東京23区で人気の街 東京都港区と北区の財政について調べて比べてみた件


こんにちは、海原雄山です。

今回は、統一地方選後半戦において維新の候補者が大量擁立される2つの特別区について、財政を調べてみました。

東京都港区も北区も住みたい街ランキングの上位に名を連ねる街を多く抱えています。

そんな2つの特別区は財政上どのような特徴があるのでしょうか。

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港区と北区ってどんなところ?

まず、そもそもで港区と北区がどんなところかについて簡単にご説明させていただきます。

港区は人口約25.9万人(令和3年1月1日現在、住民基本台帳ベース)、北区は約35.3万人(同)を抱える東京都の特別区です。

港区は、六本木やお台場と言った人気の繁華街を擁しており、多くの人が集まるスポットが多いです。フジテレビやテレ朝といった在京キー局のテレビ局の多くが本社を構えています。

さらに、東京タワーや徳川家の菩提寺と言われる増上寺も港区芝周辺には観光名所も多くある一方、麻布十番周辺は高級住宅街でもあり、非常に多様な側面を持った特別区と言えるでしょう。

北区は、その名のとおり東京23区の北の端に位置しており埼玉県と県境で接しています。

近年は清野とおるの「東京都北区赤羽」という作品で、若者などに人気と知名度が高まっており、赤羽は近年人気の住みたい街ランキングで上位にランクインするようになりました。都心部へのアクセスが良い割に賃料が安いことや、他にはないディープな魅力にあふれていることが人気の秘訣かもしれません。

また、北区の王子は、2021年度の大河ドラマ『青天をつけ』の主人公渋沢栄一ゆかりの地として注目を集めました。

両区の財政比較について

では、本題に入りましょう。

今回は、2020年度までの直近5年間の決算カード等をもとに分析していきますので、特に断りが無ければ、2020年度の数字であると捉えてください。

また、類似団体とは、各市町村等を人口および産業構造等により全国の市町村を35のグループに分類したもので、両区とも「特別区」という類型に属しています。


各種指標の状況

①財政力指数

財政力指数は、類似団体の平均「0.57」に対して、港区「1.26」、北区「0.39」。

財政力指数とは、地方公共団体の財政力を示す指数で、基準財政収入額を基準財政需要額で割り算して得た数値の過去3年間の平均値ですが、ここで基準財政収入額(同需要額)は、だいたいどれくらい自治体運営にあたって財源を確保できそうか(どれくらいかかりそうか)を示す指標だととらえてください。

その数値が高いほど収入にゆとりがあり、1を下回っていれば、地方交付税交付金がその分支給されると大まかに捉えてください。

特別区の場合、地方交付税交付金は受け取りませんが、その代わり特別区財政調整交付金が交付されます。

これは東京23区がもともと東京市という1つの自治体であった経緯から、23区間の財源の偏在を是正するために、本来基礎自治体の税となる固定資産税や法人市民税等の一部をプールして再分配する仕組みです。

港区の財政力指数はなんと1を大きく超えるため、この特別区財政調整交付金にほとんど依存していません。一方、北区の財政力指数は、逆に平均を下回っています。


②経常収支比率



類似団体の平均「82.1%」で、北区はややその平均より高く、逆に港区は平均より大分低い水準です。

経常収支比率とは、経常的な経費に経常的な収入がどの程度充当されているかを見るものです。比率が高いほど自由な施策が打てなくなり財政構造の硬直化が進んでいることを表すもので、70~80%が%が適正水準と言われています。

もともと、東京特別区は税源が他の基礎自治体より豊かなせいもあってか、全体的に低い水準と言えます。

③将来負担比率

将来負担比率は両特別区とも「-」で、類似団体の平均も「-」。

将来負担比率とは、地方公共団体の一般会計等の借入金(地方債)や将来支払っていく可能性のある負担等の現時点での残高を指標化し、将来財政を圧迫する可能性の度合いを示す指標で、標準財政規模(地方公共団体の標準的な状態での通常の収入と捉えてください)に対する「特別会計、第三セクターまで含めた地方公共団体の負債総額から積立金などを差し引いたもの」の割合を示したものです。

つまり、借金から貯金を引いたものが収入に対してどれくらいの割合かを示したものと捉えてください。(早期健全化基準:市区町村で350%)


歳入の状況

では、歳入の状況を見てみましょう。

2020年度以降は、コロナ対策の国庫支出金を多く受け取ったため、大幅に増えていますが、そういう一時的な要因を除くために、経常一般財源等で見ていくと下記のとおりです。経常一般財源等は、歳入のうち毎年度経常的に歳入されるもののことです。


