を抜きにして、無責任に消費税廃止を訴えたりするのは、無責任に見えるのは私だけでしょうか。

なお、維新は従前より時限的な消費税減税を国政選挙の公約として訴えたり、日本大改革プランにおいても消費税5%への引き下げ等を掲げていますが、0%という無責任な議論をしないのは、消費税を地方重要財源として認識しているからであるとのことです。


⑤増大する繰出金

人件費や扶助費(生活保護や福祉の費用等)、借金返済のための公債費等、どの自治体もその削減に向け努力している跡が見えます。

私が見てきた中では多くの自治体において地方債残高が減少してきていることにより、元利負担が減少していることから、公債費は減少傾向にある自治体が多いように考えられます。

しかし、代わって多くの自治体で上昇傾向にあるのは繰出金です。

繰出金とは、会計間相互に支出される経費をいい、ここでは一般会計から介護保険事業会計や後期高齢者医療保険事業会計と言った特別会計や公営企業への言わば仕送りのことを指します。

少子高齢化の進展とともに、一般会計から介護保険事業会計や後期高齢者医療保険事業会計と言った特別会計への支出も増えざるを得ない状況であることは、全国的な傾向と言えるでしょう。

そもそも介護保険も後期高齢者医療保険も保険という仕組みでありながら、保険料では収支が合わないという状況であること自体に疑問が無いわけではないですが、これを独立採算にするにしても保険料負担がその分増えるだけであるため、社会保険料で賄うのか税で賄うのかというお金の出所の議論にしかならないでしょう。

よって、社会保険の抜本的な変革が起きうるとは思えませんが、現状の制度を前提とするなら、今後も増大が見込まれる自治体の一般会計からの繰出金をどのように賄っていくかという議論になるわけですが、税収を増やすか、その他の歳出を絞るか、そのいずれかまたは両方が必要になることには変わりはないと言えるでしょう。



⑥収支は一つだけ見てもわからない

報道等で自治体の決算を語る際に、黒字なのか赤字なのかと言った議論を行う時、実質収支という数字を使われることが多いです。

しかし、実質収支というのは、ただ単に歳入から歳出を引いた形式収支から来年度に繰り越すべき財源を差し引いたものです。

繰り越すべき財源とは、例えば、工事などが何らかの事情で年度内に終了しないため、残った工事のお金を翌年度に繰り越して使用する場合が該当します。

しかし、この実質収支は一般的に皆さんがイメージされる収支とは違って、ストック性のあるものです。

つまり、何が言いたいかと言うと前年度の実質収支も繰越金として今年度の歳入に引き継がれているのです。

より収支というイメージに近いのは、今年度の実質収支から前年度の実質収支を引いた金額が今年度だけの純粋な収支である単年度収支です。

しかし、この単年度収支も基金からの取り崩しはその分増えるし、逆に基金を積み立てたり地方債の繰上償還を行うとその分減ります。

それらを逆に引き戻したり足し上げると、より皆さんの「収支」という言葉のイメージに近いものなります。それが、実質単年度収支です。

別に実質収支が使えない数字だとか、実質単年度収支が万能と言いたいわけではありません。

それらを組み合わせて自治体の財務を見ることで、より収支の実態を把握しやすくなると考えられます。


再度の紹介となりますが、岐阜市の実質収支を見てみるとずっと黒字です。これだけ見ると、一見岐阜市の財政には何の問題もないように見えます。

しかし、単年度収支は2016年度から2019年度まで赤字。

2020年度は大幅な黒字となっていますが、2020年度に至るまでほぼ毎年何十億という単位で基金の取り崩しを行っているにすぎず、実質単年度収支は2016年度からの5年間一貫して赤字であり、慢性的な収支不足であることがわかります。

このように、実質収支だけ見ても、財務の実態はわからないものなのです。

かといって、実質単年度収支がずっと黒字であればそれでいいかと言えば、そういうわけでもありません。

自治体は企業のように黒字を積み上げればいいというわけではないのです。

実質単年度収支が黒字のままずっと続いているということは、その分住民サービス等としての還元が不足しているという可能性もあるのです。

つまり、時に積立金を純減させてでも自治体のインフラ整備や住民サービス拡充に使うことも必要であるといも言えるので、実質単年度収支が黒字の状態がずっと続けば、それだけ自治体はその役割を果たせていないということもまた同じく言えるのです。

したがって、当方がnoteで記載しているように、複数年度にわたる経年変化で複数の収支を比較することが必要と言えます。


最後に

統一地方選直前やその最中は、特に多くの自治体(特に重要な選挙のある自治体)の財政について調べた結果をnoteとしてまとめてきましたが、世の中にはまだまだ多くの自治体があります。

今後も全国の自治体の財政について紹介をさせていただければと思っております。(だいたい月1~2回くらいのペース)

統一地方選後も大きな選挙が続き、特に6月の堺市長選、9月の東大阪市長選・同市議会議員選挙においても、それぞれの自治体の財政の推移は、選挙戦における大きな論点になり得るため、その検討材料となるよう尽力してまいりますので、ご声援よろしくお願いいたします。

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