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VRで亡き夫に会えば満足?:21世紀の老年のウェルネス

米国在住スミさんが、東京の友人コイさんと、哲学・テクノロジー・歴史などについて毎週Facetimeでトークします(第18回)。

1.なぜ人間は、蝶から幼虫になるのだ

図22

(…Facetimeの呼び出し音)

ーやっほー。

こんにちは、コイさん。
日本は暑いんですか、ぐだっとして見える。笑

ー暑い。とける。先週は具合悪かったし。

笑。室内外で気温も違うし、エアコンつけると乾燥するしね…
最近やる気ないの?コイさんの中で何がブームなの?

ーうーん。
この前人と会ったときは、「おじさんの孤独」問題で盛り上がったかな。
これからの時代、大事なイノベーションはウェルネスだと。

なるほど。
2年前くらいに、一度世間の耳目を集めるブームが来てましたよね。イギリスの孤独担当大臣とか。

ーでもブームは一旦去ったかもしれないけど、解決されてなくない?笑

うん。特に老後で、社会との関わり合いがなくなると余計…

ーそうね。

いくら楽しい人生を過ごしても、自分が老いて死ぬ、最後の時間が寂しくて終わる、って悲しすぎる。
少し前に、萩原朔太郎の文章を読んで激しく頷いてしまったもの。

萩原 朔太郎『老年と人生』より一部抜粋:
 神が何故に人間を、昆虫のように生態させてくれなかったか(中略)。
 昆虫の生態は、幼虫時代と、蛹虫時代と、蛾蝶時代の三期に分れる。幼虫時代は、醜い青虫の時代であり(…)そして飽満の極に達した時、繭を作って蛹となり、(…) 美しい蝶と化して、花から花へ遊び歩き、春の麗らかな終日を、恋の戯れに狂い尽した末、歓楽の極に子孫を残して死ぬのである。
 だが人間の生態では、この順序が逆になっている。
…」 

ー若い頃に蝶として羽ばたいて、青虫として死ぬ、と。

はい。

ーしかし女性はまだしも、男性のほうがもっと辛いよ。

なんでですか。笑

ーおばちゃんや、おばあちゃんって、近所付き合いやお母さん同士とか、老いても社会やコミュニティとのつながりが結構しっかりあるじゃない。
その一方でおじさんって、仕事辞めておじいちゃんになると、日がな家にいて読書して近所に友達もいない…みたいな。

なんですかそのステレオタイプ。笑

ーもちろん、社交的なおじさんもいるよ。でもなんとなく、無い?

まあ、わかります。
うちも、祖母は近所で仲良いし、お友達とお茶会したり、外との関わりがあるけど、祖父は寡黙でずっと家にいて、近所に友達いなかったと思うなあ。

ー俺もこのままではそうなりそう…

笑。生物学的な男女差とかがあるのかしら。

ーうーん、仕事がひとつ要因になってそうじゃない?
「男性が働く!」みたいな時代を過ごした人達は、コミュニティも生き甲斐もアイデンティティも、仕事に依存してたんじゃないかなあ。

なるほど。それが退職すると、一気に失われて新規構築が難しいと。
それはそうかも。

ーでしょう。
逆に俺のおじいさんは、あんまり仕事を真面目にやってない人だったんだけど、その分、老いてもいろんなコミュニティに顔出して友達も多かったよ。

へえ、それは素敵ですね!

ー生きることを、仕事に依存してなかったのかも。
仕事の名刺に頼らず、第2、第3の名刺をつくっていくということかな。

そういう意味では、今は状況は少しずつ変わってきてるかもですね。
学生の職業選びの視点とかも。

ーそうね。この10年で生き方の幅ってかなり広がったよね。

うん。そういう意味では、「ワークライフバランス」って、今だけじゃなくて未来のためでもある気がするな。

ーうーん、趣味を増やして、もっと社交的になるか・・・笑

2.身体的な制約にを超えた素晴らしいVR…本当?

図23

笑。
でもね、私が心配してることが一つあって。

ーなんですか。

自分のおばあちゃんとか見てると、大病はしてなくても足腰が痛くてそんなに外出出来なくて。
自分のやりたいことを、気軽には出来ないんですよ。

ーそれはそうだよねえ。

楽しいことが老後にどんどん減ってしまうのって、すごく怖い。
だから、身体的な制約を取り払ってくれそうなAR・VRにはすごく期待してる。笑

ーえー、そう?笑

はい。バーチャルな世界で不自由な体を抜け出して、おばあちゃんになっても人生を楽しめるようにしてほしい。

ーそうかねえ。VRで、亡くなったおじいちゃんの若かりし頃ともう一度デートするとかそういうこと?
2年前に、総務省から出た未来小説にそんな一説があったけど。

”総務省「未来をつかむTECH戦略」等の公表”より
『小説「新時代家族~分断のはざまをつなぐ新たなキズナ~」』
※下図をクリックしてリンク


図8

うん、それもいいかもね。
あとは足が悪くなってもマチュピチュを好きに遊べるとか。

ーそうかねえ。
それこそディストピア的な世界じゃないかしら。

そうかな。

ーどっちが本当かわからなくなって、不自由な現実に帰ってきたくなる気がする。

別にそれでもいいじゃないですか。AR・VRの世界のほうが幸せなら、帰ってこなくても。
そういえばトム・クルーズが出てたSFでも、そんな件があったな。

ーいやいや、バーチャルな世界にずっといられたとしても、空しくなると思いますよ。

3.死ぬまで生きる、ウェルネスの時代

図24

そう?

ーリアルかバーチャルによらず、誰かや何かのために生きられないと、生きる意味って失いそうじゃない?

んー。

ーうちの母親は、父親が亡くなってから一人暮らしで寂しいだろうけど、庭で植物育てるのとか楽しんでるよ。

お世話してお花が咲くのって、楽しみのひとつだよね。

ー逆に、亡くなったバーチャルなおじいさんとデートしても、追体験は出来たとしても新たな喜びってあるのかねえ。

まあ確かに、自分のためだけに何かし続けるって、意味を見出せなくなるかも。
VRでの追体験と、孤独解消は本質的に違うことか。

ーそうじゃないかな。

そうね。
「自分が何かしたら現実に相手がこう変わった」、っていうところに自分の生きる意味が見いだされるってことかもね。

ー”友達と話してお互い楽しかった”でも、”植物に水やりして育った”でも。

そういう意味では、老いてたとえ身体的な制約があても、誰かのために何か出来る仕組みをつくる、っていうのがこれからのウェルネスかな。

ーそうだね。
おじさんだけに限らない、全人類に大事なことだね。笑

自分に遅かれ早かれダイレクトにかかわることだから、本当関心ある。
でも、テクノロジーが発展して、その仕組みの可能性ってどんどん広がってると思うな。

ークラウドファンディングとか、リモートで話すとかね。

VR・ARもそういう使い方ができるといいな。

ーそうね。我々の未来のためにね。笑

やっぱり将来に希望が持てないと。笑

ーじゃあ今日はこのへんで。

はーい。ではまた。
熱中症にはお気をつけてくださいね!

(…Facetime終了)

★参考文献★
『世界一孤独? 日本の中高年男性が絶対無視できない「悲しき未来」』赤川 学https://gendai.ismedia.jp/articles/-/55420
『老年と人生』萩原朔太郎(青空文庫)
『未来デザインチーム 小説「新時代家族~分断のはざまをつなぐ新たなキズナ~」』総務省 https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/02tsushin01_04000517.html


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!嬉しいです☺︎