単位:%(※国有提供交付金はここでは特別区財政調整交付金と読み替えてください)

上記グラフは、経常一般財源等におけるシェアです。

両区の特徴としては、港区が地方税(特別区の場合、ほとんど市町村民税(区民税))で8割近く賄えていますが、北区は経常一般財源等の約3分の1にとどまっています。

人口一人当たりの地方税収(経常一般財源等)は、類似団体平均で117,138円に対し、港区は319,842円と実に3倍近い一方、北区は87,433円と類似団体平均を大きく下回っています。

両区において担税力に大きな違いがありそうです。

また、先ほど特別区財政調整交付金の比率にも大きな違いがあり、港区は全く依存していない一方、北区は実に半分以上を特別区財政調整交付金に頼っている状況です。

財政力指数の大きな違いは、この担税力に起因してる部分が大きいと考えられます。

つまり、港区は、地方税収、つまり市町村民税(区民税)が豊かということです。

以下のグラフを見てみてください。


単位:%(決算額ベース)

少々わかりにくいグラフですが、これは地方税収(決算額ベース)における各税の比率を表したものですが、そもそも特別区は法人市町村民税や固定資産税が入ってこないので、ほとんど個人の市町村民税です。

両区で、均等割と所得割の比率を比べてみると、北区は個人均等割、港区は所得割が高いことがわかります。

これは言うならば、港区は所得が高い人が多くいるために、所得割の税収の比率が高いことが伺えます。

恐らくこれが港区の財政が豊かである理由と考えられます。

北区は、逆に財政力指数がかなり低く特別区財政調整交付金への依存度が高いわけですが、「その要因として、少子高齢化の進展が著しいことが考えられ、ファミリー層などの担税力のある世代の定住化を図り、バランスのとれた人口構成の実現に努めていく必要がある。」と総括しています。

歳出の状況

ここからは歳出の状況です。性質別で見ていきます。


単位:%(経常経費充当一般財源等)

一時的な要因を除くべく、経常的な費用に充当される一般財源の金額を示す「経常経費充当一般財源等」の比率で確認していきましょう。

義務的経費ですが、これは、人件費、扶助費 (生活保護費、児童福祉費老人福祉費など) 、公債費など、その支出が法律上義務づけられたものや国の指示によって事実上強制されるもので、任意に節減できない極めて硬直性の強い経費とされています。

北区は50.5%と経常経費充当一般財源等の半分を占めるのに対し、港区は30.5%にとどまっています。

実はこの義務的経費の類似団体平均は45.3%となっており、北区はそこから少し高い水準です。

港区は、義務的経費のうち人件費の比率が類似団体で最も低い水準です。公債費もそれに近い水準です。


港区の各義務的経費の経常収支比率の推移

では、港区は特別にそれらの金額が低いかというとそうでもなさそうです。

港区の人口一人当たりの人件費は70,318円で、類似団体平均 58,505円と、実は平均より高いです。

ではなぜ人件費の経常収支比率が低いかと言うと、考えられるのは、分母となる経常一般財源等が潤沢であることが要因ではないかと考えられます。

つまり、かかった経費以上に財源が豊かということです。

これは一見いいことにも見えますが、財源の豊かさの陰に隠れて何らかの高コスト体質が見過ごされている可能性もはらんでいます。

義務的経費以外では、物件費が港区において比率が高くなっています。

物件費とは、人件費、維持補修費、扶助費、補助費等以外の地方公共団体が支出する消費的性質の経費の総称で、旅費、交際費、需用費、役務費等が含まれています。

港区は、物件費が人口一人当たり128,742円と類似団体平均 54,955円の2倍以上に上っています。

これについて、港区は、「経常一般財源を財源とする物件費は、児童発達支援センター管理運営等に要する経費等の増により、前年度比3.5ポイント増加し、比率計算の分母である経常一般財源等の総額が前年度比1.6ポイント減少した結果、物件費の割合は前年度比1.6ポイント増の31.4%となりました。
人口増に伴い、増加が続く物件費については、港区財政運営方針(平成29年度~平成34年度)において経常的経費の節減を掲げており、効果性・効率性の観点から経費を節減していきます。」と分析しており、人口増に伴う経費の増加が影響しているようです。

実際、港区は2016年度から2020年度にかけて人口が6%程伸びており、数にして1万5千人以上増えていることから行政需要は伸びていると考えられます。

そう考えると物件費が増えるのも致し方ないと考えられます。

北区はと言うと、逆に物件費の経常収支比率が低く、類似団体平均21.9%を下回っていますが、「物件費は、清掃事業費の増などにより、前年度から1.1ポイント悪化し、20.3%となった。事業の外部化や管理経費の増加に伴い物件費は高止まりの状況が続いているが、競争性を確保した調達を進めるなど、コストの抑制、削減に努めていく。」としており、経費節減への努力の跡がが伺えます。

一方、繰出金について言うと、北区は港区の倍の比率となっています。

繰出金とは、会計間相互に支出される経費をいい、ここでは一般会計から介護保険事業会計や後期高齢者医療保険事業会計と言った特別会計や公営企業への言わば仕送りのことを指します。

北区の繰出金の経常収支比率は、徐々に上昇傾向で、金額も右肩上がりです。

北区の繰出金の経常収支比率の推移


北区の繰出金の推移(単位:千円)(経常経費充当一般財源等)

繰出金の経常収支比率は、類似団体平均が9.0%ですので、北区は少しそれより比率が高いと言えます。

北区は、「繰出金は高齢化による介護給付費の増などにより今後も増加が見込まれるほか、維持補修費は施設の経年劣化による増加が見込まれる。施設の計画的な維持保全に努めるとともに、介護予防の推進等により経費削減に努めていく。」としており、他の自治体同様、高齢化が繰出金の増加となって財政を圧迫する構図となっています。

一方、この点では港区は問題が顕在化されていないようです。

北区の繰出金の経常収支比率の推移

港区の繰出金の経常収支比率は上下動は多少あるものの、5%前後と類似団体平均と比べてかなり低い水準にとどまっています。

実際2021年1月1日現在で、港区の生産年齢人口(15~64歳)の比率は69.1%と特別区全体の67.2%より高く、さらに老年人口(65歳以上)の比率は17.1%と特別区全体の21.5%より大分低めで、千代田区の16.7%に次ぐ水準です。そして、年少人口(0~14歳)は13.9%と23区の中で最も高く、港区は若者の多い街と言えるでしょう。

その点、北区は生産年齢人口(15~64歳)の比率は64.8%、年少人口(0~14歳)は10.5%となっていますが、老年人口(65歳以上)の比率は24.7%と23区の中で最も高い比率となっていますので、高齢者の割合が高いです。

こうした人口構成の違いも、もしかしたら繰出金の経常収支比率等の違いに影響しているかもしれません。

ただし、港区の人口一人当たり繰出金は、22,276円と類似団体平均の 22,640円と大差ない水準であるため、ここでも元々の税収の多さに助けられている側面もあることは付言しておきます。

有形固定資産減価償却率(公共施設等の老朽度)

見過ごしてはならないのは有形固定資産減価償却率です。

これは、有形固定資産の老朽化度合を測定する指標で、減価償却がどの程度進行しているかを示し、100%に近いほど保有資産が法定耐用年数に近づいていること(=施設が古びている)を意味します。
(赤:各自治体 青:政令市平均)

港区


北区

北区は平均並みの有形固定資産減価償却率ではありますが、港区は大きく平均より抑えられています。

港区は、「口増加に伴う様々な施設需要に対応していることなどから、類似団体と比較して、各施設の有形固定資産減価償却率は低い水準になっているといえます。」と総括しており、人口増加に伴い施設の新設や改修を行ったたことで、結果的に有形固定資産減価償却率の抑制が実現されているのかもしれません。


港区の各施設は、いずれも平均より減価償却率が低いか平均並みの水準ではありますが、図書館等の一部は平均よりやや減価償却率が高い状況であることは付言しておきます。

一方、北区の有形固定資産減価償却率について資産別に見ていくと、


北区

学校施設は、有形固定資産減価償却率が類似団体平均より大幅に小さい状況ではあるものの、


北区

認定こども園・幼稚園・保育所等は、逆に類似団体内で最悪レベルとなっております。

ここらへん、果たして子供向けの施設の更新などについて、しっかりしたイズムがあるのか疑問に思えます。


北区

ただ、図書館は有形固定資産減価償却率がかなり低い状況であり、必ずしも学びの場が蔑ろにされている状況ではないと言えると考えられます。

北区によると、「平成20年度に最も規模の大きい中央図書館を建替えたため、低くなっている。」とのことです。


北区

他方、北区の庁舎は、類似団体平均より大きく劣後しております。

北区は、「耐震性や老朽化など現庁舎の現状と様々な課題を踏まえ、平成29年度には国立印刷局王子工場用地の一部を新庁舎建設予定地とすることを決定した。」とありますが、果たしてその新庁舎にどれだけのお金がかかるのか、区の財政負担を少しでも低く抑えられるかが、大きなポイントと言えそうです。

収支の状況

では、収支の状況を見ていきましょう。

歳入と歳出の差額から、翌年度繰り越すべきお金を差し引いたものが実質収支です。


単位:千円

実質収支には、前年度から持ち越されているものもあるため、ストック性があるため、純粋なフローを見るとなると単年度収支(=今年度と前年度の実質収支の差額)を見たほうが、より収支というイメージに近い数字を見ることができます。

港区も北区もともに黒字推移なので、ひとまず問題ないと考えられます。


単位:千円

単年度収支は、両区とも赤字と黒字を繰り返していますが、港区の方が赤字の時の幅が小さい年度が多いように思います。

単年度収支の金額は、基金への積立金や市債の繰り上げ償還等は差し引かれていますし、基金の積み立てを取り崩した金額は逆に上乗せされています。

そのため、これらを逆にすれば、さらに実態に近いフローの状況を確認できます。

積立金や繰り上げ償還等は足し上げ、基金の取り崩しは、差し引くと、実質単年度収支という数字になります。


単位:千円

毎年の積み立て額は多少上下動はあるものの北区の方が変動幅が大きいようです。

繰上償還金は両区ともに行われていません。

積立金の取り崩し額は以下のとおりです。


単位:千円

港区は、2016年度に300憶以上も取り崩しています。

当時港区は、「震災復興基金への積立てや郷土歴史館等複合施設(ゆかしの杜)整備などにより、過去最高の決算額となった歳出を賄うため、
これまで計画的に積立ててきた財政調整基金の取崩し」を行ったと総括しています。

一過性の支出に対応する使い方で、財政調整基金の目的に合致した使い方と言えるかもしれません。

ここで、基金の状況を見ておきましょう。

単位:千円


単位:千円



単位:千円

貯金にあたる財政調整基金や特定目的基金はいずれも港区の方が潤沢ですが、北区は減債基金を積み立てており、将来の償還への備えを多めに行っていると言えるでしょう。

ただ、港区はそもそもで地方債残高は極小ですので、過分に備える必要はないと言えるでしょう。

とはいえ、地方債残高の40%近くもの水準で減債基金を蓄えているため、北区は北区で十分すぎるくらいの備えができているとも考えられます。


単位:千円

これらを踏まえて、実質単年度は以下のとおりになります。


単位:千円

実は両区ともほとんどが赤字となっています。

これは恐らく両区とも行政需要が旺盛で将来に備えて積み立てていた基金を吐き出しているフェーズにあるからと言えるかもしれません。

ただ、先述のように支出の構造が異なるためそこは注意が必要かもしれません。

まとめ

以上、港区と北区の財政について比較してきましたが、私はこのnoteでどちらかを上げ、どちらかを下げたいわけではありません。

比較を行うことで、両者の特徴のようなものが浮き彫りになることを狙ったものです。

全体的に北区が劣っているかのような記述にも見えますが、必ずしも北区は財政不安があるというわけではなく、基礎自治体の中でも良い方の部類に入るのは、地方債残高に対して潤沢な減債基金がそれを物語っています。

ただ、港区は財政力指数が1を大きく上回るため、かなり財政は豊かと言えます。

そのため、港区と北区で求められる政策は違ってくるのは当然で、北区は老朽化した施設の改修や高齢化に伴い膨張する経費をどのように抑えていくかという観点での政策が必要でしょう。

幸いなことに近年住みたいランキングに北区の赤羽がトップに選ばれ、現役世代が流入する等の良い流れができていますので、北区が目指す生産年齢人口の増加に追い風が吹いています。

この流れを如何に定着させるかという観点での政策も必要かもしれません。

一方、港区は人口増に伴い膨張する行政需要を賄うため如何に施設等を作りそれにこたえるか、また、税金を取りすぎているとも言えるので、例えば住民税減税や給付金等で集めた税金を区民に還元する政策も求められるのではないかと思います。(港区民は収入も良いでしょうから、経済的生活困窮者も少ないと考えられるので、港区においては減税の方がベターではないかと個人的には考えます。)

統一地方選における何らかの判断材料になれば幸いです。


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